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たとえばそれが許されなくても僕は

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灯りが落ちて暗闇に呑まれた世界で、晶馬の影を気配だけで探る。
手の先に触れた柔い感触が、否定するように後退した。

「もうやめろよこんな事」

強気な台詞とは裏腹に、震える涙声。
ぎゅっと縮こまるのを冷えた空気から悟り、俺は無表情で晶馬の腕を強く握った。
襖を隔てたその奥で眠る陽毬を起こさぬよう細心の注意を払って、それでも晶馬は大きな拒絶を示す。
咎める様に振り払おうとする力を許すつもりは毛頭なく、壁際まで追い詰めた晶馬の背を容赦なく叩き付ける。
小さく漏れた呻き声の後に零れるのは詰る音だけ。
委縮した身体がカタカタと震えるのが掌を通して分かる。
その一挙一動が俺を苛立たせる。

力任せに繊細な腕を引けば、咄嗟の事に受け身を取れなかった身体が俺の腕の中に簡単に収まる。
強引に唇を奪えば、後は為すがまま。
どんなに抗っても、結局は逆らえない無力な存在なのだ。


「やだ、いやだ、やめて…っ」

力の入らない身体を布団の上に転がせて、上から見下ろす瞬間が最高に快い。
祈る様に何度も繰り返される否みの言葉。
何時も通り聞かぬ振りをして、強引に肌を曝け出す。
晶馬の喉がひくりと泣いて、ぎゅっと目を瞑る。
発展途上ではあるが、それでも充分色香を醸し出す柔肌に翻弄される。
撥ね付けようとする晶馬の頼りない腕を強く抑え込み頭上で一括りにすれば、悔しげに唇を噛み締めるのが分かる。
そして、静かに涙を溢した。

幾度この手に抱いたか、はっきりとは覚えていない。
だけど、何度狂乱の宵に陥れようとも、晶馬は頑なに堕ちようとしなかった。

晶馬にだけ一際輝く笑顔を見せる陽毬。
決してこちらには振り向いてくれない最愛の人。
歯痒い思いは日に日に膨らみ、行き場のない妬みの矛先は無垢な晶馬に向いた。
初めて晶馬を組み伏せた時、最初は意味が分からないと言った風に瞳を訝しげに揺らしていた。
制服の釦に手を掛けた所で漸く意図する事に気付いた晶馬が、先程の様に激しく抵抗したのを覚えている。


俺を決して受け入れようとしない晶馬。
間違ってると叫び続け、俺の想いの欠片すら聞き入れない唯一の人。
それだけで俺を突き動かすには充分だった。

不思議と後悔は無かった。それは今でも同じだ。
寧ろ、満たされていると言ってもいい。
あの時と変わらず、陽毬が振り向かずとも、晶馬が拒絶しようとも、充足感で溢れていた。


「ゃ、冠葉、もう、いやだ、」

啜り泣く晶馬の声。否定の言葉は聞き飽きた。
うんざりした気持ちを晴らす様に細い首筋に歯を突きたてると、ぷつりと浮かび上がる赤色。
晶馬が痛みから、小さな呻き声と共に身を捩る。

「いい加減諦めろよ」

刺すような冷酷な台詞にも、晶馬は頑なに首を横に振る。

「嫌だっ…僕は、ぜったいに…諦めな、い」

目を覚ましてよ冠葉。

震える声で哀願されても、動かされるものは何もない。
そうかよ、と吐き捨てて、豊満とは言い難い胸に舌を這わす。
あ、と小さく喘いで晶馬がぽろぽろと涙を流す。

(泣きたいのはこっちの方だ)

お前は昔から欲しいモノは全て手に入れてきたじゃないか。
温かい両親、愛らしい妹、溢れんばかりの愛情。
そのほんの少しでいい、俺にくれても罰は当たらないはずだ。
なのに、どうしてお前は冷たく突き放したりするんだよ。
お前が少しでも俺を認めてくれたら、それだけで世界は俺たちに優しくなるんだ、なのに。