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こらぼでほすと ケーキ8

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 うんうんと親猫は頷いている。そこへ刹那が頭にバスタオルを被って戻って来た。寝ろと言っただろっっ、と、怒鳴りつつやってくる。それと入れ替わるようにティエリアはシャワールームへ走る。背後からは、「髪の毛を乾かせって、いつも言ってるだろっっ。」 という親猫の怒鳴り声が聞こえている。もちろん、黒子猫のほうも、「勝手に乾くからいいっっ。」 と、怒鳴り返しているのも聞こえる。しばらくは、この喧騒も聞けないな、と、残念に思いつつシャワールームへ飛び込んだ。



 翌日、夜まで何もせずに、のんびりと過ごした。窓の外は雪景色で、さすがに、こんな状態では外出もままならなかったからだ。雪は太陽の熱で少しずつ溶けて夕方には、本宅の庭は、いつもの常緑樹の景色に戻った。具合はいいから、自分たちの食事は自分たちでやります、と、親猫が本宅のスタッフに断って、晩御飯は鶏の水炊きをした。おじやまで平らげて、デザートのリンゴを食べた。無口な黒子猫は何も喋らないので、紫子猫と親猫がくだらない話をしながら、のんびりとした時間を楽しんだ。会話には参加しないが、黒子猫はべたべたと親猫にくっついてはいた。
「よし、そろそろ準備するか。」
 食事が終わってから、親猫は立ち上がる。二階の和室で、だらだらとしていたので、食べた片付けを始める。
「準備って・・・ニール、まさか見送りに来るつもりなら却下です。」
 こんな寒い時間に外出などさせたら風邪を引きかねない。だから、ティエリアは注意したのだが、違う違う、と、親猫は笑っている。鍋やら食器を片付けると三人で厨房へと降ろす。本宅のスタッフは、そんなことは、こちらでやりますから、と、言ってくれたが親猫は、自分たちでやります、と、子猫たちに洗い物を命じる。その間に、スタッフに頼みごとをして、厨房をあっちこっちと歩き回っていた。何をやってるんだろう、と、思いつつ、子猫たちは目の前の洗い物をする。
 少し時間はかかったが、ようやく洗い物が終わって手を拭きつつ振り向くと、親猫は何やら作成していた。
「デザートですか? 」
「さっき食っただろ? まだ足りないか? 」
 手元にはランチボックスがあり、中には小さめのおにぎりが並んでいた。それも、海苔の巻かれたの、ピンク色の、緑色のもの、茶色のもの、黄色いの、白いの、という六個が収まっている。
「これは? 」
「夜食。おまえさん、弁当が食べたいって言ってただろ? 途中で腹が減ったら夜食になると思ってさ。全部食べなくていいからな。」
 そしてボックスの三分の一にはカットされた柿とイチゴが入っている。子供向けのお弁当が完成していた。刹那は毎日、ラボへ出勤していたから、お弁当を持たせていたのだが、ティエリアは寺に滞在していたから作ってやらなかったのだ。どうせ、アフリカンタワーまで何時間か飛行機で移動だし、その後は軌道エレベーターだ。どこかで空腹を感じたら、それを食べればいいだろう、と、親猫はランチボックスを包んでいる。ニールだって空港までの見送りは、ちと苦しい。数日、医療ポッドに入っていたから体調自体は悪くはないが、何かしら低気圧の影響で身体は重い。だから、最後まで見送れないから、こういうことを考え付いた。黒子猫が背中から纏いついて文句を吐きそうな気配だから、その口には柿を放り込む。
「そろそろ時間だろ? 荷物は? 」
「用意している。アスランとキラが迎えに来るらしい。」
 しばらくは直接に顔を合わせられないので、『吉祥富貴』側からの接触は、これで最後になる。だから、そのトップであるキラが見送るのだ。
「ニール、俺が、あんたの代わりに見送ってくる。」
 背後から入りきらなかった柿やイチゴに手を出している黒子猫が、そう言って離れた。ニールには聞かせられない話は、その間にしておこうと考えてのことだ。
「そうしてくれ。気をつけてな? ティエリア。」
「あなたこそ、三蔵の世話だけしていてください。」
「はいはい、わかってるよ。時間があったら降りて来いよ? 」
「善処します。」
 しばらく、この日常とはお別れだ。再会できるのは、いつになるのか、ティエリアにはわからない。地上に降りるミッションがあれば、少しでも顔は出すつもりだ。
 そうこうしていたら、キラたちが迎えにやってきた。部屋から荷物を持って来て、挨拶をする。クルマに乗り込んだら、もう、そこからは日常ではないと気持ちを切り替えた。ただ、まだ温かいお弁当は膝にあるのだが。
作品名:こらぼでほすと ケーキ8 作家名:篠義