エンジェル参戦
2
霧隠シュラは自室のソファで携帯電話の画面を見つめ、つぶやいた。
「うぜぇ」
「……どうしたんですか、シュラさん」
部屋に入ってきたばかりの奥村雪男が聞いてきた。正十字学園の制服でもなく、祓魔師の格好でもなく、私服で、手提げの白いポリ袋を持っている。
一方、シュラは華やかな柄の浴衣姿である。寝間着にしているものだ。今は夜だから、部屋でくつろいでいる。
シュラは携帯電話を操作し、画面に表示されていたものを消した。
「アーサーからメールが来た」
「そのアーサーさんって、もしかして」
「ああ、現・聖騎士の、だ」
眉間にシワを寄せてシュラは答えた。
「明後日、こっちに来るそーだ。まあ、勝手に来ればいいんだが、遅ればせながらメフィストがアーサーの聖騎士就任の祝賀会をするらしくって、それに必ず出席するよう言ってきた」
「……へえ」
なぜか雪男の反応は暗い。
それにはかまわず、シュラは腹立ちをそのまま口にする。
「なんで、そんなこと、メールで命令してくるんだ!」
「それは、あのひとがあなたの直属の上司だからでしょう」
雪男が冷静に指摘してきた。
うっとシュラは、一瞬、言葉に詰まった。雪男の指摘は的確すぎた。
しかし、すぐに気を取り直して、言う。
「だいたい、ヤツが聖騎士に任命されたのは、去年の夏休み中で、今は春休み中だぞ。遅ればせながらって、遅すぎじゃねーか」
シュラは携帯電話を近くにあるテーブルの上に投げ出した。
そのテーブルに、雪男は持っていた白いポリ袋を置き、それからシュラの横に腰をおろした。
けれども、シュラの関心は白いポリ袋のほうに行く。
シュラはテーブルのほうに身をかたむけ、白いポリ袋をつかんで膝の上に載せた。
袋の中のものを取り出す。
スルメや柿の種である。
シュラは眼を輝かせた。
「ありがとう、雪男……!」
「……僕としては、酒のツマミがない時点で、酒を呑まないという選択肢を選んでほしかったんですが」
「そんな選択肢は最初からありましぇーん」
陽気に言い返すと、シュラはビールを持ってくるために立ちあがる。
うきうきと冷蔵庫のあるほうへ向かう。
歩きながら、思い出していた。
雪男から携帯電話に連絡があり、今からそちらに行きたいと言われた。
そのときちょうどシュラは酒のツマミを買うために部屋を出ようとしていて、それを伝えると、雪男は自分が買って持って行くと言ったのだった。
自分で買いに行っても良かったのだが、まあ、楽をさせてもらったと思う。
ささやかなこと。
でも、なんだか、ちょっと嬉しい。
シュラは冷蔵庫から缶ビールを二本取り出すと、ソファのほうに引き返す。
ソファの近くまできたとき、テーブルの上にある携帯電話が鳴った。
だから、シュラは缶ビール二本をとりあえずテーブルに置き、携帯電話をつかみあげた。
携帯電話を確認する。
新着メールだ。
それをシュラは読む。
そして、眉根を寄せた。
「意味不明だ」
「なんですか、一体」
「またアーサーからメールが来た。祝賀会にはちゃんと盛装して来い、オレがエスコートするからってさ」
ふざけているのだろうかとシュラは思った。
携帯電話をふたたびテーブルに置き、その代わりのように、缶ビールを一本、手に取る。
シュラはソファに無造作に腰をおろした。
そして、缶ビールを開けようとしたとき、隣で雪男が言った。
「アーサーさんはシュラさんが好きなんじゃないですか?」
「はあ!?」
思わず、シュラの手が止まった。