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葎@ついったー
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die vier Jahreszeite 009

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フランシス手製のケーキはこの時期よく見る切り株の形をしたやつだった。
ご丁寧にプレートまでが添えられていて,チョコレートの文字で「Joyeux Noel!」と書かれている。
気障なヤツだと呆れながら,俺はチビに「それ食っていいか?プレート」と尋ねた。
こくん,と小さな頭が頷くのを待って,ホワイト・チョコレートで出来たプレートをひょい,と摘む。
歯を立てると固い音を立てて口の中に甘い欠片が転がり込んで来た。

フォークを持ったままじっと俺を見上げてくる二つの目玉。
何だよ,と目顔で尋ねると,云うか云うまいか迷うようにもじもじした後,「おいしい?」と尋ねてきた。

「あー,まぁなあ。甘いわな。……お前も食う?」

云いながらプレートを口のすぐ傍に寄せてやると,おっかなびっくり小さな歯が遠慮がちに立てられた。
ぽきりという小さな音が手に伝わるのを待って,「どーよ?」と尋ねると,はにかみながらも嬉しいのを堪えられない顔が俺を見て「おいしい」と云った。
……うわ,なんだこれ。

ガラにもなく胸がざわつく。
苛立つのとも違うし,鬱陶しいのとも違う。
なんかこう,くすぐったいような,居心地の悪さ。
その感覚の正体を探るように目を伏せると,どうやらいつものクセで眉間に皺が寄っていたらしい。
ほんのちょっと前まで嬉しそうな顔をしていたチビが小さな身体を強張らせ,フォークを握り締めたまま怯えた目で俺を見ていた。

「あー,悪い。違ぇ。別に怒ったとかじゃなくてだな…」

なんとなくしどろもどろになりながら言葉を継ぐ。
くすぐったいような感じはとっくになりを潜め,代わりに罪悪感がじわりと湧いた。
でもだからってどう説明していいかもわからず,俺はバツの悪さを誤魔化すように手で摘んでいたプレートを口の中に放り込むとばりばりと噛み砕いた。

「いいからケーキ食え」

フォークの持ち手の先をちょん,とつつきながら云ってみる。
チビは戸惑ったように俺の顔をじっと見た後,視線をそろそろとケーキへ移した。
怯えた顔がほんの少しだけ和らぐ。
そしてゆっくりと,丁寧な手つきでフォークを使い,一口分を切り分けると,それを俺の方へ差し出した。

「へ?俺に?」

震えるフォークの先を見ながら,思わず素っ頓狂な声が出た。
チビはケーキのかけらを落とすまいと真剣な顔で手を止めながら,こくん,と頷く。
いいよお前先に食え,と云いかけて,その真剣な顔に言葉を飲み込む。
まー,いっか,と思いながら口を開けてフォークの先からケーキを浚った。

口の中に広がる何種類もの甘み。
フランシスのヤツはケーキだの焼き菓子だのを持ってくるたびアレコレ薀蓄を垂れるが,俺もアントーニョもいつも聞いてない。
美味いんだからそれでいいじゃーか,とそんな風に。
そんで今度のこのケーキも,やっぱり美味かった。

「お,いしい?」

まだどこか緊張した声が,そう尋ねてくる。
俺は口の端をにやりと引き上げ,ぎゅっと握り締める小さな手からフォークを奪うと「聞くより先に食ってみな」とケーキの端につきたてた。
チビの小さな口には俺が切り分けたケーキは大きすぎたが,チビは文句も云わずめいっぱい口をでっかく開けてそれにかぶりついた。
唇の端にクリームがちょん,とついている。
けれどもそんなことより,表情の変化が劇的過ぎた。

澄んだ目玉をこれ以上ないくらい見開いて,無心に口を動かしている。

「美味いだろ?」

尋ねるとこくこくこくこく,と何度も頷く。
俺は笑いながら手に持ったケーキをチビに持たしてやり,「慌てずに食えよ」とため息を吐きながら云った。