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こらぼでほすと ケーキ9

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「それは私ではないよ。うちのものたちが、きみの静養のために用意したものだ。私も、色違いを貰ったんだ。」
 温かい素材のパジャマを渡されて、ニールが尋ねると、そう返された。ほら、これが私のものだ。ペアルックって言うんだよ? と、そのパジャマを見せて大笑いしている。チェック柄のもので、ニールのは白地に赤の線、トダカのが白地に青の線というものだ。
「きみのはトダカさんに贈るついでだ。」
 送迎してくれたアマギが、そう後押しするので、仕方なく頂戴した。里に帰っているんだから、ゆっくりしなさい、と、寝室に押し込められてしまうと、もう反論とか言う段階ではない。トダカ家に戻ると、ほとんど何もすることがない。ブランチはトダカが作ってくれるので、軽い夜食を作って晩酌に付き合うぐらいしかやることもない。なんせ部屋は毎週、徹底的にハウスクリーニングされているし洗濯も大量ではない。それに、シンとレイが泊まりに来て一緒になって家事をしてくれるからだ。
 二、三日して、仕事が終わった面々が帰ってきた。夜食の準備はしているから、出迎えたら、シンからスーツ一式を渡された。もちろん、シンたちも仕事着のままで帰ってきた。いつもは店で着替えてくるのにおかしいな、と、それを手にした。
「仕事着の洗濯か? 」
「ちげぇーよ。それ、ねーさんの。明日、休みだからメシを食うんだ。」
 明日は土曜日で、仕事は休みだ。ということで、ようやく食事会の予約を入れたのだ。こればかりはトダカ家一同のみということになっているから、親衛隊にも断りを入れてある。
「メシ食うのに、スーツ? なんで? 」
「シンとレイが無事に大学を卒業したからね。そのお祝いに、私が食事を奢ることにしたんだ。」
「え? 卒業? 」
 ニールは大学に通っていることは知っているし、アカデミーの入学準備をしていることも教えてもらっていた。だというのに卒業というのが頭になかった。これ、と、レイが筒に入った証書を取り出して見せてくれた。特区の言葉で書かれているので、それ自体は読めないのだが、一番後ろにスタンダードで書かれている言葉に、ようやく卒業証書だと理解した。
「あ、そうか。今年、卒業か。夏じゃないんだな。」
 ニールが知っている卒業は、夏だ。アジア圏の卒業時期というのは知らなかった。
「特区は春に卒業すんだよ、ねーさん。どうだ? 俺たち、無事に卒業したんだぜ? 」
 シンも自分の証書を見せて自慢する。刹那が出かけて、ニールが風邪を患ったから報告も食事会も遅れてしまった。ようやく外出できそうだから、と、予定を入れた。
「おめでとう、シン、レイ。じゃあ、アカデミーも春に入学か? 」
「うんにゃ、アカデミーは秋から授業は開講すんだ。でも、その前に、アカデミーの研修とか講習とかあるから、春から、研修の一環でプラントへ行って来る。」
 これは事実で、アカデミーは世界共通の始業となっていて、秋に開講する。その前の半年は、事前カリキュラムが用意してあって、それに参加することもできるのも事実だが、シンたちは、ここから休学することになっている。その部分は教えない方向だ。
「四月から何ヶ月かプラントへ行かなければならないので、その前にトダカさんが家族でお祝いの食事をしようとおっしゃったんですよ、ママ。」
「きみの体調が整ったから、明日、少し贅沢なものでもシンたちに奢ってやろうと思ってね。そろそろ、そういう食事も体験させておかないといけない年頃だ。」
「俺も? 」
「当たり前だろ? とーさんが、ねーさんのことを娘って言ってるんだし、レイもママって呼んでるし、俺、ねーさんって言ってるじゃんか。明日の夜は、ドレスコードがあるからスーツ。」
 まあ、そう言われればそうだ。里帰りと称してトダカ家に居候しているのだから、そういうことになる。
「俺も、何かお祝いさせてもらってもいいか? 」
「それなら、俺、ママにお願いしたいことがあるんです。」
 レイが嬉しそうにニールの腕に抱きつく。品物ではない。ちょうど、ニールに贈り物を渡すイベントも予定していたから、そのためのお願いだ。
「なんだ? レイ。」
「四人で、日曜日に遠足をしたいんですが、一緒に出かけてもらえませんか? 」
「遠足? 」
「ピクニックって言ったらわかるかい? 娘さん。こちらでは、子供を連れて散歩することを遠足というんだ。」
「動物園とか水族館とかでもいいし、公園を歩くのも遠足。簡単な山登りっていうのもあるし、まあ、どっか出かけて、弁当を食うってやつ。・・・・なあなあ、ねーさん。刹那に弁当してやってただろ? あれの豪華版を作って遠足やろうっっ。俺も、お祝いはそれがいい。」
 そろそろ気候も暖かくなってきた。昼頃なら外で食事するにも、いい感じだし、日曜は晴れるという予報だから、そういうことにした。シンは子供の頃に学校行事で体験しているのだが、レイにはなかった。だから、そういうことを楽しみたいと提案したのだ。
「それって、俺はお祝いに豪華弁当を作るってことか? 」
「そうそう、チューリップと出し巻きは外せないぜ。それから、エビフライと肉巻きと・・えーっと、あと、スティックサラダとかさ。」
「俺、刹那が食べてた色とりどりのおにぎりを希望します。あれはおいしそうだった。」
 刹那がラボへ整備の手伝いで出ていた時に、シンとレイもラボにいた。毎日、刹那が違うお弁当を食べていたので羨ましくなった。さすがに、そういう家庭的な弁当というのは、トダカ家では作れない。お願いすれば、ニールは作ってくれるが、豪華版というのはない。一度、そういうものが食べたいと、シンとレイは意気投合して考えたのだという。
「そういうことなら、言ってくれれば作るのに。」
「だから、作れ。お祝いだから豪華版でっっ。」
「俺も手伝いますからお願いします。」
「私も食べてみたいな? 娘さん。」
 三人からねだられて、ニールは、了解と頷いた。そういうものなら、自分でもできる。品物より、レイは、そういう家庭的なものがいいと言うのだから、徹底的に豪華なのを製作することにした。
作品名:こらぼでほすと ケーキ9 作家名:篠義