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出来損ないのラブコメディ

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 少年は皆、いつだって自分のことを理解していないものだ。
 再び地面が揺れ、甘い雰囲気は敢え無く破られた。二人は先程と同じく息を呑み、体を強張らせた。しかし思考は停止していない。共に自分たちの運命を自然の摂理のように理解した。即ち被食者としての直感。人が時折発揮する驚異的な第六感――遂に、食われる時が来たと。
「――」エレンは咄嗟に親指の付け根辺りを噛んだ。さんざ噛まれ露出していた肉が抉られる。新たな血が流れる。だが彼の祈りは届かない。構わずエレンは、餓死寸前の獣さながらの剣幕で己の肉を噛み切り続けた。一方ジャンの心の中では感情が事務的に整理されていた。死を受け入れるために。
 地響きが大きくなるに連れ、エレンの顔から粗暴が削げ落ち、代わりに絶望が陰を落としてゆく。歯を折られた窮鼠の表情だ。やがて地響きが一際大きくなり、止んだ。それからボキボキと音がしたかと思えば、太い枝が落ちてきた。顔を上げると大きな眼がこちらを覗き込んでいた。
 巨人と目が合った瞬間、死とは、不可能とはどういうことかをジャンは瞬時に悟った。ほぼ無意識にエレンを横目で見遣る。彼は刃を構えていた。しかしその切っ先がぶれるほど大きく震える体のなんと危なげなことか。今にも零れ落ちそうなほどの涙に潤んだ瞳の、なんと不安げなことか! 圧倒的な恐怖により理性を引き剥がされた彼は、狂気の人ではなかった――自分と同じ、ちっぽけな人間だった。
 その時、ジャンはようやく気付いた。どうして辛くなったのか。そしてどうしてそんな簡単なことに、気付かないふりをしていたのか。それは届かぬと思っていたからだ。自分の言葉は彼の心には届かぬと。子どもでも語らぬ夢物語を理想として易々と掲げ、己が命を燃料にひた生きる彼には。
 ジャンは現状を鑑みてから微笑みを浮かべた。おかしくてならない。これでは本当に喜劇の登場人物のようだ。いや、それ以下だ――出来損ないの劇に、出来損ないの登場人物。
「――エレン」
 巨人が手を降り下ろし、まずエレンの細い体を掴んだ。
「俺はお前が」
 最後の言葉は届いただろうか。分からない。もう永遠に。ただ腰を握り潰された時のエレンの声がいかに言語化かし難いかは分かった。鳥か、或いは立体機動の外の部品を加工する機械があんな音を出していたような気がする。さらにエレンの体は随分引きちぎりやすいようだ。あんなに容易く、何度も折られて、霜柱より脆いのではないだろうか。対人格闘で敵わなかったのが不思議なくらいだ。

 エレンを完食した巨人がジャンに手を伸ばす。ジャンは凍てついた湖の底のように静かな気持ちで運命を享受した。巨大な手がジャンの上半身を鷲掴みにする。その後は喜劇にて語られることではない。斯くして物語は終幕する。