こらぼでほすと ケーキ9
空港まで出向いて、チェックインを済ませると、人気のない場所に移動した。アスランから現在、『吉祥富貴』で準備していることや、救助方法などを説明されて挨拶される。移動中も、その話は打ち合わせていたので、簡単な確認というレベルのことだ。
「基本的に、俺たちは俺たちで勝手に動く手筈だから、こちらへの通信は届かないと思ってくれ。一応、緊急通信だけは拾えるように手配はしているが、直接援護はできない。」
「了解している。」
「ティエリア、さくっと終わらせて、さっさと戻って来てね? それまで、ママは僕たちが借りておくよ。」
「ああ、ニールの健康管理を頼む。あの人は、こちらがきっちりと管理しないと勝手に具合が悪くなる。そこは頼んだぞ、キラ? おまえたちに、しばらく、俺たちのおかんは貸してやる。貸してやるだけだからな。」
子猫たちが降りて来られないのだから、『吉祥富貴』の年少組に貸し出してやるのは仕方がない。だが、貸すだけだ。戻ったら独占するのは俺たちだ、と、ティエリアは宣言する。
「もちろん、返すよ。」
キラは、ニパニパと笑って頷く。実際は、すでにニールは組織から外れているので、『吉祥富貴』のものだが、そこいらの言及はしなかった。
「ティエリア、デュナメスの後継機のマイスターは、俺が連れて行く。選定できていないのだから、それでいいな? 」
刹那が見送りについてきたのは、このことがあったからだ。ニールが推薦した男は、確かにマイスターの素質はある。ただ、刹那が、どうしても今すぐに連れて行くとは言えない。最終的に親猫に、本当に連れて行くことは許せるのか確認しなければならなかったからだ。この数年、世界を放浪してマイスター候補も、それとなく探していたが、結局、見つけられなかった。
「それは誰なんだ? 刹那。データを渡せ。」
「まだダメだ。俺が戻ったら説明する。」
ティエリアは反対するだろう。だから、直接、逢わせてしまうつもりだ。親猫が躊躇ったら、それも連れて行かないかもしれない。
「うん、まあ、イケメンではあるよね? 刹那。」
キラも誤魔化す方向で、話を摺りかえる。本当に、ママは反対しないのか、キラにもわからない。もし、最後の土壇場で反対したら、やはり連れて行かないように阻止するつもりだ。欠員ができたら、マイスターの力は弱くなるが、補充は組織でしてもらうしかない。たぶん、ママは反対しないだろうとは予想している。どこにいても安全ではないが、組織のほうが、今現在そのマイスター候補がいる組織よりは生存確率は高いからだ。
「イケメン? バカ面の間違いだろ? キラ。」
「えーひどくない? 」
そのバカ面と評している顔は、刹那のママと瓜二つだ。あんまりじゃない? と、キラはツッコミしたが、刹那のほうは違うらしい。
「あれと、うちのは違う。うちのは綺麗だが、あれはバカ面だ。」
「そうかなあ。僕にはわかんないけど。」
「実際に見ればわかる。・・・・ティエリア、そちらでマイスター候補の選定ができなければ最終的に、それを連れて行く。」
「バカ面のマイスターだと? そんなもの、使えるかっっ。」
「では、探しておくんだな。それまでは保留扱いだ。」
「わかった。マイスター候補も選定できるならやっておく。・・・・なるべく早めに戻って来てくれ、刹那。新しい機体の太陽炉は必要だ。」
「わかっている。ユニオンが終わったら上がるつもりだ。夏になる。」
というのも、親猫は梅雨時分に弱るので、その間は、滞在するつもりだからだ。それはティエリアにも理解できているから、夏という言葉に頷く。
「そうだな。ニールの世話を頼む。」
「了解だ。機体の整備は任せる。」
「わかっている。おまえの機体以外は完璧に始動できる状態にしておく。」
次に逢う時は再始動の時だ。そこからは、マイスターとして可能な限り、世界の歪みを叩き潰すつもりだ。顔をつき合わせて握手する。次からは刹那がマイスター組リーダーだ。そうティエリアも内心で決めた。刹那ができない部分は、自分がフォローできる。それぐらいの信頼関係はあるつもりだ。
「ファイナルコールだ。」
アスランが、空港内の出発情報を確認して声をかける。わかった、と、ティエリアは出発ゲートへと足を進める。ゲートを通り抜けたところで、最後に振り返って、ティエリアは微笑んだ。待っている、と、無言で告げた。刹那も、こくんと頷いた。
刹那は、翌日、ニールと共に寺に戻った。天候は安定しているから、戻れば、いつものように親猫は動き出す。
「おまえさんは、いつ出発だ? 」
洗濯物を干しながら、親猫は尋ねた。こちらも、時間の余裕があるわけではない。さっさと行け、という親猫からの圧力だ。
「明日の夜だ。」
「そうか。・・・・ひとつ、おまえさんに課題を出しておく。再始動が終わったら、何をするか考えてみろ。」
「終わったら、また体勢を立て直して組織を維持することになるだろう。俺には戦う以外の生き方は思い浮かばない。」
刹那の人生は、物心ついたときから常に戦いの中にあった。戦わないで生きるなんていう選択肢は存在しなかった。そのまま、組織に拾われて今まで生きてきたから、それ以外の生き方なんて考えられない。だから即答だ。
それを聞いて親猫は苦笑した。洗濯物を干していた手を休めて、黒子猫に向き直る。
「確かに、そういうことになるだろうけど、それだけじゃない。キラたちは戦わない方法で世界を変えられないか、常に模索しているだろ? それに、おまえさん、アザディスタンのお姫様に生きてることを伝えてないじゃないか? あのお姫様の提案することも、ひとつの方法ではあるんだ。世界から紛争を根絶するために戦うだけじゃないこともあるんだ、ということは考えたほうがいい。・・・・・戦って勝って生き残ったら、何かできることがあるはずだ。そういうものも考えろって、俺は言ってんの。わかるか? 」
ニールは戦って全てが終わった後のことなんて考えていなかった。あるのは死ぬことだと思っていたからだ。だが、ニールは死ななかったし子猫たちのために生きている。そんなふうに戦った後のこともあるのだと気付いて欲しかった。ただ戦って死んでいくという考え方では未来なんてものはないからだ。
「世界から贖罪を求められる。」
「もちろん、それもある。けど、死ぬことだけではないんだ。俺は、まだ生きてるだろ? 」
マイスターが死ぬことでとれる責任はないのだと、以前、トダカとアマギに説教された。生きていれば、違う形で、その罪を購えるのだと言われたから、刹那にも説明しておくことにした。死ぬまで戦い続けていればいい、という刹那の考えを変えたかったからだ。
「あんたは生きていなくちゃいけない。俺はいい。」
「そういう覚悟で戦いに望むな。マイスターは死ぬだけで世界の変革を終わらせられるものではないんだ。・・・・おまえが生きていく未来というものも考えろ。」
もちろん、戦闘中に負ければ即座に死が待っている。それは否定しないが、生き延びたら、また、そこから違う世界に関わっていくことになる。その時、刹那が、どうやって生きていけばいいのか、朧気ながらにもビジョンを持たせたかった。
「基本的に、俺たちは俺たちで勝手に動く手筈だから、こちらへの通信は届かないと思ってくれ。一応、緊急通信だけは拾えるように手配はしているが、直接援護はできない。」
「了解している。」
「ティエリア、さくっと終わらせて、さっさと戻って来てね? それまで、ママは僕たちが借りておくよ。」
「ああ、ニールの健康管理を頼む。あの人は、こちらがきっちりと管理しないと勝手に具合が悪くなる。そこは頼んだぞ、キラ? おまえたちに、しばらく、俺たちのおかんは貸してやる。貸してやるだけだからな。」
子猫たちが降りて来られないのだから、『吉祥富貴』の年少組に貸し出してやるのは仕方がない。だが、貸すだけだ。戻ったら独占するのは俺たちだ、と、ティエリアは宣言する。
「もちろん、返すよ。」
キラは、ニパニパと笑って頷く。実際は、すでにニールは組織から外れているので、『吉祥富貴』のものだが、そこいらの言及はしなかった。
「ティエリア、デュナメスの後継機のマイスターは、俺が連れて行く。選定できていないのだから、それでいいな? 」
刹那が見送りについてきたのは、このことがあったからだ。ニールが推薦した男は、確かにマイスターの素質はある。ただ、刹那が、どうしても今すぐに連れて行くとは言えない。最終的に親猫に、本当に連れて行くことは許せるのか確認しなければならなかったからだ。この数年、世界を放浪してマイスター候補も、それとなく探していたが、結局、見つけられなかった。
「それは誰なんだ? 刹那。データを渡せ。」
「まだダメだ。俺が戻ったら説明する。」
ティエリアは反対するだろう。だから、直接、逢わせてしまうつもりだ。親猫が躊躇ったら、それも連れて行かないかもしれない。
「うん、まあ、イケメンではあるよね? 刹那。」
キラも誤魔化す方向で、話を摺りかえる。本当に、ママは反対しないのか、キラにもわからない。もし、最後の土壇場で反対したら、やはり連れて行かないように阻止するつもりだ。欠員ができたら、マイスターの力は弱くなるが、補充は組織でしてもらうしかない。たぶん、ママは反対しないだろうとは予想している。どこにいても安全ではないが、組織のほうが、今現在そのマイスター候補がいる組織よりは生存確率は高いからだ。
「イケメン? バカ面の間違いだろ? キラ。」
「えーひどくない? 」
そのバカ面と評している顔は、刹那のママと瓜二つだ。あんまりじゃない? と、キラはツッコミしたが、刹那のほうは違うらしい。
「あれと、うちのは違う。うちのは綺麗だが、あれはバカ面だ。」
「そうかなあ。僕にはわかんないけど。」
「実際に見ればわかる。・・・・ティエリア、そちらでマイスター候補の選定ができなければ最終的に、それを連れて行く。」
「バカ面のマイスターだと? そんなもの、使えるかっっ。」
「では、探しておくんだな。それまでは保留扱いだ。」
「わかった。マイスター候補も選定できるならやっておく。・・・・なるべく早めに戻って来てくれ、刹那。新しい機体の太陽炉は必要だ。」
「わかっている。ユニオンが終わったら上がるつもりだ。夏になる。」
というのも、親猫は梅雨時分に弱るので、その間は、滞在するつもりだからだ。それはティエリアにも理解できているから、夏という言葉に頷く。
「そうだな。ニールの世話を頼む。」
「了解だ。機体の整備は任せる。」
「わかっている。おまえの機体以外は完璧に始動できる状態にしておく。」
次に逢う時は再始動の時だ。そこからは、マイスターとして可能な限り、世界の歪みを叩き潰すつもりだ。顔をつき合わせて握手する。次からは刹那がマイスター組リーダーだ。そうティエリアも内心で決めた。刹那ができない部分は、自分がフォローできる。それぐらいの信頼関係はあるつもりだ。
「ファイナルコールだ。」
アスランが、空港内の出発情報を確認して声をかける。わかった、と、ティエリアは出発ゲートへと足を進める。ゲートを通り抜けたところで、最後に振り返って、ティエリアは微笑んだ。待っている、と、無言で告げた。刹那も、こくんと頷いた。
刹那は、翌日、ニールと共に寺に戻った。天候は安定しているから、戻れば、いつものように親猫は動き出す。
「おまえさんは、いつ出発だ? 」
洗濯物を干しながら、親猫は尋ねた。こちらも、時間の余裕があるわけではない。さっさと行け、という親猫からの圧力だ。
「明日の夜だ。」
「そうか。・・・・ひとつ、おまえさんに課題を出しておく。再始動が終わったら、何をするか考えてみろ。」
「終わったら、また体勢を立て直して組織を維持することになるだろう。俺には戦う以外の生き方は思い浮かばない。」
刹那の人生は、物心ついたときから常に戦いの中にあった。戦わないで生きるなんていう選択肢は存在しなかった。そのまま、組織に拾われて今まで生きてきたから、それ以外の生き方なんて考えられない。だから即答だ。
それを聞いて親猫は苦笑した。洗濯物を干していた手を休めて、黒子猫に向き直る。
「確かに、そういうことになるだろうけど、それだけじゃない。キラたちは戦わない方法で世界を変えられないか、常に模索しているだろ? それに、おまえさん、アザディスタンのお姫様に生きてることを伝えてないじゃないか? あのお姫様の提案することも、ひとつの方法ではあるんだ。世界から紛争を根絶するために戦うだけじゃないこともあるんだ、ということは考えたほうがいい。・・・・・戦って勝って生き残ったら、何かできることがあるはずだ。そういうものも考えろって、俺は言ってんの。わかるか? 」
ニールは戦って全てが終わった後のことなんて考えていなかった。あるのは死ぬことだと思っていたからだ。だが、ニールは死ななかったし子猫たちのために生きている。そんなふうに戦った後のこともあるのだと気付いて欲しかった。ただ戦って死んでいくという考え方では未来なんてものはないからだ。
「世界から贖罪を求められる。」
「もちろん、それもある。けど、死ぬことだけではないんだ。俺は、まだ生きてるだろ? 」
マイスターが死ぬことでとれる責任はないのだと、以前、トダカとアマギに説教された。生きていれば、違う形で、その罪を購えるのだと言われたから、刹那にも説明しておくことにした。死ぬまで戦い続けていればいい、という刹那の考えを変えたかったからだ。
「あんたは生きていなくちゃいけない。俺はいい。」
「そういう覚悟で戦いに望むな。マイスターは死ぬだけで世界の変革を終わらせられるものではないんだ。・・・・おまえが生きていく未来というものも考えろ。」
もちろん、戦闘中に負ければ即座に死が待っている。それは否定しないが、生き延びたら、また、そこから違う世界に関わっていくことになる。その時、刹那が、どうやって生きていけばいいのか、朧気ながらにもビジョンを持たせたかった。
作品名:こらぼでほすと ケーキ9 作家名:篠義