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リスティア異聞録 4.2章 ライラは生きたいと願った

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「私のバイバイしたかった昨日の話は、ここでおしまい……」

と、語り終えたライラはユーミルの様子を眺める。もっと、色んな反応が有るのかと思ったら、別段さっきと様子が変わる訳でもなく、こちらを真っ直ぐに向いているだけなので拍子抜けしてしまった。不幸自慢……のつもりではなかった、単に語ってみたかった。語って自分の中で消化したかった。それだけのことに付き合わせてしまったことに少しの罪悪感を感じていた。しかし、どこかで「聞いてもらいたかった」というのも有ったのかも知れない。こちらにこれ以上続ける言葉が無いことを確認して、ユーミルは口を開く。

「んー…… でも、バイバイして良いの? 辛いこといっぱい有ったけど、大事な思い出もいっぱい有ったんじゃないの? それ全部が今のライラを作ってるんじゃないの?」

「言ってくれるじゃないの…… ガキんちょのクセに……」

ライラは痛いところを突かれた…… と、思った。別に怒った訳ではない。本当に痛かったのだ。

「じゃあ、私のこと、今ここで抱いてよッ!」

涙声で絞り出すような声で言う。自分でもそのようなつもりは無いのに、そのような声が出たことに自分でも驚いている。

「えぇ…… できないよ……」

「やっぱり嫌なんじゃない!? こんな色んな男に抱かれた汚ない女! 私だって嫌よ! だからバイバイしたいの!」

「そういうことじゃなくて…… 今、ここでライラのことを抱いてしまったら、僕が一緒に仕事していく仲間として見れなくなると思う。抱いたら、絶対に特別な感情抱いてしまうし、絶対に好きになっちゃうし、好きになった人に人殺しなんかさせたくないし。僕のことが好きで、抱かれたくて仕方無い! っていうのなら、このヴァーミリオン騎士団を退団してよ。そうしたら抱くよ」

ライラは「あ、この男、簡単ではない……」と思った。まだ少年。若くて敏感な底無しの性欲が身体を渦巻いているはずのこの少年が簡単ではなかったことに驚いている。男なんて一様に簡単なのだと思っていた。哀れまれたかった。抱かれたかった。もしくは汚ない女だと蔑まれたかった。どんな綺麗な皮を被っていようと、どのような綺麗な建前を持っていようと、男なんて簡単な獣なのだと失望したかった。簡単ではない男も居るのだと認識してしまった。答えをひとつに絞れない迷路に迷い込んでしまった。しかし、それが、心地良くもあった。

「騎士団辞めるのは駄目。それだけは無し」

生の感情を剥き出しにしてしまったこと、それによって作ってしまった間を埋めるようにグラスを傾ける。そして、いつもの妖艶な笑顔を作って聞き直す。

「今度は聞かせて。あなたのこと」

ユーミルがこれまでにあったことを話しはじめた。しかし、話ながら酒を飲んでいるうちに、あろうことか語り手であるユーミルが寝てしまった。ライラは殆ど空になった酒瓶を片付け、酒の匂いの充満した部屋を換気するために、扉を開け、空を眺める。

「うん! ちょー どーでも良い!」

伸びをしながら少し大きめの声で独り言を言うと扉を締める。夜勤用の備品である毛布を取り出してユーミルにかける。

「もっと立派なナイト様になって、私を惚れさせてね。手放しで飛び込めるくらい」

そう言って、ユーミルの頬に静かにキスをする。そのまま寄り添う。ユーミルにかけた毛布を伝って感じる体温、彼の口から溢れる酒の匂い。ライラは入り混じった感情を消化出来なくて涙が溢れてくるのを感じた。

「どうでも良くなんて…… ない」

声を殺して泣く。何年ぶりかに泣く。そして、泣き疲れて眠ってしまう。

翌朝、窓から光が刺し込む。二日酔いの鬱々と混濁した脳味噌には爽やかな朝日が実に鬱陶しい。鬱陶しさに拍車をかけるような勢いで扉が叩かれる。

「ごめんくださーい。斡旋所で紹介されてきたのですがー」

これが、義賊ロメオとヴァーミリオン騎士団の出会いであった。

ーー 第20会戦 バルフォグ湖にて

銀髪の少女4人がユーミル隊の横腹に取りつく。

奇襲!?

この娘達、何かがおかしい……
駄目、殺される。確実に殺される……

せめて……

せめて……ユーミル、あなたは生き延びて!

嫌だ、死にたくない

やっぱり死にたくない……

でも、この細剣、何回かわせるかは分からないけれど、
ユーミルに幻惑の魔法をかけるまで、もたせて見せる!


ライラが目の前の戦乙女の動きに注視しながらミラージュアイの魔法の詠唱を始める。
しかし、見ていたはずの戦乙女の背後に潜んでいた細剣が既に彼女の喉を貫いていた。

ーー ユニオン ヴァーミリオン騎士団 ユーミル隊 バルフォグ湖 湖岸にて全滅