太刀川ミミの素朴な愚痴
「ねぇ！前々から疑問だったんだけど！」
「はい……」
「なんでガブモンじゃダメだったの？」
「………えっと」
「なんでアグモンじゃなきゃダメだったの？の答えはわからなくもないからおかしな質問かもしれないけど。でも、ねえ。あれはダメよ。タケルくんはわかると思うけど、あれはダメよ」
ちらりと視線を向けられたタケルは、言っちゃったか、と言わんばかりの顔をして小さく苦笑した。
ヒカリはあの時はまだいなかったから知らないが、正直、アグモンの暗黒進化は先代の選ばれし子供にとっては触れられたくない傷の一つだ。
今の選ばれし子供が知らない過去の出来事（まあ、タケルは例外だけれども）。
アグモンが、となると、単純に悪用されたのだという意図とは別の悪意の可能性だって考えてしまいたくなる。無論、あの出来事を把握していた訳ではないのだという事は知っているしわかっているが、あまりにも絶妙すぎる。
まあ、太一のパートナーデジモンだからこそ、常にそういったポジションに立ってしまうのがアグモンの可哀相なところなのかもしれない。先代のリーダーはいつだって何もかも背負ってしまっているから、そのパートナーも等しく何もかも背負っているのだ。
「今更こんな話ほじくり返すなんて趣味悪い女と思うかもしれないけど、多分誰も触れられないと思うから言っちゃうけど、私、その事許してないんだからね。勿論色んな事情があった事は知ってるし、『一乗寺賢』を憎んでたり嫌ってたりする訳じゃないんだけど、せめてガブモンだったらなぁと思うのよねぇ。別にいいじゃない、ヤマトさんにもそんな試練与えたって。何でいつも太一さんなのよ」
あ、ちなみに、パルモンだったら嫌ってたけどね。
と太刀川ミミは、いまいち何を言いたいのか理解していない賢に笑顔でのたまった。
最初は賢への悪意がある話かと思って見守っていた（見守ることしか許されなかった）大輔達だが、どうやら話はそういう方向のものではないと気付いて、どうしたものか口を閉ざさざるを得なかった。
ただ一人、タケルだけは何を言いたいのか理解したらしく、確かにそうかも…、と同意の言葉を紡いだ。
「でしょ、タケルくんもそう思うでしょ。ヤマトさんはいっつもいいポジションにいるのよ！冷静で慎重な、太一さんの親友っていうポジション。でも親友だから完全に対等かっていうとそういう訳じゃないと思うのよね。勿論ヤマトさんにも色々思う所はあると思う。でもね、あの人は何だかんだ言っていつも太一さんの後ろからついていっていいとこだけ持ってくのよ。ずるくない？」
「兄さんに先陣きってく度胸はないですよ」
「知ってるわ。ていうか多分ヤマトさんが先陣きってたら私達はもっと早い段階で死んでたと思うし」
「ですね」
「あの人はそういうタイプじゃないから、勿論太一さんと同じものを求めるのは間違ってるとは思うんだけど、でも、それにしたって何でもかんでもが太一さんに集結しすぎなのよ！善意や好意は勿論だけど、悪意とか敵意も全部受けちゃうじゃない？まあ、これは多分ヒカリちゃんのほうがわかってるんだろうけど。でも。でもよ！？混乱する人の横で冷静になれって殴るだけって楽なポジション過ぎじゃない？これが、ガブモンが暗黒進化して、動揺したヤマトさんを太一さんが殴って諌めたっていうのならまた違ったと思うのよね」
「兄さんがそんなことに耐えれる訳ないじゃないですか。ていうかあんな酷い事に耐えた挙句許せるのなんて太一さんくらいですよ。僕も兄さんも、少なくとも先代メンバーの中でそれに耐えれる人はいませんよ。僕もヒカリちゃんも含めて」
「タケルくん、仲間に対してなかなか凄いこと言うわね。私ですらこれでもちょっと言葉選んでたのに」
「まあ、僕も思う所はありましたから。一乗寺くんが悪いとか、責めるつもりはないんだけど、なんでよりによってそのチョイス、ってのは、まあ。でも太一さんが何も言わなかったから僕がどうこう言えることでもないかなって思ってましたけど、パタモンでやられたらぶっとばすけど、今となってはガブモンでもよかったんじゃないのかって思いますよね。兄さんは太一さんに甘えすぎてるからそれくらいの試練丁度よかったんじゃないかな」
さらりと混ぜられた本音に、賢が青い顔をしてタケルを見やる。責められてる訳ではないという事と、どうやら話の矛先が自身ではなく何故か高石タケルの兄である石田ヤマトに向けられているのだという事をなんとなく理解して黙っていたが、タケルの本音は正直とても怖い。
しかし、何となくではあるが二人の言いたい事もわかった。
多分、いつもこういう事の標的になるのは太一で、それを支えるのがヤマトだという事に対する苛立ちなのだろう。そして、支えると言えば綺麗な関係だが、辛く苦しい思いをするのがいつも太一だけでしか無い事に対する不満であり不服なのだろう。無論、そんな太一を見守る面々も苦しいが、それでもやはり矢面に立つか立たないかは大きな違いだ。
「私達の中で、太一さんとヤマトさんだけが特別な力を与えられた。太一さんはわかるわ。私達のリーダーで、いつだって先頭を走ってくれていた。どんな道かもわからないのに、いつだって一番最初を走ってくれた。でもヤマトさんはいつも二番だったじゃない。ううん、本当にいつも二番ならともかく、下手すれば一緒にすらいなかった。……まあ、別行動を選んだ事のある私が言える事でも無いんだけどね」
「それはなんていうか、あれですよ」
「なによ」
「男の友情ってやつです」
「そう、それよ！なんでヤマトさんが友情の紋章なのかってのが私、今だに不思議なのよね」
「ああ。ミミさんは兄さんの事友達とは思ってないんですね」
ヒカリを除く子供達が全員心の中で驚愕した言葉に対して、ミミは平然と同意した。
「うん。仲間だとは思ってるけど、友達だとは思ってない。けど、太一さんとか光子郎くんを通しての友情はある。だから私は、全員の友情を繋いだのは太一さんだと思うわけ」
「まあ、そうですね、それはわかります。でも、兄さんは太一さんの親友だから、友情だったんだと思いますよ。だって、太一さんの親友になれたのは兄さんだけでしたから。僕は小さかったから別ですけど、最年長だった丈さんでも、最初から最後まで太一さんを信じていた光子郎さんでもそれだけは出来なかったじゃないですか。空さんもミミさんも無理だったでしょう？ヒカリちゃんは兄妹だし」
うっ、と言葉を詰まらせたミミは手元にあるシェイクのストローを齧った。
すっかり傍観姿勢にならざるを得なかった現在の選ばれし子供達（－２。賢は今だにうろうろおろおろしている）は、そうなんだぁ、と知られざる先代達の姿に感心したような呆れたような気持ちで二人の会話を見守っていた。
ただ、ヒカリがどんどん冷たい目になっていくのがちょっと怖いなぁ、と大輔以外は思っていたが。まあ、それはそれで流石に慣れてきてはいる。ブラコンは怒らせると怖い。いや、でも、太一に何かあった時はヒカリだけではなく先代（この場合タケルとヒカリを含む）が全員何気に怖いかな。そしてそれは信頼の証であり、八神太一が今でも彼等のリーダーであるという実証なのだろうと思う。
「はい……」
「なんでガブモンじゃダメだったの？」
「………えっと」
「なんでアグモンじゃなきゃダメだったの？の答えはわからなくもないからおかしな質問かもしれないけど。でも、ねえ。あれはダメよ。タケルくんはわかると思うけど、あれはダメよ」
ちらりと視線を向けられたタケルは、言っちゃったか、と言わんばかりの顔をして小さく苦笑した。
ヒカリはあの時はまだいなかったから知らないが、正直、アグモンの暗黒進化は先代の選ばれし子供にとっては触れられたくない傷の一つだ。
今の選ばれし子供が知らない過去の出来事（まあ、タケルは例外だけれども）。
アグモンが、となると、単純に悪用されたのだという意図とは別の悪意の可能性だって考えてしまいたくなる。無論、あの出来事を把握していた訳ではないのだという事は知っているしわかっているが、あまりにも絶妙すぎる。
まあ、太一のパートナーデジモンだからこそ、常にそういったポジションに立ってしまうのがアグモンの可哀相なところなのかもしれない。先代のリーダーはいつだって何もかも背負ってしまっているから、そのパートナーも等しく何もかも背負っているのだ。
「今更こんな話ほじくり返すなんて趣味悪い女と思うかもしれないけど、多分誰も触れられないと思うから言っちゃうけど、私、その事許してないんだからね。勿論色んな事情があった事は知ってるし、『一乗寺賢』を憎んでたり嫌ってたりする訳じゃないんだけど、せめてガブモンだったらなぁと思うのよねぇ。別にいいじゃない、ヤマトさんにもそんな試練与えたって。何でいつも太一さんなのよ」
あ、ちなみに、パルモンだったら嫌ってたけどね。
と太刀川ミミは、いまいち何を言いたいのか理解していない賢に笑顔でのたまった。
最初は賢への悪意がある話かと思って見守っていた（見守ることしか許されなかった）大輔達だが、どうやら話はそういう方向のものではないと気付いて、どうしたものか口を閉ざさざるを得なかった。
ただ一人、タケルだけは何を言いたいのか理解したらしく、確かにそうかも…、と同意の言葉を紡いだ。
「でしょ、タケルくんもそう思うでしょ。ヤマトさんはいっつもいいポジションにいるのよ！冷静で慎重な、太一さんの親友っていうポジション。でも親友だから完全に対等かっていうとそういう訳じゃないと思うのよね。勿論ヤマトさんにも色々思う所はあると思う。でもね、あの人は何だかんだ言っていつも太一さんの後ろからついていっていいとこだけ持ってくのよ。ずるくない？」
「兄さんに先陣きってく度胸はないですよ」
「知ってるわ。ていうか多分ヤマトさんが先陣きってたら私達はもっと早い段階で死んでたと思うし」
「ですね」
「あの人はそういうタイプじゃないから、勿論太一さんと同じものを求めるのは間違ってるとは思うんだけど、でも、それにしたって何でもかんでもが太一さんに集結しすぎなのよ！善意や好意は勿論だけど、悪意とか敵意も全部受けちゃうじゃない？まあ、これは多分ヒカリちゃんのほうがわかってるんだろうけど。でも。でもよ！？混乱する人の横で冷静になれって殴るだけって楽なポジション過ぎじゃない？これが、ガブモンが暗黒進化して、動揺したヤマトさんを太一さんが殴って諌めたっていうのならまた違ったと思うのよね」
「兄さんがそんなことに耐えれる訳ないじゃないですか。ていうかあんな酷い事に耐えた挙句許せるのなんて太一さんくらいですよ。僕も兄さんも、少なくとも先代メンバーの中でそれに耐えれる人はいませんよ。僕もヒカリちゃんも含めて」
「タケルくん、仲間に対してなかなか凄いこと言うわね。私ですらこれでもちょっと言葉選んでたのに」
「まあ、僕も思う所はありましたから。一乗寺くんが悪いとか、責めるつもりはないんだけど、なんでよりによってそのチョイス、ってのは、まあ。でも太一さんが何も言わなかったから僕がどうこう言えることでもないかなって思ってましたけど、パタモンでやられたらぶっとばすけど、今となってはガブモンでもよかったんじゃないのかって思いますよね。兄さんは太一さんに甘えすぎてるからそれくらいの試練丁度よかったんじゃないかな」
さらりと混ぜられた本音に、賢が青い顔をしてタケルを見やる。責められてる訳ではないという事と、どうやら話の矛先が自身ではなく何故か高石タケルの兄である石田ヤマトに向けられているのだという事をなんとなく理解して黙っていたが、タケルの本音は正直とても怖い。
しかし、何となくではあるが二人の言いたい事もわかった。
多分、いつもこういう事の標的になるのは太一で、それを支えるのがヤマトだという事に対する苛立ちなのだろう。そして、支えると言えば綺麗な関係だが、辛く苦しい思いをするのがいつも太一だけでしか無い事に対する不満であり不服なのだろう。無論、そんな太一を見守る面々も苦しいが、それでもやはり矢面に立つか立たないかは大きな違いだ。
「私達の中で、太一さんとヤマトさんだけが特別な力を与えられた。太一さんはわかるわ。私達のリーダーで、いつだって先頭を走ってくれていた。どんな道かもわからないのに、いつだって一番最初を走ってくれた。でもヤマトさんはいつも二番だったじゃない。ううん、本当にいつも二番ならともかく、下手すれば一緒にすらいなかった。……まあ、別行動を選んだ事のある私が言える事でも無いんだけどね」
「それはなんていうか、あれですよ」
「なによ」
「男の友情ってやつです」
「そう、それよ！なんでヤマトさんが友情の紋章なのかってのが私、今だに不思議なのよね」
「ああ。ミミさんは兄さんの事友達とは思ってないんですね」
ヒカリを除く子供達が全員心の中で驚愕した言葉に対して、ミミは平然と同意した。
「うん。仲間だとは思ってるけど、友達だとは思ってない。けど、太一さんとか光子郎くんを通しての友情はある。だから私は、全員の友情を繋いだのは太一さんだと思うわけ」
「まあ、そうですね、それはわかります。でも、兄さんは太一さんの親友だから、友情だったんだと思いますよ。だって、太一さんの親友になれたのは兄さんだけでしたから。僕は小さかったから別ですけど、最年長だった丈さんでも、最初から最後まで太一さんを信じていた光子郎さんでもそれだけは出来なかったじゃないですか。空さんもミミさんも無理だったでしょう？ヒカリちゃんは兄妹だし」
うっ、と言葉を詰まらせたミミは手元にあるシェイクのストローを齧った。
すっかり傍観姿勢にならざるを得なかった現在の選ばれし子供達（－２。賢は今だにうろうろおろおろしている）は、そうなんだぁ、と知られざる先代達の姿に感心したような呆れたような気持ちで二人の会話を見守っていた。
ただ、ヒカリがどんどん冷たい目になっていくのがちょっと怖いなぁ、と大輔以外は思っていたが。まあ、それはそれで流石に慣れてきてはいる。ブラコンは怒らせると怖い。いや、でも、太一に何かあった時はヒカリだけではなく先代（この場合タケルとヒカリを含む）が全員何気に怖いかな。そしてそれは信頼の証であり、八神太一が今でも彼等のリーダーであるという実証なのだろうと思う。
作品名：太刀川ミミの素朴な愚痴 作家名：透香