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「・・・・・・・はい。」


グレイシアは最初から分かっていた。
分かっていてここへ連れてきて手当てをしたのだ。
エドワードは驚いたが、両手を合わせ、気休めだが変装として黒くしていた髪の色を戻した。


「俺がエドワード・エルリックです。」



「綺麗な髪をしてるわ、エリシアの言う通り。」

「・・・・?」


「ママ・・?」

「あらエリシア起きちゃった?」

「エリシア・・・」

「・・んん?・・あっ!!エドお兄ちゃんっっ!!」


「・・・ぇ・・」


奥から起きてしまったらしいグレイシアの娘、エリシアがとぼとぼと歩いてきた。
エドワードが思わずエリシアの名前を呼ぶと、エリシアは大きく目を広げ走りよってきた。
『エドお兄ちゃん』と言いながら。

だが、それはおかしいのだ。
あの日を境に関わった人達からエルリック兄弟の記憶は消えている。
今この世界に本当の意味でエルリック兄弟を知る人間は一人も居ないはず。
好意を持っている人間など普通に考えたら居ないはず。
だが、エリシアがエドワードに向ける眼差しは明らかに好意を示していた。


「エリシア・・・どうして?」

「エドお兄ちゃん会いたかった!!皆してエドお兄ちゃんを責めるの。ひどいの。」

「俺を覚えてるの・・か?」

「ねぇ、アルお兄ちゃんは一緒に居ないの?」


「・・・・っ!!・・」


エドワードはこの瞬間、確信した。
エリシアはちゃんと覚えている。
俺達と同じ記憶、正しい過去を覚えている。

どうして?

まるで分からない。



だけど・・・

だけど、可能性がある――

歪ませてしまったこの世界にはまだ可能性が残っている。




「・・・エルリック君、何があったの?」

「・・・・お話します。」

エドワードは自分が覚えている正しい過去を話した。
何も知らない人からすればそれはまるでふざけているような内容だ。
でも、グレイシアは黙って最後まで話を聞いていた。
そして、体を取り戻した後、全てが変わってしまったことを話した。
全てを話し終える頃には夜が明けてしまった。


「・・これで全部です。」


全てを聞き終えたグレイシアは膝の上で眠るエリシアの頭を撫でながら微笑んだ。


「・・エリシアはずっとあなたの話をしていたの。
だから私もあなたじゃないと思ってる。誰が何と言おうとね。
あなたの話した本当の過去は私には難しくて分からない。だけど、あなたを信じるわ。」


「・っ!!・・ありがとう・・ございますっ・・っ・・」


グレイシアはそっとエリシアをソファに下ろして布をかけてあげる。
そしてエドワードのことをを抱きしめた。
グレイシアが抱きしめながらエドワードの背中をさする。


「辛かったわね。」

「・・・・っ・・」





その後、グレイシアはエドワードを部屋へ案内し寝かせた。
グレイシアが退室するとエドワードは我慢せずに泣き続けた。
そして久しぶりにぐっすりと眠ることが出来た。

目を覚ますと夕方になっていて、グレイシアは温かい料理を作って待っていた。
その日の晩はグレイシアとエリシア、そしてエドワードの3人で食べた。
エドワードは久しぶりに笑顔を見せた。


「暫くは家に居なさいな。」

「・・・でも、」

「ここならきっと安全よ。」

「・・・俺もそう思います。でも・・行きます。」

「・・・そう、分かったわ。
でも、私に出来ることがあったら何でも言いなさい。」

「本当に、ありがとうございます。」

「今日はゆっくりしていって。」

「・・ありがとうございます。」


作品名:past 前編 作家名:おこた