こらぼでほすと ケーキ4
「はい、昨日は参加できなくて残念でした。」
「タルトは昨日のと同じだ。それに昼飯は、昨日の残りだから、それで勘弁してくれ。」
「ええ、一緒に食べられるなら喜んで。後で、少しお時間を頂けますか? ママ。」
「ん? 」
「渡したいものがございます。」
「ん? ああ。何? 」
「それは後でのお楽しみです。」
「わかった。」
とりあえずは、おやつ製作のほうに集中する。後で、ゆっくりと抜け駆けするつもりで歌姫様は満面の笑みで微笑んだ。
「おかえり、ねーさん。あー頭痛てぇー。」
だらだらとシンも起き出して来た。ようやく動けるくらいに回復したらしい。二日酔いのクスリは飲ませているので、後は空腹ぐらいのことだ。
「シン、腹に入れられそうか? 」
「微妙。ポカリ飲んで昼飯まで待つ。」
うーうーと唸りながら冷蔵庫を開けているシンはだるそうだが、どうにか動けるらしく、自分で自分の用事はしてくれる。悟空が、こたつ周りを片付けているのを待って、そこに転がった。
「だらしねぇーなー、シン。」
「うっせぇー悟空。」
「飲むなって言ったのに飲んだのは、おまえだかんな。」
「わーってるよ。ワインがめっちゃ美味くて止まらなかったんだ。」
全員から止められたのに、ぐびぐびとワインを飲んでしまったシンは、ほどなく沈没した。よって、シンもケーキは食べていなかった。タルトだけだと足り苦しいが、プリンも用意して果物をトッピングすれば足りるだろう。後は、シンが食べやすいおじやでもしておこうと、そちらの準備もすることにした。
プリンは小さな容器ではなくて、大きな鉢に並々と作った。これに付属のキャラメルソースをかけて生クリームを絞れば、ケーキのような作りになる。タルトのほうも、リンゴを煮て下にひいて、上からフルーツを盛り上げて最後にゼリーを薄く垂らして冷やせば完成だ。
「わぁーん、おいしそー。俺、昨日は食ってねぇーから、半分食わせて。」
それを冷蔵庫に仕舞う段階で、シンが覗きに来て騒ぐ。だが、そんなことしたら、紫子猫に撃たれるだろう。
「これ、ティエリアのリクエストだから、あいつが先に切り分けたら、後は好きにしていい。プリンは戦ってくれ、シン。」
「けけけけけ・・・シン、俺はプリンは半分を狙ってるからな。」
「悟空、それはないだろ? おまえ、昨日、スポンジケーキ食っただろ? 俺、食ってねぇーんだぞ? 」
「うまかったぜぇースポンジケーキ。なあ? レイ。」
「ああ、絶品だった。だから、飲むな、と、言っただろ? シン。」
「とーさんが悪いんだ。あんな美味いワインなんか持ってくるからっっ。」
食い物の恨みは怖ろしい。とうとうトダカに責任転嫁が始まって、ニールと歌姫様は大笑いする。
「また作るから、今日は、これで我慢しろ、シン。」
「ねーさん、俺の誕生日も、大きなケーキ焼いてくれ。それで独りで食ってやる。」
「焼くぐらいいいけど、そんなことしたら他のものは食えないぞ? 」
「・・・・あーそうかあっっ。くそぉー。」
年少組の誕生日には、何かしら祝いごとはするようになっている。そろそろ全員が成人しつつあるので、ケーキは市販なものにしているのだが、シンは甘党だから、家庭的なケーキが欲しいと叫ぶ。それぐらいは些細なおねだりだから、ニールは叶えてやるぐらい訳も造作も無い。
「そんなに食いたいなら、来週にでも大きいのを作ってやるよ。それでいいだろ? 好きなだけ食え。」
「わぁおーねーさん、優しいっっ。感謝っっ。」
と、そこで、シンはハッと気付いたが、気付かぬフリでポカリをくぴっと飲んだ。来週というより三日後に、義理の姉の誕生日だから、先にそちらの祝いがあるからだ。
「ねーさん、ねーさん、ケーキのお礼になんか渡す。何がいい? 」
まだ買っていないので、さり気なさを装いながら、シンが口にすると、義理の姉も、いつもの答えだ。
「そんな大層なもんじゃねぇーよ。シンが美味そうに食ってくれるのが一番だ。」
「たまには、俺にも、ねーさんが喜ぶもんを贈らせろ。」
「と、言われてもなあー。・・・・ああ、おまえ、俺の誕生日の祝いならいらねぇーぞ。」
いきなり核心を突きつけられて、シンはびっくりだ。いつも、義理の姉は自分の誕生日なんてものは覚えていなくて、当日にびっくりする。それなのに、今年は覚えていたらしい。
「なっなんで? 」
「ティエリアに言われたんだ。刹那を捕獲するのに、俺の誕生日前後なら戻っているからってさ。・・・レイ、悟空、おまえらも、俺は何も欲しいものなんてないから気遣いすんじゃねぇーぞ。」
「そうはいかないぜ? ママ。」
「そうです、ママ。俺たちからの感謝の気持ちは受け取ってください。俺たちの誕生日には、いつも何かしてくれるのに、俺たちがママの誕生日に何もしないなんて有り得ません。」
「そうだよ。だいたい、ねーさんは何もいらないって言うけどさ。俺たちとしては、ねーさんが貰ってくれるのが重要なんだ。それは受け取ってくれよっっ。なんもなしとかありえねぇー。」
「そうですわ、ママ。私たちに贈る嬉しさを与えてください。ママのことを思い浮かべてプレゼントを探す楽しみは、とても貴重なものです。」
「俺、そんな大袈裟じゃないけど、やっぱ、日頃の感謝は形にしたいからなっっ。」
四人から総攻撃を食らうと、ニールもダメと拒否はしずらい。確かに、そういう楽しみはある。自分だって、誰かのために贈り物を探すのは楽しいからだ。
「けど、俺さ・・・なんか申し訳なくてさ。」
「そんなこと言ったら、俺、ママになんも頼めないぜ? 弁当してくれるのだって言えなくなるじゃんっっ。」
悟空にしてみれば、日頃、甘えている分を何かしら返したいと思うし、一年に一度でも贈り物を受け取ってもらえれば、甘えてもいい、という免罪符にもなると言う。
「そうなんだけど・・・あまり派手にしないでくれな? 」
「わかってる。でも、受け取り拒否はなし、な? 」
「・・・うん・・・」
「俺のも拒否しないでくださいね? ママ。」
「ねーさん、俺のもな。」
「ママ、私のもお願いします。」
そう言われてしまうと拒否はできない。うん、と、ニールは頷いて嬉しそうに笑う。歌姫様は、その様子にほっと胸を撫で下ろした。
作品名:こらぼでほすと ケーキ4 作家名:篠義