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プロローグ -永遠の子供達-

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クドと小毬がビーチボールを追いかけて浜辺を横切ってゆき、唯湖がテトラポットの上で2人を眺める。
沖には謙吾と真人と葉留佳が、素潜り競争をしていた。
「そろそろ海にいる連中を戻した方がいいかもな。」
僕がそうしようと思っていた頃、いつの間に後ろに立っていた恭介が言った。
「うん。そうだね。さすがに風が冷たくなってきた。」
そう言うと僕は立ち上がり波打ち際まで掛けてゆき、沖の3人に向かって叫んだ。
「おーーーーーーい!もう上がろーーーーー!陽が沈むよーーーーー!!!」
「まーだ遊んでたいよー!」
だだっ子のように葉留佳が沖から叫んだ。
いつの間にか僕の横にクドと小毬が並んでいた。
「井ノ原さーーーーん!宮沢さーーーーーん!葉留佳さーーーーーん!」
クドが舌足らずな声を張り上げる。続けて小毬が叫ぶ。
「ごぉはんですよぉ〜〜〜〜〜!!!」
「戻ります!!!」
いち早く葉留佳と真人がクロールを始める。
「あ!コラ!」
ワンテンポ遅れて謙吾が後を追う。見届けなくとも競争になるだろうこと知って、僕はクドと小毬に「行こう。」と声をかけた。
「夏のテトラポットは哀愁があると思わないか、理樹君。」
「わっびっくりした!」
「しかしその裏側にはフナムシがワサワサと居るのだよ少年!!」
気味悪いよ、と僕が言う前に。
「ふぇぇえええん!」
「聞こえません聞こえません聞こえません!!!!」
両脇にいた2人が急速に同時に平静を失った!
「ふっふっふ。この気持ち私一人で消化しまいぞ!」
青い顔の唯湖が訳の分からないことを豪語する。
どうやらテトラポットに座って哀愁を感じていた際に、足下でフナムシが群れていた現実を一人で受け止めきれなかったらしい。
「ゆいこさん、いじわるしないであげてよ。」
クドと小毬をフォローしながら、青ざめた唯湖の気晴らしに対応していると、後ろで「一番乗りははるちんです!夕暮れのはるちんです!」という声が聞こえた。
一寸遅れて『三枝〜〜〜〜!!』という謙吾と真人の怒りを帯びた声も聞こえたのだが、僕は振り返らず苦笑した。

「皆さん帰るには名残惜しく、何より時間も忘れて楽しんでいらっしゃるようでしたので・・・。」
美魚は相変わらずか細い声で、淑やかに言った。
「恭介さんと一緒に、手近で宿をとっておきました。」
「うわあい!」とか「やったー!」とか「気がきくぜー!」とかの歓喜の声がそこら中で上がる。
「ふむ。17の夏に海辺の民宿で男女が一夜のアバンチュールとは、おねえさんwktkが止まらないよ。」
一人要らぬ妄想を膨らましてインターネットスラングを発していたが、それは無視する。
「・・・・ご期待に添えなくて申し訳ありませんが、全員同じ部屋はとれなかったので男女で別れることに。」
「いいから!この人は無視していいからっ!!」
丁寧に詳細を述べる美魚を、僕は食い気味に静止させた。
「理樹は何を一人で焦っているんだ。」
鈴の飽きれたような声が聞こえたが、僕の性分なのでこればっかりはどうしようもなかった。


僕たちは隣接する民宿の別々の宿に泊まる事になった。
女子たちは6人一緒の部屋が取れたらしく、隣の宿からきゃあきゃあいう声が窓から聞こえた。
「なんだ理樹!一緒に風呂入ろうぜ!」
「狭いから2人ずつにしておけって女将さん言ってたでしょ。僕と恭介はシャワー浴びたから、部屋を汚す前に2人が先に入ってきな!」
語尾を強くして真人を制す。
どうしてそんなに僕が好きなんだ真人!
心の中でつっこみを入れながら、窓辺で風に当たっている恭介の向かいに座った。
向かいの僕と顔を合わせ、恭介がふっと笑った。

「よくがんばったな、理樹。」

鼓膜外圧が上がった気がした。
トンネルに入った時みたいに耳がボワってする。
肺が苦しい。
まだ海の中にいるみたいだ。
僕はゆっくり息を深く吸った。
みんなは忘れているのか、それとも水を刺したくないのか。
ベストエンディングには、繰り返していた世界という前提は消えてなくなったのだろうか。
そんな疑問が頭を過っていた。
それも恭介の言葉で、繰り返してきた物語を互いに認識させた。

「みんなで海に来たくて、そのために何度も皆を失望させた。」
大団円のラストのために、たくさんのバッドエンディングを通らなければいけなかった。
「お前が悔やむことなんかねーよ。あいつ等だって同じこと考えてるぜ。」
恭介の表情は代弁ではなく、自分のことを語っていた。
「お前一人に全員分の苦労背負わせて、お前一人に最悪な結末を何度を繰り返させた。」

この物語の中で僕という人間は、恭介よって主人公にお膳立てされた。自分で物語を先導することもできない、張三李四の極みだった。
比べて恭介という人間は、物語の筋書きを作ってゆく役割を背負っていた。
けれど、僕も恭介もこの世界で神様じゃないから。
やはり作られたシナリオを歩くことしかできなかった。

「だけどもう役目は終わったんだ。よくやったな、理樹。」

その優しい声色は、「よくやったな理樹、お前はよくがんばった。あとは全部俺に任せな。」そんな風に続きそうだったけど。僕はもうナルコレプシーを抱えていたころの僕じゃなかった。全部手放して恭介の背中を追いかける。それだけの自分には戻れなかった。

「ずっと。今までありがとう、恭介。」

僕は最後まで言いそびれていた言葉を口にした。

「なんだよ!俺が用済みみたいな言い方するなって寂しくて泣けるだろーが。」

恭介が口調を強めたので僕はつい笑って答えた。

「違うよ!恭介も役目は終わったんだ。ずっとずっと遊ぼう。謙吾と、真人と、鈴とみんなとさ。」

僕がそういうと恭介が、夕日のように優しく微笑んだ。
恭介の笑う顔なんて今までさんざん見てきたのに、僕は言葉を失ってしまった。

「ん?理樹?」
「え?あ、いやっ・・・。」
恭介に見とれていたなんて、バレたらなんだかとんでもないことになりそうだ。友情に対する冒涜だ!ここまで苦労して築き上げてきた美しい物語が台無しだ!僕は何を考えているんだ。友情様ごめんなさい。
僕は自分への一通りのつっこみを終えて恭介に向き直った。
「でも大人になれないのは、少し寂しいかな。ずっと17歳のままだなんて・・・。」
それは正直な気持ちだった。
こんなに乗り越えることを学んだのに、明日へ向かう勇気をもらったのに。
大人になれないなんて・・・。
「それは違うぞ理樹。」
藍色の空を眺めながら恭介が言う。
「俺達の時は止まってなんていない。繰り返してるわけでもない。ここには時間なんてない。ここは皆が笑っていられる。」


「俺達は永遠の中にいるんだ。」


それはなんとも心強い一言。
恭介が言うなら、きっとそうなんだろう。
もしかしたらここは、まだ恭介の思惑の中なのかもしれない。

「物語はまだ続く?」
「ああ。お前が望めばいくらでもな。」

僕たちの世界だって、宇宙を構成する素粒子でできてる。
ここには優しさがある。葛藤がある。悲しみがある。苦悩がある。喜びがある。憤りがある。笑いがある。希望がある。
僕には分からない。
物語の中で存在している僕たちと、現実と言われる世界の違いが。