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こらぼでほすと ケーキ5

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昼ごはんとデザートを平らげて、それを片付けようとしたらティエリアと刹那に腕を捕まれた。
「クスリと昼寝です、ニール。」
「待て、ティエリア。片付けはさせろ。」
「ママ、片付けは俺らでやっとく。ティエリア、刹那、連れて行け。」
 悟空が代表して、そう命じるとクスリと水を持った刹那とニールの腕を掴んでいるティエリアが、ずるずるとニールを移動させる。その後を歌姫様もついていった。脇部屋に入ると、まずクスリを飲ませて布団に横にすることになるのだが、歌姫様が、「少し時間を。」 と、言い出した。
「ああ、さっきの話か。」
 ニールもクスリを飲むと、そちらに顔を向ける。渡したいものがある、と、言っていたからだ。
「ティエリア、刹那、少し二人だけにしてくださいませんか? 」
 歌姫様の頼みには反応しないが、親猫から、「ちょっと出てろ。」 と、命じられれば外へ出る。
「なんなんだ? ラクス。」
 ようやく、これで渡せると、歌姫様は用意して隠していたものを脇部屋の文机の上から取上げた。
「私は、当日、仕事のスケジュールが入っていて渡せませんので、本日、贈りに参りました。ママ、誕生日おめでとうございます。」
 どうぞ、と、差し出した小さな箱には、緑のリボンが巻かれている。やっぱり、それか、と、ニールも苦笑する。さっき受け取ると約束させられたから断るわけにもいかなくて、しゅるりとリボンを解いた。小さな箱の中には、さらに装飾品を収納するようなケースがあり、それを開けて、ぎょっと目を見張った。
「おい、ラクス。」
「時計なら普段使いになるものです。ママの瞳の色と同じでシンプルなもので、一目で気に入りました。どうぞ、使ってください。」
 うふふふふ、と、口元に手をやって笑っているラクスは楽しそうだが、ニールは、ちょっと顔色が変った。そこにあるのは、先日、ティエリアとショッピングモールで見つけた怖ろしく高額の八桁ぶっちぎりな時計だったからだ。
「これ、おまえ・・・」
「防水加工されていますし、お仕事でも使えます。」
「そうじゃなくて・・・これ・・・」
「普段使いのものですから、それほど高額ではありません。」
 そらすっとぼけている歌姫様に、ニールは呆れて乾いた笑いをあげる。八桁ぶっちぎりの値段のものを高額じゃないなんて、そんなこと信じるほうが、どうかしている。いや、値段を知らなければ騙されていた可能性はあるのだが、知っているから余計に、これは受け取れない。
「どこで見つけたんだ? 」
「仕事で出向いたホテルのショッピングモールです。」
「・・・あのさ、ラクス。俺、これを見たことがあるんだ。おとついくらいに。だから、値段知ってるんだ。」
 そう言っても、歌姫様はニコニコと笑ったままだ。突返されるとは思っていない。
「もう買ってしまいました。ママがつけてくださらないと。」
「おまえさん、俺の言ったこと、聞いてたよな? 高額なものは受け取らないって、俺は言ったはずだ。」
「一目惚れでした。どうか使ってください。」
 どうあっても受け取らせるつもりの歌姫様は、親猫にどう言われても退くつもりはない。それに貰ってくれなければ、これは捨てるしかないのだ。ママのために買ったものだ。他の人間に渡せるものではない。だというのに、ママは時計を持って立ち上がった。どかどかと居間へ引き返して、護衛陣のジェットストリームなチームの前に出る。歌姫様も慌てて引き返してきた。
「ヒルダさん、これ、領収書ってありますよね? 」
「ああ、本宅のスタッフに渡したよ。」
「あのさ、ママニャン、それ、ラクス様が、ものすごく気に入ってな。」
「そうなんだ。ママのためにってさ。」
 ヘルベルトとマーズは、取り成そうとするのだが、ニールの目は釣りあがっている。
「ママ、何がいけないんですか? お気に召しませんでしたか? 」
 ラクスが背後からやってきて、ニールの腕に手をかける。気に入らないのなら別のものを用意しなければ、と、考えていたのたが、「ヒルダさん、その領収書を本宅へ取りに行きますから、あちらに連絡してください。」 と、おっしゃった。
「なんだい? 」
「返品してきます。こんなもの、簡単に人に贈る代物じゃない。それも、俺に買ってくるなんてのが、そもそも間違いです。」
「ラクス様のセンスが悪いってのかい? 」
「そうじゃない。」
「ママ、他のものがよろしければ、これは置いておいてください。用意いたします。」
 そして、ラクスがトドメの言葉だ。ぴぎっとニールの堪忍袋の緒が切れる。ちょっとこい、と、ラクスの腕を掴んで、今度は本堂に引き摺っていく。何事だよ、と、年少組はびっくりしているが、事態が飲み込めなくて静観しているし、子猫たちも親猫のただならぬ気配に沈黙している。

 本堂に歌姫様を座らせると、ニールもそこに座る。そして、時計を箱ごと歌姫様の前に静かに置く。
「ラクス、俺は誕生日のプレゼントは貰うとは言ったが、これはもらえない。返品してこい。」
「なぜですか? よくお似合いです。」
「そこじゃない。これの値段は、おまえさんにしたら高額には当たらないのかもしれないが、俺には高額すぎる。こんなもの貰うわけにはいかない。おまえさんがくれるなら、せいぜい花束ぐらいでいいんだ。」
 本当に、そうなのだ。ニールにしてみれば、日用品や花ぐらいを貰う分には心が痛まないが、これは痛すぎるのだ。これから先、どれほど生きているのかわからない自分が、こんなものをする必要はないし残して逝くにしても迷惑になりそうなものだ。できるだけ身辺は何もない状態にしておきたい。それが、スナイパーだった時からの習い性になっている。贈ってくれる気持ちや、これを探す楽しみは理解しているが、それでも貰えるものではない。ここで、きっちりと断って返品させないと、歌姫様は同じ事をするだろう。だから、ここで退くつもりはない。
「イヤです。お気に召さないのなら捨ててください。」
「ラクスッッ。なんてこと言うんだっっ。」
「私が、ママに選んだものです。返品なんてできません。」
 対して、歌姫様のほうも退くつもりはない。せっかく選んできたのだ。貰ってくれるだけでいい。本当にそれだけだ。
「俺なんかに、こんなものを買ってくるな。本当に頼むから返してきてくれ。俺は、そんなものを貰うほどの人間じゃない。」
「私には、その価値のある人間ですっっ。ママでなければ、これを用意いたしません。」
 どちらも退かない。取り成すどころではない。これは、えらいことになった、と、ヒルダは頭を抱えた。やはり止めておくべきだった。さて、どうやって取り成すか、と、思っていたら、ちょうどおやつにありつこうとしたキラとアスランがやってきた。本堂に上がる回廊辺りに全員が集まっているので、そちらにやってきたが、ニールの怒声にびっくりして立ち止まる。
「え? なに? なんで、ママがキレてるの? 」
 ニールが怒るなんて、そうそうあることではないから、キラでもたじろぐ。いつも拳骨は食らっているが、こんなに真剣な怒鳴り声は、なかなか聞けない。
作品名:こらぼでほすと ケーキ5 作家名:篠義