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理想郷に一人きり

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1.

「……貧弱なものだな、ここのセキュリティは」
 眉一つ動かさず、カイトは無感動に嘯いた。
 ハートランドとは雲泥の差だ。もっとも、機密情報の塊であるあの場所と比較するのは酷というものだが、それを差し引いてもお粗末過ぎる。小型ロボット一機はおろか、人一人が敷地内に侵入してもお咎めなしだとは。
「ええい、オービタルは一体どこをほっつき歩いている」
 カイトは忌々しげにつぶやいた。ここにオービタル7本人(?)がいれば即座に振り上げたであろう拳は、しかしぎりりと握り締められただけだ。
 見つけたらどうしてくれよう。あの小型ロボットに叩きつけるべき言動を何通りもシミュレートしながら、カイトは肩をいからせ歩き続けた。――ハートランドシティの中学校の校舎、その廊下を。

 事の発端は、「この世界の物ではない変なペンダント」の情報だった。
 ナンバーズをこの世界に持ち込んだオリジナルを探す。そんなカイトの求めに応じてオービタル7が持ち出してきたのがペンダントについての情報。カイトの最終目標に役立つのかはさておき、それは謎を解き明かす手掛かりの一つになりうる物だった。真相を知る者――Dr.フェイカーやMr.ハートランドが一様に口を噤んでいる現在においては。
 ペンダントを所持していたのは、先日デュエルをしたナンバーズのデュエリスト、九十九遊馬だった。彼とのあの日のデュエルをカイトは覚えている。最後の攻撃が決まる寸前に弟のハルトが倒れてしまい、やむを得ずナンバーズの捕獲をあきらめ勝負を預けることになったあのデュエルを。
 追い求めていた青い鳥は、意外な場所に潜んでいた。この世界の物ではないという物騒なシロモノを、知ってか知らずかペンダントにしているその神経が、カイトにはどうも信じ難いものだったが。
 カイトはオービタル7に九十九遊馬に関する詳しい情報を収集させた。今度こそ彼の持つナンバーズを捕獲し、そのついでにあのペンダントを奪う。そのつもりだったのだが。
 カイトが朝起きて行ってみれば、コンピュータの前にオービタル7の姿は影も形もなかった。ディスプレイに残されていたのは、九十九遊馬の詳細なプロフィールと、彼の通う学校への地図と、彼が属するクラスの時間割。どう見てもオービタル7の行き先と目的は明白だった。
「オービタルめ……」
 オービタル7への恨み言は、今朝だけでもう数え切れないほどだ。 
 便利な移動手段が勝手に出歩いてしまっているので、カイトは徒歩で中学校まで行く羽目になった。おまけに、標的である九十九遊馬の前にまずオービタル7を探さねばならない。ナンバーズハントは、カイトとオービタル7が揃ってこそ円滑に進められるのだ。
 考えるに、オービタル7はカイトからのこれ以上の叱責を恐れ、独断でペンダントの回収に踏み切ったのだろう。回収する相手が普通の人間ならば、それでもよかったかもしれない。だが、今回の相手はナンバーズのデュエリスト、しかもナンバーズの複数持ちだ。ペンダントを奪取して終わりではない。いつか必ずナンバーズを捕獲しなければ、カイトの最終目標は果たされないままだ。
……この時点でカイトは、学校内でのナンバーズハントを想定していた。
 ナンバーズのデュエリストにとって、学校は神聖不可侵な安全地帯にはならない。D-パッドとD-ゲイザーのおかげでいつでもどこでも誰でもデュエルができるように、ナンバーズハントもまた時と場所と場合を選ばないのだ。魂を狩るのに余分な目撃者が多いという最大の問題も、オービタル7の時間停止能力にかかればたちどころに解決してしまう。

 九十九遊馬。ハートランドシティ在住の十三歳。祖母と姉との三人暮らし。両親は現在二人とも行方不明。学校の成績は中の下の、どこにでもいるような中学生。
 カイトはオービタル7を探しつつ、彼がネットの海からありったけかき集めてきた情報を頭の中で反芻する。
 Mr.ハートランドはカイトに語った。ナンバーズを操る者は邪気に取り憑かれ、欲望を増幅させた悪党なのだと。だから、彼らの魂の行方をカイトが気にする必要はないのだと。
 しかし、あの雨の日の九十九遊馬の行動は悪党とはほど遠いものだった。九十九遊馬のナンバーズが何の欲望を増幅させているかは不明だが、ただの悪党が誰かをかばってトラックに轢かれかけるものなのか。自分の命を危険にさらしてまで。もしオービタル7の時間停止が一秒でも遅れていたら、彼は確実に交通事故にあって死んでいたに違いない。
 九十九遊馬。どこにでもいるような、何の変哲もない中学生。ただしその身には多くの謎が隠されている。

作品名:理想郷に一人きり 作家名:うるら