エンジェル参戦
4
良い天気だ。
風はまだ少し冷たいが、穏やかな春の陽ざしが降りそそいで、日中は外でも過ごしやすいだろう。
天気につられて、シュラの機嫌も良い。
廊下を歩く足取りは自然に軽くなっていた。
その足を止める。
部屋の扉のほうを向いた。
ここは正十字学園の最上部にあるヨハン・ファウスト邸、眼のまえの扉の向こうにはメフィストがいるはずである。
朝、シュラの携帯電話が鳴って、メフィストに呼ばれたのだった。
なにか緊急事態でも起こったのかとシュラの眠気は一気に吹き飛んだのだが、そういうことではないらしくメフィストの声は終始のんびりしていた。
シュラは扉をノックした。
すると。
「どうぞ」
扉の向こうからメフィストの声が聞こえてきた。
だから、シュラは部屋の中に入った。
広くて優雅な部屋である。
部屋に入って少し進んだところには、一人がけのソファが三つと円形のローテーブルが置かれている。
そして、さらに奥には、高い天井近くまで伸びる縦長の窓を背景に、どっしりとしたデスクがある。
そのデスクにメフィストがいる。
いや、そこにいるのは、メフィストだけではない。
シュラは驚いた。
眼が合った相手は、快活に笑う。
「おはよう、シュラ」
アーサーだ。
直後、シュラの頭に昨日の夜にあったことがよみがえってきた。
昨夜はアーサーの聖騎士就任祝いのパーティーで、それに出席したシュラはアーサーと部屋にふたりきりになったときに襲われたのだった。
しかし、アーサーはシュラを襲ったことなどなかったような顔をしてメフィストのデスクの近くに立っている。
「どうかしましたか、霧隠先生?」
メフィストが問いかけてきた。シュラが部屋に入ってすぐのところで足を止め、デスクのほうへ近づいてこないのが不思議なのだろう。
「……いや、なんでもない」
シュラはふたたび歩き始めた。
本当のことを言う気にはならない。
そこにいる男に、昨夜、襲われました、なんて。
そのシュラを襲った男は端正な顔に笑みを浮かべたままでいる。
どういうつもりなのだろう。
だいたい、なぜ、この部屋にいるのだろうか。
シュラはメフィストのデスクの近く、しかし、アーサーには近づきすぎない位置で、立ち止まった。
それから、メフィストに問う。
「アタシを呼びだした用件はなんだ?」
「ああ、それはですね」
メフィストは愉快そうに笑い、楽しげな声で答える。
「エンジェルが日本観光をされたいそうなので、貴女にガイドをお願いしたいのです」
「はぁ!?」
思わず、シュラは声をあげた。