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たとえばそれが許されなくても僕は

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「駄目、止めて…!」

「はっ、誰が」

鼻で笑うと同時に奥深くを抉り、晶馬を嘆きの海へと誘う。
ぎゅっと力いっぱい握られたシーツが波打って、じんわりと湿り気を帯びる。
俺は晶馬の両脇に手を置いて、精一杯嗤ってみせた。

「だから言っただろ?諦めろって」

希望を抱く程絶望が深くなる事など分かりきっている筈なのに、どうしてここまで強情に俺を引き戻そうとするのだろうか。

力なく横たえられた腕が、最後の力を振り絞る様に俺のそれに縋りつく。
それが何を意味するのかは分からないし、理解するつもりも無かった。
独り善がりな気持ちは彷徨ったままでも構わない。
それが俺の望む事であり、晶馬に対するささやかな報復なのだから。

陽毬の愛を一身に受ける事に対する復讐。
そして、俺の全てを受け入れず、その身に抱く膨大な愛を分け与えない事への復讐。
だから、ありったけの汚れた愛を胎に残してやるんだ。

満たされた心でひっそりと嘲笑えば、隠しきれない嗚咽を上げて哀を嘆く晶馬。
この瞬間が、何にも替え難い程に堪らない。

「も、いやだ…こんな、の、おかしいよっ」

今までの比ではない涙の数に、拭う手が追いついていない。
少し困ったように笑い、晶馬の痩せた指に自分の掌を重ね合わせる。

「泣くなよ」

「そ、なの、無理、に、決まってる、だろ…!」

途切れ途切れにしゃくり上げる声が痛々しい。
だけど、止めるつもりはないと掌に込める力。
それを感じ取ったのか、晶馬が潤む瞳で睨みつけてくる。

果たして、その虚勢はいつまで続けられるのか。
きっと、俺の残した愛が膨らんで、はっきりと形作られる頃には圧し折れてしまうだろう。
それで、いい。
やり切れない想いをその身をもって知り、俺の影を一生背負い、悩み苦しめばいい。
そして、俺を思い出して、自分の愚かさに嘆けばいい。
優しいお前は、俺の愛を最終的には受け止めて、綺麗に育んでいくだろう。
そう、その慈愛を俺の悲愛に注ぎ続けるんだ。
これ程素晴らしく、哀歓をもたらす事などこの世に二つとない。


「兄貴は、間違って、る」

平たい腹に手を這わせ、晶馬の心からの拒絶の音を感じる。
愛の音は、まだ聞こえてこない。

「まちがってる…!こんなの、違うん、だよ、」

俺のナニかを正そうとする、弱くて、それでいて芯の通った声。

「何も違わない。俺は、間違ってない」

胸に抱える重い鎖も、欲するが故に伸ばす掌も、密かに育てた複雑な狂愛も、何もかも間違ってなんかいない。

「お前は何も分かってない。分かろうともしないだろ」

間違っているのは、何も知ろうとしないお前だ。

「分かってる、分かってる、からっ、」

不器用なだけなんだよ、冠葉は。

晶馬が、泣いている。
必死に俺を手繰り寄せ、だから止めてくれ、と喚く。
いい加減反吐が出る。

(誰が止めてなんかやるもんか)

噛み付くようにキスを落とすと、晶馬はもどかしさからか、俺の腕に力強く爪を立てた。
例え晶馬が正しいとしても、俺は最後まで晶馬に哀を注ぎ続ける。
それは、とてつもなく壮大な復讐劇。
俺と晶馬の繋がっていた筈の道を裂いた、運命に対する復讐なのだから。