君と僕との逆転話-序章-
「随分と面白いことになっているね」
開口一番にそう告げた青年に、周りの全員が脱力する。
「相変わらず」
「冷静すぎて」
「同い年かって聞きたくなるね」
体つきのいい男三人が小さくつぶやけば、それを耳にした青年がこれでも驚いているよ、と言い返した。
「ただ、世の中には自分と同じ姿の人間が三人いるって聞くし、もう一人の自分と会ったら死ぬ、とも言われているけれど、この場合はどうなるのかなって思って」
「いや、それ驚いてる時に考えてる内容じゃないよね」
「兵ちゃん、もう突っ込むだけ無駄だよ」
まるで漫才のようにぽんぽんと言葉のやり取りを行う目の前の青年。
十人いる緑の中に一人だけ混じっている蒼の青年が、居心地悪そうに笑った。
「まぁ、冗談はこれくらいにして」
「冗談! 今のこのやり取り冗談なの!」
「馬鹿旦那うるさい」
ぼかりと頭を殴られた青年によく似た一年は組の加藤団蔵が、自分が殴られたように顔を顰める。
まるで自分たちのやり取りみたいだと言わんばかりに黒木は頷き、隣で二廓が呆れる。
あれが将来の自分たちなら嫌だなぁ、と言ったのは誰だったのか。
「さて、あなたは立花さんでいいんですね」
緑の青年たちの間でニコリと笑顔を見せた青年が立花へと声をかけた。
「そうだ。お前は黒木か?」
「ええ。黒木庄左エ門です。以後よろしく」
庄左エ門に、やはりというかなんというか。
一年生の黒木と顔を見比べてしまうのは仕方がないだろう。
「この世に不思議は多けれど、このような事態に陥って双方戸惑っているとお察しします」
にこにこと笑う庄左エ門に立花は真意を探ろうとじっと見る。
「嫌だなぁそんなにじっと見られても、何も出ませんよ。今のあなたたちは戸惑っていらっしゃるだけで、戦意があるようには見えませんし。それはこちらも同じです」
周りの青年たちは庄左エ門に一任するつもりなのか、黙ったまま事の成り行きを見ていた。
「とりあえず、もう日が暮れますので、一度学園のほうにご一緒しますか」
「はっ? ……お前、学園の六年だろうが、私なら自分によく似た人間がいる集団を怪しんで連れて帰らんぞ」
あっさりと言い放った言葉に思わず立花がたじろいだ。
他の六年や常識を知っている生徒が、同じく驚いた表情をしている。
「では、一晩ここで過ごされますか? 僕たちは構いませんよ。勿論見張りは残しますがね」
「因みに」
と庄左エ門の後ろから顔を出した青年が指を一本立てた。
「僕たちが作った白煙筒はね、夜行性の動物をおびき出す香りが入ってるんだ」
だからここにいると狂暴な生物が集まるよ、と口端をあげた。
その言葉に下級生が怯えるように縮こまる。
「僕たちもここに小さい子供を置いていくのはどうかと思いますので、どうでしょう」
一度学園へ来ては、と笑った顔に拒否権などあるはずもなかった。
ざわり、と空気が動いた。
鈴の音が耳に木霊した。
誰かが、笑った……気がした。
作品名:君と僕との逆転話-序章- 作家名:まどか