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【シンジャ】発情期は恋の季節【C81】

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 真面目な顔で心配しているという事を言われ驚いていると、更にシンドバッドはそう言葉を続けた。
 シンドバッドとの出会いは今から十年近く前になる。長い付き合いがあるだけで無く苦楽を共にして来た自分の事を、彼が特別に思ってくれている事には気が付いていた。特別に思っていなければ、政務官になど自分をしなかっただろう。それでも特別な存在であるという彼の言葉を聞き、一瞬にして全身が熱くなった。特に頬が熱くなっていた事から、自分の顔が赤くなっている事を予想する事が出来た。
「何を突然言い出すんですか」
 顔の熱を冷まそうと手の甲で頬を押さえていると、シンドバッドの笑い声が聞こえて来た。
「はははは。可愛いな」
「男でしかも二十歳を超えている相手に可愛いは無いでしょ!」
 本気でシンドバッドがそんな事を言う筈が無いという事は分かっていたが、それでも反論せずにはいられなかった。
「いやいや、可愛い。可愛い」
 そう言ったシンドバッドの顔は、目尻が下がったものであった。本気で言っているように見えるのだが、本気で彼が自分の事を可愛いと思っている筈が無い。そう思いながらも、シンドバッドの言葉に動揺していた。
「いい加減にして下さい!」
 そう言った自分の声は、自分でも分かるほど動揺したものであった。そんな反応を取ってしまった事が原因で、更にシンドバッドにからかわれる事になった。
「はははは。嫁は娶らないつもりなんだが、お前が女だったらお前を嫁に貰っていただろうな」
 言いながらシンドバッドは自分の体を抱き締めた。
「冗談でもそんな事を言わないで下さい!」
 シンドバッドに抱き締められた事とシンドバッドの台詞が原因で、熱くなっている体が更に熱くなり、激しくなっている鼓動が更に激しくなった。
「冗談なんかじゃ無いぞ。本気で言っているんだぞ」
「いい加減にして下さい! いい加減にしないと怒りますよ」
「はははは。分かった。分かった」
 漸く自分をからかうのを止める気になったようである。そう言ってシンドバッドは自分の体を抱き締めるのを止めた。しかし、彼の言葉と行動が原因で上がった体温や掻き乱された心はなかなか元に戻ってくれる事は無かった。
 平常心をなかなか取り戻す事が出来無い自分を恥ずかしく思っていた時、体を抱き締めた時に離れた椅子へと戻っているシンドバッドの視線がこちらへと向かっている事に気が付いた。恥ずかしい姿を彼に見られているのだという事が分かり、自然と瞳に涙が滲んで来る。そんな自分の姿を見て、先程まで余裕の様子であったシンドバッドが突如慌てた様子へとなった。
「ジャーファル! 少し冗談が過ぎた。悪かった。ほら、そんな顔をしないでくれ」
 こちらへと伸ばして来た手で頬を撫でながらそう言ったシンドバッドの声は、小さな子供をあやすようなものであった。昔はこんな声で彼からよく宥められていた。こんな声で話し掛けられた事が無かった為、昔は彼からそんな風に話し掛けられる度に戸惑った。そして、自分の機嫌を取っても何の得にもならないというのに、何故そんな声で話し掛けるのだろうかという事を思った。
 シンドバッドは、ほの暗い場所で生きて来た自分に無償の愛情というものを初めて与えてくれた相手である。困惑した様子へとなっているシンドバッドの姿を見て、今更としか思えない事を考える事によって、苦しいような悲しいような切ないような気持ちになった。
「大丈夫です。平気です」
 自分の言葉を聞き安堵した様子へとなったシンドバッドの姿を見て、再び説明が難しい気持ちへとなった。その気持ちは胸を苦しくさせるものであった。
 上手く息をする事が出来無くなっていると、急に体が熱くなって来た。それだけで無く、こんな時に感じる筈が無いものを感じた。それを感じるような事は起きていない。何故そんなものを感じたのかという事が分からず戸惑っていた時、ある肉体の変化に気が付いた。
(……っ!)

(本編に続く)