01:ぬるい欠片
臨也さん、と途方に暮れた声で呼ばれたから、「おいで」と呼び寄せてあげた。どうしよう、と感情の薄れた声で縋られたから、「大丈夫だよ」と手を伸ばしてあげた。ソファに座っている俺に乗り上げて、けれどしがみつくことすら知らずに俯く彼女は、歳のわりにひどく軽い。その事実自体は別にどうでもよかった。そりゃ大してエサも与えられずに虐待を受ければこうなるだろう。認識としてはその程度だ。けれど、自分が何と比較して軽いと思ったのかに気付いてしまえば、その軽さは後ろめたさに姿を変える。脳裏に幼い二つの影。切り捨てられないぐらいならばいっそ、何よりも大切な者たちなのだと盲信してしまえればよかった。愛することと大切に思うこと。それが同じならば、そうあれたのかもしれなかった。けれど、それが同じものだったなら、この世の中は自分にとってどれほど退屈なものになっていただろう。それが想定できるからこそ、仮定は意味を持たずにいる。