エンジェル参戦
「……そろそろ行きますか」
そう雪男が提案してきた。
「ああ」
シュラは同意して、身体をわずかに退いた。雪男の腕が離れていく。
横に並ぶ形になると、歩きだす。
出入り口のほうへと向かう。
途中で灯りを消した。
そして、部屋から出る。
出た直後、ふいに、シュラの耳によみがえってきた。
おまえが欲しい。
アーサーの声だ。
思い出して、胸に苦い物が走った。
同時に、頭に疑問が浮かぶ。
なぜ、あんなことを、いきなり。
性的欲求が溜まっているのかとも思ったが、たとえそうだったにしろ、シュラにそれをぶつけなくてもいいだろう。
アーサーは強く、頭も良くて知識が豊富で、美形と言っていい容姿の持ち主である。
当然、モテる。相手には困らないはずだ。
一夜限りでもいいからアーサーと関係を持ちたいと憧れる女性もいるらしいとシュラは聞いたことがある。
それなのに、なぜ、自分に。
単なる肉欲でないとしたら、精神的なものなのか。
アーサーになにかあったのだろうか。
聖騎士に就任して、祓魔師の頂点に立ち、それだけ責任が増したはずである。
その責任の重ささえ、アーサーは平然と背負う気がする。
だが、やはり、背負うのが大変なこともあるだろう。
大丈夫なのだろうか。
「シュラさん」
雪男に呼びかけられて、シュラはハッとする。
つい考えこんでしまっていた。
なにを考えていたのかを問われたくない。
ごまかすために、シュラは思いついたことを口にする。
「なあ、雪男、もう帰らないか?」
明るく笑って見せる。
「もう充分、酒を呑んだしなっ」
そう軽く言うと、シュラは隣にある雪男の手をつかまえた。
雪男の表情がふっとやわらいだ。
「そうですね。帰りましょう」
その返事を聞いて、シュラは安心した。
パーティー会場のほうではなく、帰るほうへと進んでいく。
歩きながら、ふたたび、アーサーのことを思い出した。
あんな行動に出たアーサーが気になる。
機会があれば探りを入れよう。
そう決め、しかし、今はこれ以上はアーサーについて考えないことにして、シュラは雪男と手をつないだまま帰り道を歩いた。