こらぼでほすと ケーキ12
「何を言ってるんだ。おまえ、かなり引き取り手が多いんだぞ? 」
「俺? 無茶を言う。」
明日は帰って、亭主の好きなものでも作ってやろう、とか、ニールは呟いている。どんだけいちゃいちゃだよ? と、ハイネは呆れているが、ニールは、そういう人なんで気にしてはいけない。
「俺にも愛を分けてくれ、ママニャン。」
「はあ? さっさと恋人作れよ、ハイネ。」
「もう、おまえでいい。」
「バカも休み休み言え。」
「ハイネ、三蔵さんにマグナムで撃たれるぞ? 」
「そうなんだよなあ。三蔵さんには、俺、敵わないんだよなあ。ちっくしょおーっっ。」
からかってんだか本気なんだか、ハイネも怪しい。まあ、居心地がいいのは、虎にも解る。殺伐とした空気に晒されていると、寺の穏やかな空気に触れたくなるのは仕方がない。
「娘さんや、水だ。そろそろお酒はダメだよ? 」
トダカが冷たい水を運んで来た。ちびちびと飲んでいたが、それでも酔ってはくる。ニールの顔が、うっすらと紅くなってきたから酔い覚ましを持参した。
「すいません、トダカさん。」
すかさずハイネがトダカと入れ替わる。満腹になったものから順番に戻って来て、今度は対戦ゲームが始まっている。
「ほら、〆のケーキだ。」
「紅茶はアールグレイにしておいたぜ、ママニャン。」
イザークとディアッカが、一足先にケーキを配達に来た。このままだと寝てしまいそうだから、用意してくれた。切り分けられたケーキを前にして、ぼんやりと眺める。毎年こうやって祝ってもらっているが、来年は、どうなるのかわからない。子猫たちの顔を思い浮かべて、少し苦そうに笑った顔に、じじいーずたちも苦笑する。
「来年のリクエストはあるか? ニール。」
「え? 」
「俺が勝手に用意しているが、たまには好みのものも用意してやるぞ。」
イザークは、そう言って、こちらも苦笑する。来年のことは、イザークにもわからないが、たぶん、この宴会は開催されるはずだ。こういうものがないと気分は変えられないし、ニールという日常に触れることで、自分たちも戦禍での正常な判断も狂わないと思うからだ。
「・・・次は・・・・果物たっぷりにしてくれ。刹那が好きなんだ。」
「わかった。考えておく。」
ケーキを口にすると、ほのかな涼しさがある。クリームに、そういうリキュールが入っているらしい。
「・・うまい。」
「当たり前だ。ペパーミントのリキュールで、あっさりしたものにしてある。これなら甘くもないから食べやすい。スポンジにもクリームチーズが混入されているからな。」
かなり特殊なケーキであるらしい。イザークが、用意するものは、そういうものだ。だから、美味いなんてのは当たり前、と、イザークは鼻で笑っている。食後に食べるから、そういうものを選んだ。
「どれどれ? うわぁー爽やかぁー。」
ニールのケーキを指でひと掬いして、キラもおいしい顔をする。ごらぁーとイザークは叱っているが、そんなものはスルーだ。
「イザークって、ケーキの調達させたら世界一っっ。」
「キラッッ、人のモノを盗るなっっ。アスラン、こいつのしつけはしっかりしろ。」
「すまないな、イザーク。」
と、謝っているアスランも、ニールのケーキをひと掬いして口に運ぶ。これだけの分量をニールは食べ切らないからの行為だ。
「ほんとだ。これはあっさりしててデザートには最適だ。」
「アッスランッッ、おまえまでっっ。」
「はい、おまえら、口開けろ。」
そして、ニールが切り分けてスポンジも食べさせてくれる。もにもにと食べて、ふあーっとキラは微笑む。スポンジにも独特の風味がある。アスランも、おお、と、唸っている。それを遠目にして、八戒も、ケーキの準備を始める。もう料理は、粗方消費された。残って後片付けと称して、食い続けているのは悟空だけだ。
「ケーキ食べる人は、取りに来てください。」
大声で叫ぶと、みな、ぞろぞろとダイニングにやってくる。イザークが選んでくるケーキはおいしいので、みな、これだけは別腹だからだ。
作品名:こらぼでほすと ケーキ12 作家名:篠義