こらぼでほすと ケーキ6
「早めに避難すりゃ、被害も少ないってことだ。ママニャン、子猫たちを見送ってやるつもりなら大人しくドクターの言うことは聞いたほうがいいぞ。」
あのクスリは異常の無い細胞を活性化させているだけだから、壊れている部分は、そのままだ。だから、気圧変化への対応はできない。異常の無い細胞は悪化はしないが、壊れている部分は、そのまま悪化するので、今の所は、それで均衡が保たれている状態だ。それは、ニール自身には詳しく知らせていないから、当人が誤解するのも無理はない。
「わかりました。これが終わったら行きます。」
悟浄の駄目押しに、ニールも了承する。確かに、早めに対処して子猫たちを見送ってやるほうがいい。帰ってくる場所はあるのだ、と、信じさせるためには、ニールが笑顔で送り出してやることが必要である。
シンとレイはトダカに卒業証書を見せていた。本日、無事に大学は卒業となった。卒業式には出なかったが、証書だけは受け取ってきたのだ。昔ながらの紙の証書を机に置いて、トダカは微笑む。成績優秀で、その表彰もついていた。あれだけ、『吉祥富貴』の活動にも参加していて、この成績なのは誇らしくて、ついつい頬が緩むのが止められない。
「おめでとう、ふたりとも。何かお祝いをしないといけないな。」
「とりあえず、メシ奢ってくれ、とーさん。」
「アカデミーへ正式に入学する時に同時にお祝いは貰いたいです、トダカさん。」
本来なら四月からアカデミーへ進学することになるのだが、『吉祥富貴』が刹那たちのバックアップを本格的にすることになって、それが終わるまでシンとレイはアカデミーへの進学を止めた。入学許可は降りているから休学という形にして、全部が終わって落ち着いたら進学することにしたのだ。
「そうだな。来月にはプラントへ出向くんだし、食事ぐらいにしておこうか。・・・来週ぐらいにするかい? 」
「そうだな。刹那とティエリアが帰ったら、ねーさん、落ち込むから、その時にしよう。くくくく・・・俺、酒も飲みたい。」
「シン、限度は考えてくれ。連れて帰るのは俺なんだからな。」
「たまにはいいじゃんっっ。」
刹那たちが再始動の準備を整えるまでに、『吉祥富貴』側もバックアップの準備を完了させる。そのための資材や情報確保のために、シンとレイはプラントへ遠征することになっている。あちらで資材を集めて、資源衛星や廃棄コロニーなどに、その資材を隠すためだ。一月か二月は、その作業に従事するから壮行会も兼ねて食事することにした。
「トダカさん、俺たちはアカデミーの研修ということでプラントへ行きます。そのつもりで、ママにも話してください。」
「わかってるよ、レイ。・・・・それより、この証書は、ギルさんにも見せて差し上げなければいけないよ? あちらも喜んでくださるだろう。」
レイの保護者はギルバート・デュランダルという、どっかの最高評議会議長様だ。卒業したことはメールで伝えているが、実際に証書も見せて、お礼を言うべきだろう。ザフトを予備役扱いにして特区へ降りて来られるように手配してくれたのは、そちらだからだ。ちなみに、シンは、プラントでの後見人が、ギルバート・デュランダルということになっているので同様だ。
「ええ、あちらで時間をとって見せてきます。」
あちらも忙しいだろうが、義理の息子と後見しているシンが会いたいと言えば、喜んで時間はとってくれるだろう。成長するレイやシンのことは、議長も感慨深く感じているはずだ。
「とうとう始まるね? 」
バックアップと一口にいっても、安全なものではない。戦闘領域に紛れ込んで救助したり援護するなんてことになれば、危険は高い。トダカとしても心穏やかとはいえない。だが、止めるつもりはない。シンとレイが、平和というものを望んで自ら選んだことだ。キラや刹那が望むものと同じものをシンたちも望んでいる。それはトダカも望んでいる。危険だからやめて欲しいなんて言うのは、シンたちにも失礼だからだ。実戦には参加できないが、トダカも動くつもりをしている。キラたちが動きやすいように、オーヴの支援は取り付けている。
「今の連邦が瓦解すれば、もう一度、世界は違う形に纏まるでしょう。その時に、こちらからもアプローチをかけて修正を促す予定です。今の連邦のような不均衡な状態にならないように、ギルにも動いてもらいます。」
「まあ、俺らはキラさんの指示通りに動く。刹那たちの救助は完璧に遂行するつもりだぜ? とうさん。」
こちらは戦闘幇助になる動きは絶対にしない。それは禁じ手にしている。巻き込まれるのではなく、周囲から手を差し伸べるという形で、刹那たちの組織の援護をする。巻き込まれてしまったら、『吉祥富貴』も、どこかと本格的に戦って、どこかの利になってしまうから、それはしたくないのだ。キラは、不殺が信条だ。できるだけ殺し合うのではなく、別の方法で世界が穏やかなものになればいい、と、考えている。もちろん、こちらに敵意を向けられたら、それは排除するしかないが、そうならないために隠密裏に動く。一緒になって戦っていては、穏やかな世界は手に入らないと二度の大戦で学んだ。二度目の大戦も最初は、その立ち位置を維持していたのだが、途中から当事者になってしまった。そして、世界は混乱してしまった。あそこで最後まで第三勢力として活動していれば、プラントは、あそこまで疲弊しなかったはずだ。その経験があるから、キラも刹那たちに肩入れしても一緒に戦うことはしない。それらを理解した上で、シンとレイもキラに手伝いを申し出た。戦うことではなく、世界が歪む部分だけを排除するという刹那たちの考えにも賛同したからだ。
「ここ数年は頑張るしかないね? 」
「そうですね。・・・今年の終わりくらいには再始動するでしょう。」
「とにかく、やれることはやってみるしかないさ。」
死ぬつもりはないのだ。やり終えて、また、のんびりと三人で顔を合わせればいい。その時には、ニールも一緒に笑えればいい、と、内心で三人は思いつつ微笑んだ。
作品名:こらぼでほすと ケーキ6 作家名:篠義