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【シンジャ】発情期は恋の季節【C81】

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 そう言って先程までシンドバッドが居た場所を見ると、それに釣られるようにしてシンドバッドも先程までいた場所を見た。シンドバッドと自分が見ている事に気が付いた女性たちが、こちらを見ながら科【しな】を作る。彼女たちの姿は普通の男ならば鼻の下を伸ばすようなものであった。その事は分かっていたのだが、彼女の姿を見て何も感じ無かった。
「折角だから、お前も一緒にどうだ」
「はあ、何を言ってるんですか!」
 シンドバッドから誘われる事になるとは思っていなかった為、最初素の態度と口調になってしまった。今の自分しか知らない者は自分のこの口調が元々のものであると思っているようなのだが、元々の喋り方は丁寧という言葉からかけ離れたものであった。
「良いだろ。ほら、彼女たちもお前が来るのを待ってるようだぞ」
 シンドバッドへと向けていた視線を女性たちへと移すと、先程まではシンドバッドに嬌態を見せていた彼女たちから嬌態を見せられる。先程彼女たちの姿を見て何も感じ無かったというのに、彼女たちの姿を見て何か感じる筈が無かった。
「私は遠慮しておきます。貴方一人で彼女たちと遊んで下さい。私を巻き込まないで下さい」
 シンドバッドの誘いに乗らなかったのは、彼女たちの姿を見ても何も感じ無かったからだけでは無い。下品な遊びをしたく無かったからという理由もある。
「まーまーそう固い事を言うな」
 そう言って、自分を彼女たちの元へと連れて行くつもりのシンドバッドに肩を抱かれた。
「私はああいう遊びには興味ありませんので、誰かを誘いたいのならば私以外にして下さい」
 このままでは無理やり連れて行かれてしまう事になりそうであったので、シンドバッドを諦めさせる為真面目な態度でそう言った。それを聞き肩を抱いていた腕を離したシンドバッドは、急に胸の前で腕を組み考え込むような様子へとなった。
 シンドバッドの様子が真面目なものである事から、真面目な事を考えているのだという事を察する事が出来た。察する事が出来たのはそれだけであった。何について考えているのかという事は全く分からなかった。シンドバッドを真面目に悩ませるような事は何も言っていない。何について悩んでいるのかという事が気になりながら考え事が終わるのを待っていると、考え事が終わったようだ。
「ああいう派手な女は好みじゃないのか?」
 シンドバッドが考えていた事は、何故自分が誘いを断ったのかという事についてであるようだ。その結果、自分が誘いを断ったのは、彼女たちのような派手な女性が好みでは無いからなのかもしれないと思ったようだ。
 そんな内容を真面目な顔で考えないで欲しい。もっと真面目な内容について悩んでいたのだと思っていた為、何について悩んでいたのかという事を知り落胆した。
「それを否定はしません。確かに派手な女性は苦手です。しかし、貴方の誘いを断ったのはそれだけが理由ではありません。先程言ったようにああいう遊びに興味が無いからです。誘うのは別の相手にして下さい」
 ここまで言えば諦めるだろうと思い言ったのだが、シンドバッドが自分の言葉を聞き取った行動は、再び考え込む様子へとなる事であった。次は何を考えているのだろうかという事を思いながらシンドバッドが何か言うのを待っていると、彼から頭が混乱するような事を言われる事になった。
「お前に発情期が来ないのは俺のせいかもしれないな」
「あなたのせいである筈が無いじゃないですか」
 自分が発情期を未だ経験していないのは、シンドバッドのせいで無い事は間違いが無い。何故そう言い切る事が出来るのかというと、二十歳に既になっているというのに発情期を経験した事が無い理由を知っているからである。しかし、その理由をシンドバッドに言うつもりは無かった。
 先程から渋い顔をしたままとなっているシンドバッドが、隣にある椅子へと腰を下ろす。彼女たちの元に帰るのだと思っていたのだが、椅子に座ったという事は彼女たちの元に帰らない事にしたのだろうか。隣に座ったシンドバッドに対してそう思いながら体を横へと向けると、シンドバッドと目があった。
「俺は貞操観念がどうやら欠けてるらしい。今から考えれば、子供のお前に見せて良いものじゃ無いものを散々子供のお前に見せて来た。それが原因でそういう事に嫌悪感をお前に持たせる事になってしまった。発情期が来ないのは、それが原因なんじゃ無いのか?」
 真面目な顔でシンドバッドが言った台詞を聞き最初に思った事は、貞操観念が欠けている事を自覚していたのだという事であった。どんなに訓戒を垂れても女遊びを自重しないので、貞操観念が欠けている事に気が付いていないのだと思っていた。その後思った事は、そういう事に嫌悪感を持っている事に気が付かれていたようだという事である。
 シンドバッドのせいなのかという事は分からないのだが、シンドバッドの言う通り性的な事に対して嫌悪感を持っていた。人に話すような内容では無いので人に今までその事を話した事が無いだけで無く、それをシンドバッドの前で態度に出した事は無いつもりであった。その為、その事に気が付いていないのだと思っていた。その事に気が付いていないと思っていたのは、自分に濡れ場を平気で彼が見せていた事も原因である。気が付いていたのならば、濡れ場を自分に見せるような真似はしないで欲しい。そう思った後、溜息を吐きながら彼にだけは隠し事をする事が出来無いという事を思った。
 シンドバッドと出会うまでは暗殺者をしていた為、隠し事や嘘を吐く事は得意であった。自分の嘘を見抜く事が出来る者は全くと言って良いほどいないのだが、シンドバッドだけは騙す事が殆ど出来た事が無い。彼が自分の秘密に気が付いていないのが不思議である。そう思った後、気が付いていない振りをしているだけで、気が付いているのかもしれない。否、その事を知られたく無いので、微塵もそんな態度を見せていないので、気が付いていない筈であるという事を思った。
 この事について考えたのは、これが初めてでは無い。何度もこの事について考えていた。飽きずに何度も同じ事を考えてしまうのは、シンドバッドに秘密を知られる事を恐れているからなのだろう。
「……はあ。あなたが原因な筈が無いでしょ」
 態と大きな溜息を吐いた後そう言ったのだが、シンドバッドはまだ自分のせいであると思っているようだ。何を言えば、自分が原因では無いという事を納得してくれるのだろうか。彼を納得させる一番の方法は、何故発情期がまだ来ていないのかという理由を話す事である。しかし、それをする事は出来無い。
 食事が終わったので手伝いに戻るという事を言ってシンドバッドの元を離れる事によって、強引にこの話しを終わらせるのが最善の選択だろう。それを実行に移すつもりであったのだが、それを実行に移す前に、先程から渋い顔をしているシンドバッドが真面目な顔になった。
 何か言おうとしているのだという事を感じ取り、彼の言葉を聞いてから先程決めた事を実行に移す事にした。
「理由はなんであれお前の事を心配してるんだ。信頼出来る優秀な臣下だと思ってるだけで無く、お前の事は特別な存在だと思ってる」