石田ヤマトの決意と優先事項
戦いも終わり、世界は対話の道を選び、選ばれし子供達の戦いは終わった。
だから、子供達で集まる必要性が無くなって。でもやっぱり仲間という気安さからかなんとなく学校で一緒になる事はあったが、こんなにもずっと一緒にいるのは久しぶりで。
学校で集まったそのそのまま、折角だからとタケルが家に誘い、大輔も賢も京も伊織も、勿論ヒカリもその言葉に甘えて邪魔した高石家。
タケルの母親は晩御飯の買い物にと出かけたため子供達だけが残された家に来客を知らせるチャイムが響いた。
「あれ、兄さんに太一さん?どうしたの?」
予想外のタイミングでの予想外の来客に慌てて玄関の扉を開けたタケルに、太一がにっと笑った。
「丈に代わってヤマトのフォローしに!」
「メインはそれじゃないだろうが……!母さん、仕事が入ったらしいんだ」
「あ、そうなんだ」
「で、買い物預かってきたら、一緒に食べようと思ってな」
「成程。なんだっけ?鍋?」
「らしいぜ。あー……でも8人は流石に多いか。無理そうだったら俺は帰るし気にしないでくれ」
「大丈夫だと思いますよ。大人数用の鍋あるし。どうしても駄目だったら兄さんと大輔くんを帰せば問題ないですし上がってください、太一さん」
「お前最近俺に冷たくないか……?」
「だって、兄さんとはいつだって一緒に食べる機会あるけど太一さんと一緒に食べるのって最近ほんとに無いんだもん。皆が集まってる時だって僕とヒカリちゃんは呼んでもらえないし?」
何処か恨めしげに呟いたタケルの言葉に、勝手知ったる家とばかりに上がりこんでいたヤマトがギクリと肩を震わせた。
次いで、靴を脱いでいた太一が苦虫を潰したような顔をして、タケルから視線をそらした。ついでに追撃から逃げようとしたヤマトの服の裾を捕まえた。
「まあ待てよヤマト。腹割って話しようぜ、って事でここは一旦光子郎の家にでも行こうじゃないか。やっぱ8人は厳しいしな」
「いや………ああ、そうだな、そうするか…」
「嫌だなぁ二人とも、遠慮しないで上がってよ。ね、ヒカリちゃん」
「そうよ。タケルくんがいいって言うんだから一緒に御飯食べましょう。ね?お兄ちゃん」
いつから何処から聞いてたのか、いつもの笑顔を称えながら佇んでいたヒカリに、太一は了承以外の言葉を返すしかなかった。
「まあ、それはさておき、とりあえず晩御飯の準備するぞ」
見てる方が、それはどうだろうか、と思いたくなるようなピンクのエプロンを恥ずかしげもなく付けて、ヤマトが晩御飯の支度を始める。
それを当然のようにタケルが手伝うのはともかく、太一とヒカリまでそれに混ざっていて、大輔達は何かもうどこからどうつっこめばいいのかちょっとわからなくなって、素直に先輩達(この場合は年齢的な意味合いではなく、冒険の、という意味合いで)の、まるで二つのカップルみたいな四人(いや、女の子一人しかいないけどね)が手際よく行う晩御飯支度風景を見守る事に務めた。
仲の良い二つの兄弟。でしかないはずだが、何故だろう。会話とか手際とか見てると、二つのカップルにしか見えないのは何故だろう。
(いや、ヤマトには空という公認の恋人がいるのだからおかしいってわかっているんだが)
そんな仲睦まじさに大輔が地味に不愉快そうだが、正直、タケルとヒカリはそういう関係じゃないと全員ちゃんと理解している。将来どうなるかはわからないが、今は少なくともただの仲間で友達だ。無論、大輔もそうなるが。
「そういやタケルのお母さんが、泊まってってもいい、って言ってたんだけどお前等どうする?まあ、明らかに男ばっかりの中に女の子を泊まらせるのは、事情を知らないご両親にとっては不安だろうから京ちゃんは帰ったほうがいいかもしれないけどな。ヒカリはどうする?」
「お兄ちゃんは泊まるの?」
「タケルがOKしてくれりゃな。男連中なら雑魚寝でいいだろし」
「お兄ちゃんが泊まるなら私も泊まる。タケルくん?」
「僕は全然いいよ」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうか」
「うん」
「何で不服そうなのさ兄さん」
「………別に」
「結構久々に二人で遊んでたんだけど結局こうなったから不服なんじゃないの?」
「……ヒカリちゃん…」
何故それを知っている、と聞くべきか、何故それがわかる、と聞くべきか、色々思う所はあるが相変わらず真意の読めない笑顔に気圧されて、ヤマトは不服だったが口を噤んだ。基本的にヤマトは八神兄妹に勝てた事がない。あらゆる意味で。
「そういえばさっきフォローって言ったけど、丈さんから連絡でも来たんですか?」
「ん?ああ、いや、ミミちゃんから、俺宛に電話きた」
「太一さんに?うーん、太一さんにフォローお願いするってのも何か不思議なんですけど」
「いやいや、ミミちゃんからは事の経緯を笑い話として聞いただけ」
「で、丈が俺に謝罪の電話を入れてきた訳だ」
「光子郎もなんか楽しそうだったな」
「あいつ等は何故か俺の事をからかって遊ぶ相手と認識してるからな」
「正しい認識だな」
「間違ってるだろ!」
「いや、間違ってないと思うよ、兄さん」
「タケル……」
「いいじゃないか、友情の紋章だし」
「お前は友情の意味を履き違えている」
確かに。
「やっぱ鍋は大人数に限るよなぁ」
買ってきた食材は全て平らげ、締めも終わって一段落。
子供とはいえ、やはり男が揃うと量が半端ない。あと数年した時に同じメンツで食べようものならもっと悲惨な事になるだろう。
結局色々悩んだ末、全員タケルの家に雑魚寝が決定した。
流石に女の子二人は別扱いとしようと思ったのだが、本人達のたっての希望により何故か男共と一緒に雑魚寝に混ざることになった。ま、ギリギリ大丈夫かなぁ小学生だし、と年長組は呑気に考えたが賢は一人慌てていた。数少ない女の子のどちらかを意識しているのか、単純にモラル(?)の問題を考えたのかはわからなかったけども。
突っ込んで聞いてみたい気もするが、今日のメインはそんなことじゃない。多分。
「じゃあお風呂沸かすぞ。時間も勿体無いし二人ずつだな」
「まあそうだろうなぁ」
「うーん……布団、何枚あればいけるかな……」
ヤマトとタケルの両親が和解してからは、籍こそ戻していないものの、たまに家族四人で一緒に過ごしている事を太一は知っている。だから布団の数だけはこの家は多い。家族四人分と、来客用と。
タケルはかつて、こうして少しずつ家族の形が整っていく事を酷く嬉しそうに太一に話した事があった。
「しっかし修学旅行とか合宿みたいだよな、こういうの。非日常って感じでテンション上がる」
「暴れるなよ」
「このメンツで何するってんだよ。お、そういやタケルお前知ってるか!?」
「なんですか?」
「こいつ修学旅行で男に襲われたんだぜ」
「たいちいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」
「…兄さん……………そんな面白伝説作ったの……?」
「いや、アレはマジで面白かった。俺と空は大爆笑だった」
「もうほんとお前ちょっと黙ってろ!」
「夜這いかけられたとか?でも部屋って個室じゃないよね?」
だから、子供達で集まる必要性が無くなって。でもやっぱり仲間という気安さからかなんとなく学校で一緒になる事はあったが、こんなにもずっと一緒にいるのは久しぶりで。
学校で集まったそのそのまま、折角だからとタケルが家に誘い、大輔も賢も京も伊織も、勿論ヒカリもその言葉に甘えて邪魔した高石家。
タケルの母親は晩御飯の買い物にと出かけたため子供達だけが残された家に来客を知らせるチャイムが響いた。
「あれ、兄さんに太一さん?どうしたの?」
予想外のタイミングでの予想外の来客に慌てて玄関の扉を開けたタケルに、太一がにっと笑った。
「丈に代わってヤマトのフォローしに!」
「メインはそれじゃないだろうが……!母さん、仕事が入ったらしいんだ」
「あ、そうなんだ」
「で、買い物預かってきたら、一緒に食べようと思ってな」
「成程。なんだっけ?鍋?」
「らしいぜ。あー……でも8人は流石に多いか。無理そうだったら俺は帰るし気にしないでくれ」
「大丈夫だと思いますよ。大人数用の鍋あるし。どうしても駄目だったら兄さんと大輔くんを帰せば問題ないですし上がってください、太一さん」
「お前最近俺に冷たくないか……?」
「だって、兄さんとはいつだって一緒に食べる機会あるけど太一さんと一緒に食べるのって最近ほんとに無いんだもん。皆が集まってる時だって僕とヒカリちゃんは呼んでもらえないし?」
何処か恨めしげに呟いたタケルの言葉に、勝手知ったる家とばかりに上がりこんでいたヤマトがギクリと肩を震わせた。
次いで、靴を脱いでいた太一が苦虫を潰したような顔をして、タケルから視線をそらした。ついでに追撃から逃げようとしたヤマトの服の裾を捕まえた。
「まあ待てよヤマト。腹割って話しようぜ、って事でここは一旦光子郎の家にでも行こうじゃないか。やっぱ8人は厳しいしな」
「いや………ああ、そうだな、そうするか…」
「嫌だなぁ二人とも、遠慮しないで上がってよ。ね、ヒカリちゃん」
「そうよ。タケルくんがいいって言うんだから一緒に御飯食べましょう。ね?お兄ちゃん」
いつから何処から聞いてたのか、いつもの笑顔を称えながら佇んでいたヒカリに、太一は了承以外の言葉を返すしかなかった。
「まあ、それはさておき、とりあえず晩御飯の準備するぞ」
見てる方が、それはどうだろうか、と思いたくなるようなピンクのエプロンを恥ずかしげもなく付けて、ヤマトが晩御飯の支度を始める。
それを当然のようにタケルが手伝うのはともかく、太一とヒカリまでそれに混ざっていて、大輔達は何かもうどこからどうつっこめばいいのかちょっとわからなくなって、素直に先輩達(この場合は年齢的な意味合いではなく、冒険の、という意味合いで)の、まるで二つのカップルみたいな四人(いや、女の子一人しかいないけどね)が手際よく行う晩御飯支度風景を見守る事に務めた。
仲の良い二つの兄弟。でしかないはずだが、何故だろう。会話とか手際とか見てると、二つのカップルにしか見えないのは何故だろう。
(いや、ヤマトには空という公認の恋人がいるのだからおかしいってわかっているんだが)
そんな仲睦まじさに大輔が地味に不愉快そうだが、正直、タケルとヒカリはそういう関係じゃないと全員ちゃんと理解している。将来どうなるかはわからないが、今は少なくともただの仲間で友達だ。無論、大輔もそうなるが。
「そういやタケルのお母さんが、泊まってってもいい、って言ってたんだけどお前等どうする?まあ、明らかに男ばっかりの中に女の子を泊まらせるのは、事情を知らないご両親にとっては不安だろうから京ちゃんは帰ったほうがいいかもしれないけどな。ヒカリはどうする?」
「お兄ちゃんは泊まるの?」
「タケルがOKしてくれりゃな。男連中なら雑魚寝でいいだろし」
「お兄ちゃんが泊まるなら私も泊まる。タケルくん?」
「僕は全然いいよ」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうか」
「うん」
「何で不服そうなのさ兄さん」
「………別に」
「結構久々に二人で遊んでたんだけど結局こうなったから不服なんじゃないの?」
「……ヒカリちゃん…」
何故それを知っている、と聞くべきか、何故それがわかる、と聞くべきか、色々思う所はあるが相変わらず真意の読めない笑顔に気圧されて、ヤマトは不服だったが口を噤んだ。基本的にヤマトは八神兄妹に勝てた事がない。あらゆる意味で。
「そういえばさっきフォローって言ったけど、丈さんから連絡でも来たんですか?」
「ん?ああ、いや、ミミちゃんから、俺宛に電話きた」
「太一さんに?うーん、太一さんにフォローお願いするってのも何か不思議なんですけど」
「いやいや、ミミちゃんからは事の経緯を笑い話として聞いただけ」
「で、丈が俺に謝罪の電話を入れてきた訳だ」
「光子郎もなんか楽しそうだったな」
「あいつ等は何故か俺の事をからかって遊ぶ相手と認識してるからな」
「正しい認識だな」
「間違ってるだろ!」
「いや、間違ってないと思うよ、兄さん」
「タケル……」
「いいじゃないか、友情の紋章だし」
「お前は友情の意味を履き違えている」
確かに。
「やっぱ鍋は大人数に限るよなぁ」
買ってきた食材は全て平らげ、締めも終わって一段落。
子供とはいえ、やはり男が揃うと量が半端ない。あと数年した時に同じメンツで食べようものならもっと悲惨な事になるだろう。
結局色々悩んだ末、全員タケルの家に雑魚寝が決定した。
流石に女の子二人は別扱いとしようと思ったのだが、本人達のたっての希望により何故か男共と一緒に雑魚寝に混ざることになった。ま、ギリギリ大丈夫かなぁ小学生だし、と年長組は呑気に考えたが賢は一人慌てていた。数少ない女の子のどちらかを意識しているのか、単純にモラル(?)の問題を考えたのかはわからなかったけども。
突っ込んで聞いてみたい気もするが、今日のメインはそんなことじゃない。多分。
「じゃあお風呂沸かすぞ。時間も勿体無いし二人ずつだな」
「まあそうだろうなぁ」
「うーん……布団、何枚あればいけるかな……」
ヤマトとタケルの両親が和解してからは、籍こそ戻していないものの、たまに家族四人で一緒に過ごしている事を太一は知っている。だから布団の数だけはこの家は多い。家族四人分と、来客用と。
タケルはかつて、こうして少しずつ家族の形が整っていく事を酷く嬉しそうに太一に話した事があった。
「しっかし修学旅行とか合宿みたいだよな、こういうの。非日常って感じでテンション上がる」
「暴れるなよ」
「このメンツで何するってんだよ。お、そういやタケルお前知ってるか!?」
「なんですか?」
「こいつ修学旅行で男に襲われたんだぜ」
「たいちいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」
「…兄さん……………そんな面白伝説作ったの……?」
「いや、アレはマジで面白かった。俺と空は大爆笑だった」
「もうほんとお前ちょっと黙ってろ!」
「夜這いかけられたとか?でも部屋って個室じゃないよね?」
作品名:石田ヤマトの決意と優先事項 作家名:透香