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【かいねこ】ダーリン  君と手をつなごう

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「ダーリン 君と手をつなごう」



「さて、僕は、そろそろベッドに引き上げたいのだけどね」

優雅な手つきでカードの山に手を振ると、シトロンは、向かいに座っている男に微笑みかけた。
賑やかな酒場の一角、そのテーブルの周囲には人だかりが出来、場違いな新参者の勝負を、殺気立って見守っている。
当初、一目で階級が上だと分かる仕立ての良いスーツを着て、微笑みを称えた優男は、今宵の哀れなカモとして歓迎されたはずだった。
だが、この新参者は、彼を待ち受ける狩人を逆に狩り尽くし、彼らに、自分は獲物ではなく狩りをしにきたのだと、上品な物腰で示して見せる。
今、最後の挑戦者としてテーブルに座った男が、罠にはまった獰猛な獣の目で、目の前の男を睨みつけていた。

「ふざけるな。次で全部取り返してやる」
「まあまあ、そう熱くなりなさんな。どうやら、勝利の女神の微笑みを、僕が独占してしまったようだね。失礼ながら、ええと・・・・・・」
「レザンだ」
「レザン君、これで車を呼びたまえ。もう夜も遅い。レディを連れ回すのに、ふさわしい時間ではないよ」

シトロンの差し出した札には目もくれず、レザンは後ろで心配そうに立っている少女を振り返る。

「よし、次が最後の勝負だ。俺はこいつを賭ける。お前は、俺から巻き上げたもの全てだ」

はっと息を飲んだ少女に、シトロンは同情的な視線を向けた。

「さあて。僕がそれを飲まなかったら、彼女はどんな目に遭わされるのかな?」
「うるさい。こいつは俺の物だ。俺がどうしようと勝手だろう」

シトロンは首を振って、青ざめた顔の少女に頷いてみせる。

「分かった。これが最後の勝負だよ。僕が勝ったら、彼女を貰おう。君が勝ったら、全て君の物だ」

シトロンは財布を取り出し、テーブルの上に無造作に置くと、少女を手招きし、

「おいで、お嬢さん。名前は?」
「・・・・・・いろは」
「いろは。僕の女神。君がカードを配っておくれ。僕は君に賭ける」
「え?」

戸惑ういろはの手に、シトロンはカードの山を乗せる。

「何、気にすることはないよ。君はただ、カードを配ればいい。後は神様に任せよう」

いろはは、躊躇いがちにレザンを見る。
レザンは苛立った態度で、早く配るよう身振りで示した。
いろはは震える手でカードを切ると、レザンとシトロンにカードを配る。
奪い取るようにカードを手にしたレザンに対し、シトロンは椅子に背を預けたまま、カードを見ようともしなかった。
レザンは舌打ちし、苛々とシトロンを睨みつけ、

「あんた、さっさとカードを取れよ」
「いや、僕はこのままで。交換もしない。全ては神のご意志だ」

微笑むシトロンを上目で睨みながら、レザンはカードを二枚交換する。
周囲の目全てが固唾を飲んで見守る中、レザンとシトロンは、同時にカードを場に広げた。