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生徒会と麻婆豆腐

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「二人で食べると美味しさが二倍になるのよ? 結弦も言ってた」
「え!?」
 かなでから「結弦」の言葉が出たとたん、思わず直井はかなでの方に顔を向ける。
「あっ」
 かなでの細い指で持たれているレンゲが直井の口に、一直線で飛んできた。
「!?」
 半ば無理矢理麻婆豆腐を口に入れられた直井は、そのままもぐもぐと口を動かし、

「~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!??」

 声にならない悲鳴を上げ、涙目のままテーブルにあった(かなでが麻婆豆腐を食べている間、特にすることもなかったので何気なく注いでいた)水を一気に飲み干す。
 はあはあと荒い息を整えていると、明るい色の髪の毛が視界に入る。背中には温かい感触が上下に動いていた。
「……大丈夫? 顔が赤いわよ?」
 顔をあげると、心配そうな表情を浮かべたかなでの顔があった。
「…………ああ、……まぁ……ゲホッ! ……のどを少し痛めただけです、さっきの叫びで……」
 半分はお前のせいだ、と怒鳴りたくなったが、彼女の顔を見ていると何故かその気が薄れる。
「そう。よかったわ。……ねえ、この麻婆豆腐、あなたも一緒に食べない? 時間がないから、最後の一杯」
「まだ食わせる気か! ……僕はいいです。生徒会長が最後の一杯、食べてください」 
 そう言って出口に向かって歩き出そうとすると、またかなでに――今度は手を掴まれた。
「私が食べ終わるまで、ここにいて。一人だと心細いから」
 目を逸らして言われた。雪のように白い肌は、ほんのりと桃色に染まっているように見えた。
 直井は、かなでの顔と自分の顔を同じ高さにして、微笑みながらはっきり、答える。
「分かりました」



 テーブルの向かい側に座って、美味しそうに麻婆豆腐を食べるかなでに溜め息をつき、本当に好きですね、と皮肉っぽく呟いてから直井は頬杖をついたまま窓の外を見る。
 この世界での何度目かの初雪。同じ年齢のまま何度も見たが、今年の雪はいつもより白く見えた。
「美味いわ」
 雪のように澄んだ声のかなでの呟きが、二人の他に誰もいない食堂に響いた。
作品名:生徒会と麻婆豆腐 作家名:伊織