うみものがたり
「綺麗な貝だね。どうしたんだい?」
アルフレッドが尋ねると、カップを手にしたアーサーが振り返った。アルフレッドが小箱の貝殻を取り出しているのを見て「あぁ」と質問の意を解した短い声を漏らして、ポットにお湯を注ぎ始めた。
「立ち寄った町の海辺で見つけたんだよ」
「珍しい色だね。初めて見た」
「菊が……喜ぶだろう」
アーサーの返事に、今度はアルフレッドが言葉を止めた。目に映るアーサーの横顔はとても穏やかだった。菊の話をする時のアーサーは優しい顔をする。不器用な優しさがこの時ばかりは素直に表れる。そんなアーサーの優しい顔が、アルフレッドは好きだった。持っていた貝殻を小箱に戻して蓋をし、静かにテーブルへ置くと、アルフレッドはアーサーの名前を呼んだ。
「ねぇ、アーサー」
アルフレッドの呼びかけにアーサーが顔を上げた。
アーサーの並べたティーセットから、芳しい紅茶の香りがふわりと漂い、辺りを包み込む。
「菊のこと、好き?」
碧緑の瞳を煌かせ、アーサーは淡く微笑んだ。