願わくば
「晶馬」
「ん?」
何、と問われる前に、顔を近づけると大きな瞳が目の前に迫る。
程無くして、こつん、とぶつかる額と額。
最初は何事かと目を丸くしていた晶馬も、意図する事が分かった途端安心しきった顔で瞳を閉じた。
『僕たちは、二人で一つだ』
晶馬がまじないの様にこれをするのが好きだった。
何時しか俺の方が囚われてしまったけれど、その意味が変わる事はない。
俺たちは、二人で一つ。変わってはいけない偽事。
一つになんてなれやしないけど、そんな綺麗事がなければ俺は晶馬の隣に立っていられそうになかった。
「あ、流れ星」
何時の間にか瞼を上げていた晶馬の瞳が、僅かに映るその存在に気付いて空を見上げる。
つられる様に空を見上げて、その残像を追った。
祈りを捧げる様に深く閉じた瞳を見れば、途端にその美しさに吸い込まれる。
今、晶馬は何を願い、その瞳の奥を輝かせているのだろう。
汚れてしまった俺には到底理解出来ないけれど、それでも純潔に焦がれる気持ちは捨てきれず、晶馬に倣うようにそっと瞼を落とした。
願う事なんて、最初から決まり切っていて。
数秒と経たずに瞳を上げると、そこには艶やかに笑う晶馬が居た。
「何をお願いしたの?」
興味津々に身を乗り出す晶馬に、俺は思わず告げてしまいそうになる声をどうにか抑え込んだ。
(お前が隣に居て、願う事なんて一つだけだ)
出来る事なら、永遠に――――。
「お前なんかに教えるわけないだろ」
「何だよそれ!まぁどうせ可愛い女の子とアダルトできますようにーとかだろ。兄貴の考える事なんてお見通しだよ」
不貞腐れたように頬を膨らまして見上げてくる瞳に隠す本音は、痛い。
「ばっか、ちげぇよ。つか、お前こそどんな願い事したんだよ」
「えー、内緒」
「なんだよ。ま、どうせ明日の特売品ゲットできますように、とかだろ」
「違うよ!そんなんじゃないしっ」
「じゃあ何だよ」
「言わない。だって、兄貴、絶対笑うもん」
「やっぱ特売品…」
「違うってば!もうっ馬鹿にして!」
怒りに頬を赤くさせて、晶馬が軽く小突いてくる。
そして、最後にはやっぱり、綺麗に笑うんだ。
(なぁ晶馬。俺の願い事聞いたら、お前は笑い飛ばしてくれるか?)
偶然を装って重ねる掌。気付かない晶馬の穢れを知らない手。
「流石に限界だね。中入ろっか」
「そうだな」
「身体も冷えちゃったし、ホットミルクでも淹れるよ」
ほんのり甘くて、蕩ける様な蜂蜜を入れたそれは、晶馬に似ていて俺は好きだ。
「ああ。蜜は多めでな」
「いいけど、珍しいね」
うんと甘くしてあげる、と笑う晶馬はやはり眩しくて。
そんな夜だからこそ、何もかもを溶かすような甘さに酔ってしまいたかった。