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ギルベルトなら俺の隣で寝てるぜ。

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 本日の会議もお互いの意見が纏まらず紛糾。


 フランスとイギリスがいつものように些細なことで喧嘩を始め、周りはまたかと好きなことを始める始末で。止める気配もない。元からあった眉間の皺に更に皺を増やしたドイツの怒号で、午前中の会議は議題は踊ったまま解散、二時より会議再開と相成った。
(…どうして、あの連中の中で一番年下の俺が場を仕切らねばならんのだ。そもそも、今回の議長はフランスだろうが…。ああ、早く帰りたい…)
今日は珍しくイタリアは用があるとかで一緒ではない。少しはゆっくり出来るか…ああ、でも、遅刻せずに会議場に現れるか心配だ。ちりっと痛む胃を押さえ、会議場のあるホテルを出、ドイツは近くにあるカフェに入り、コーヒーとサンドイッチを注文し、深く息を吐いた。休憩時間に目を通そうと持ってきた資料の入ったブリーフケースを開ける気にもならない。…やる気などと言うものがもう湧く気もしない。
(…ああ、早く帰りたい。…でも、兄さんはいないんだろうな)
そう思うと帰る気もしなくて、ドイツはまた溜息を吐いた。その上を能天気な声がぽんと落ちた。

「お、ドイツやん!何、辛気臭い顔して飯食っとんのや。そんな顔、飯に対して失礼やで!」
「そんな顔じゃ、ギャルソンも給仕が怖くて仕方がないよ。…ああ、メルシー。俺、バケットサンド、卵とハムとチーズを挟んだものを。それとエスプレッソね」
「俺、カフェオレ、甘いの頼むで!オレも同じので、トマト沢山入れてくれる?」
「…で、席はここでいいよ。よろしく!」

バチコーン☆とフランスが、ドイツの威圧感に押され声を掛け切れずにおろおろしていたギャルソンからトレイを受け取り、ウインクを送る。それにドイツは顔を上げ、フランスからトレイを受け取った。

「……何しに来た?」

「んー、飯食いに」
「…それだけか?」
どうにもこうにもドイツはこの二人がセットになるとどうも対処に困る。…兄、プロイセンのどうにもよろしくないタチの悪い友人たちだからだ。それにプロイセンが加わると、更にドイツには手に負えなくなる。
「それだけやで。あ、そや、プーちゃん元気か?」
ガタガタと椅子を引き、腰を下ろしてしまったスペインにドイツはもうなす術がない。諦めの溜息をひとつ吐く。それに先ほどのギャルソンがフランスとスペインのオーダーしたメニューを置いて去っていく。
「…元気にしている」
「そうやったら、ええんやけど。今日はフランスとこで会議やし、終わったら、一緒に飲みに行こう思って電話するけど、出ぇへんし。また、寝込んどるのかと思ったわ」
「最近、電話出ないよな。メールしても返事ないし。前は即、返って来てたのにねー」
スペインとフランスの視線が絡み、つっとドイツに向けられる。ドイツは思わず身構えた。
「監禁なんて、してへんやろな?」
「監禁なんて美しくないよ!独占したいのは解るけど、恋愛はスマートに行かないと!」
「何の話だ?」
何をどうすれば「監禁」なんて言葉が出てくるのだ。ドイツは眉を寄せた。
「プーちゃんが」
「電話に出ないのも」
「メールに返信があらへんのも」
「お前がプロイセンを」
「監禁しとるからやろ!!」

「してない!!」

ドイツはダンッとテーブルを叩く。出来るものなら当に実行に移している。…と言う本音はさて置き、ドイツはスペインとフランスを睨んだ。
「ほんまやろな?」
「なら、何でプロイセン、電話にもメールにも出ない訳?」
じりっと睨め付けられ、ドイツは何度目になるか解らない溜息を吐いた。
「携帯を忘れて、出かけているからだ。俺だって連絡が取れなくって困ってるんだ」
この二週間、声すら聴いてないし、プロイセンが送ってくる言葉の切れ端すらない有様だ。このままでは気が狂う。…帰ってきたらどこにも行けないように本当に監禁してやろうかとドイツは物騒なことを考える。
「出かけてるってどこにや?」
「あいつ、自宅警備員でしょ。そいつが出かけてるってどういうことなの?お兄さんに説明してくれる?」
双方から迫られ、ドイツは冷めてしまったコーヒーカップを取り上げ、一口啜った。
「二週間前から、スイスのところに行っている」
そう。家にプロイセンはいないのだ。
「は?スイス?!」
「スイスがプーちゃんに何の用があるんや?」
「俺も知らん。…暇なら、仕事を手伝えと言って来たようだ。仕事の内容は聞いてはいないが、嬉々として「スイスんとこに出稼ぎに行ってくるぜー!!」…と、兄さ……兄貴は出かけて行った」
そのときのことを思い出すと涙が出そうだ。スイスからの用件を二つ返事で引き受けたらしいプロイセンはドイツが声を掛ける間もなく、必要最低限の荷物を纏め、軍から払い下げられたバイクに颯爽と跨り(それはもう格好良かった)、スイスへと行ってしまったのだ。
「出稼ぎって」
「ドイツんとこの経済ってそんなにやばかったん?」
「ヤバイと言うほどヤバくはない。東と西の経済格差が今日明日で劇的に変わるものでもないしな。まったく問題ない。…ただ、」
東西の格差は相変わらずだが、徐々には良くなってきている。それを気に病んではいたようだが、プロイセンが出稼ぎに出て、こればかりはすぐに良くなる様な問題でもない。
「ただ?」
「ニートだとか、ごく潰しだとか周りから言われているのを…まあ、俺はそんなこと思ってはいないし、家に居てくれるだけ有難いんだが、結構、気にしていたらしくてな…」
「…あー」
「意外に繊細やからな。プーちゃん」
しみじみと付き合いの長いフランスとスペインが頷き合う。…プロイセンに対して「繊細」と言う言葉がまさかこのふたりの口から出てくるとは思わなかった。
「…なら、しゃあないなぁ。久しぶりに顔、見たかったんやけどなぁ」
「…まあ、元気にしてるならいいのよ」
二人は漸くコーヒーとサンドイッチに手をつける。それにつられるようにドイツも食事を再開する。皿とカップがそれぞれ空になり、コーヒーのおかわりを頼んだ三人。ドイツは運ばれてきたコーヒーを啜り、フランスとスペインを見やる。…どうやら、席を立つ気配はない。会議が始まるまでゆうに一時間はある。居座る気かとドイツはこっそりと心中、溜息を吐いた。

「…そう言えばさ、俺、プーちゃんに結婚申し込んだことがあったんやけど」

唐突に口を開き、核弾頭を投下したスペインの仰天発言に口に含んだコーヒーを噴出しそうになって、ドイツは咳き込む。その背中をフランスが摩った。
「おいおい、いきなり、何言い出すのこの子!ドイツが驚いてるじゃない!」
「いやー、何か、プーちゃんのこと考えてたら思い出してん」
悪びれもせずにスペインが言う。
「…ケホッ…結婚って何だ!!」
まったく持って聞き捨てならないことを訊いた。ドイツは咳き込んで潤んだ目ででスペインを睨んだ。
「あれ、多分、百年くらい前やったかと思うけど、丁度、ウチの上司が亡くなってなぁ。プーちゃんとこの上司んとこから上司になってくれるひとおらんかな思て」
「…あー、そんなこともありましたねぇー」