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こらぼでほすと ケーキ6

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 薬味関連は、きちんと冷凍されている。生姜はすりおろしたものが板状にされて冷凍されている。それを取り出して亭主に指示すると、おう、と言う返事がある。女房のほうも天気予報で、そこそこ自分の体調を予想できるから、二、三日の食料を準備している。
「残念なことだな? 」
「・・・こればかりはね。ドーピングして、どうにかなるならドクターか八戒さんに頼むんですけど、無理でしょうからねぇ。」
 せっかく子猫たちが一緒にいてくれるのに、二、三日はダウンする。たぶん、その二、三日のうちに、紫子猫は組織に戻るだろうし、黒子猫は放浪の旅に出てしまう。紫子猫は、これでしばらく顔も拝めないのに、少しも地上で楽しませてやれないから、亭主は、女房のの気持ちを代弁して、そう言った。
「黒ちびは、また戻るだろ? 」
「でも、次は宇宙へ上がる準備になるでしょうから忙しいんだろうし。てか、今日は出かけないんですか? あんた。」
「おまえ、ひとりになると寂しいだろうから付き合ってやってるんだ。亭主の親切心を有り難く思え。」
 本日、黒子猫はラボ、紫子猫は外出、悟空は学校のほうへ出かけている。だから、寺には夫夫だけという陣容だ。いつもなら坊主だって出かけるのだが、寒波到来の情報に寺に居座っている。いつ、具合が悪くなるのかよくわからないので、心配だかららしい。それに温度も急激に下がっている。スクーターで外を走るには辛い温度でもある。
「別に、まだ大丈夫なんだけどなあ。」
「今夜は遅くなるぞ。」
「俺、手伝いに行きましょうか? 」
「おまえなんか連れていったら、俺は舅に嫌味を言われる。」
 今夜は明後日のイベントに向けて内装を弄ったり、衣装合わせしたりで忙しい。だから、バイト組といえど、手伝いがある。通常より遅くなるから休んでいろ、と、亭主はおっしゃっているのだが、女房はスルーの方向だ。帰ってきたら出迎えぐらいはしないと気がすまないという難儀な性格だ。
「トダカさんの手伝いなんで嫌味はないと思うけどなあ。」
「おまえには言わないが、俺にはあるんだ。大人しく寝てろ。」
「・・・なんで、そんなに心配するんだか・・・いつも低気圧はダウンしてるでしょ? 俺。」
「台風並みだぞ? おまえ、天気予報見ただろ? あんなぐるぐるの低気圧だと、おまえ、動けないどころかマグロじゃねぇーかっっ。」
 夫夫ふたりして天気予報を見ていたので、女房のほうも天気図は理解した。確かに台風のようなぐるぐるの気象円ではあった。冬に、そんなことに出会っていない女房は、いつも通りだと思っているが、亭主のほうは、そうじゃないと言い募る。確実に雪が降るだろうし、風も強いはずだからだ。夏の熱帯低気圧が通り過ぎるのと同じ事が起こるということが、女房にはピンとこないらしい。
「まあ、寝てりゃあいいだけだ。あんた、お勤め入ってたでしょ? 気をつけてくださいよ? スクーターだと雪はマズイんじゃないですか? 」
「積もったら延期する。おい、じゃがいもはいらんっっ。牛すじを増やせ。」
「ほくほくしてうまいんです。これは、俺が食うから。牛すじは、こっちで煮て足します。ほら。」
 別の鍋でぐつぐつと煮られている牛すじを見せられて、けっっと坊主は舌打ちする。育ち盛り食い盛りの悟空は野菜より肉だ。だから、スジ肉は足せるように別に煮込んでいるのだ。
「じゃがいもは汁が濁るんだ。」
「少しぐらいいいでしょ? 俺の好物なんだから。何もあんたに食え、とは言いません。」
「当たり前だ。おまえ、それが食えると思っている段階で、寒波を舐めてるぞ。」
「去年も寒波はあったけど、俺は二日ほどで起きました。」
「あんなもんじゃねぇーから言ってるんだ。ちっとは亭主の言うことを聞け。」
「だから、いつもより多めにしてますって。寒いんなら、こたつに入ってください。風邪ひきますよ? 三蔵さん。」
「俺は軟弱な風邪なんかひかん。おまえだ、おまえ。これで風邪ひいたら本宅へ連行されてお里だぞ? 」
「俺も、そこまで軟弱じゃないと思うんですがねぇ。でも、そろそろ一度、帰ったほうがいいかな。」
「帰らんでいい。舅を呼び出せ。」
「あんた、俺がいないと寂しいですもんねぇ? あはははは。」
「うるせぇー舅より俺の世話が最優先だっっ。」
「はいはい、わかってますよ。あんたの世話は俺にしかできないでしょうからねぇ。」
「そうだ。おまえだけだ。」 
 もうなんていうか、いちゃこらとした会話が続く。誰もいないから被害は無いが、ハイネあたりが居ると、萎れるほど強烈だったりはする。そして当人たちは自覚が無い。言いたい放題の状態だ。
「なんていうか、うちよりいちゃこらしてねぇーか? あれ。」
「いちゃこらじゃないんだそうですよ? 悟浄。あれは会話によるコミュニケーションというそうです。・・・・攻撃力の高い会話ですが。」
 それを小耳に挟みつつ、沙・猪家夫夫が居間に顔を出す。少し廊下で聞いていたのだが、夫夫の会話以外の何者でもないだろうというのが統一見解だ。
「なんだ? 八戒。」
 居間から台所へ移動してくる足音で、誰だかわかっている坊主は振り向きもせずに尋ねる。
「ドクターから連行してくるように連絡がありました。ニール、その作業が終わったら、本宅へ参りますので準備してください。」
「「はい? 」」
 寺の夫夫は、同時に声をあげて、八戒を見た。どっちも、寺でうだうだしているつもりだったからだ。
「そろそろ、検査もあるし、この天候は寺で過ごすにはきついだろうってことです。僕も、それには賛成です。かなり降雪しそうな勢いですし、あちらなら空調はしっかりしてますから余計な風邪もひかなくて済みますからね。」
 静かに、そう八戒がおっしゃる。で、寺の亭主のほうは、女房の腕辺りを軽く叩く。
「ほら見ろ。連行じゃねぇーかっっ。」
「はあ? ちょっ、八戒さん? 俺、まだピンピンしてんですが? 検査なら小一時間で済むはずじゃあ? 」
「だからさ、この寒波はいつものより大きいんだよ、ママニャン。夏の台風みたいなもんだから、本宅でダウンしてるほうが安全ってこと。」
「あなたの亭主のことは、僕が世話しておきますから、本宅でゆっくりしていてください、ニール。」
 おや、おでんですか、と、沙・猪家の女房は、鍋の中を覗き込む。ここのおでんは関東風だ。八戒がレシピを教えたので、ここのおでんならおいしい。寒い日に一杯やるには最適の肴ですねーと笑っている。
「そういうことなら、明日にでも自分で行きますよ。」
「いえ、今夜辺りから医療ポッドに入ったほうが安全だろうということなんですが? 」
「ええ? 」
「今夜から急激に気圧が低下します。倦怠感ぐらいで済むものではないので、とりあえず医療ポッドへ避難してもらう予定です。」
 気圧変化が急激な場合、漢方薬治療で持ち直したニールとはいえ動けなくなる。夏にも台風を舐めていて、痛い目に遭った。もう大丈夫なんだろうと油断したら頭痛まで併発してのたうつ羽目になったのだ。その時も大慌てでハイネが風雨の中、本宅まで運び医療ポッドに叩き込まれた。
作品名:こらぼでほすと ケーキ6 作家名:篠義