何でもない日のお茶会【臨帝】
竜ヶ峰帝人は折原臨也と付き合っている。誰が何と言おうと二人は付き合っている。愛し合っているのだと宣言するにはちょっと帝人の気持ちはざわめいて落ち着かないが付き合っているのは確かなことだ。否定などさせない。
「臨也さんのこと好きだなぁ」
誰もいない何もない時に呟くぐらいに帝人の頭の中は折原臨也でいっぱいだった。誰に何を言われたわけでもなかったが何となく臨也と付き合っていると友人には口に出来ない。
体面が気になるというわけではなかったが気恥ずかしさと胸が苦しくなる何とも言えない感じが抜けられない。
恋愛そのものに帝人は慣れていないのだ。
今までの自立心が強い気持ちが嘘のように帝人の中で臨也の存在が膨らむ。友人、知人、家族、そのどれとも違う恋人という存在。甘くて照れくさくて夢みたいに掴みどころがない。
空を見て臨也みたいだと授業中に意識が反れた。
連想ゲームのように何かを見ると臨也を思う。そのぐらいにおかしくなっているのだ。幸せな壊れ方。恋しているとはこういうことだと帝人は甘い実感に酔う。
窓の外、青い空に薄っすらとかかった白い雲。触れれば溶けてなくなってしまいそうな雲が帝人には臨也に見えた。
昔はよく分からないものの塊のようだった折原臨也。
今は雲ではなく綿菓子なのではないのかと思う。口の中に入れればスッと溶けていく甘い砂糖菓子。優しく触れないと形が崩れてしまう白いふあふあ。作っている時の甘ったるい匂いは臨也に似ている。よく分からないことを言いながら帝人にべったり絡みつくその姿は食べるのに失敗して手を汚す綿菓子。以前ならそんな連想も出来なかっただろう。
帝人は想像する。ザラメが機械に入り熱を帯びた風が吹き、甘い雲が吐き出されていく光景。馴染のある砂糖が形を変える不思議にドキドキと胸を高鳴らせる。何でもない顔で割り箸でぐるぐると出来立ての雲を巻きつけていくのは神様にでもなった気分じゃないだろうか。
(そういえば)
お祭りの中で帝人は一度だけ大人に抱きかかえられながらわたあめを作ったことがある。結果は惨敗。割り箸に上手くくっつかずくっついたかと思えば歪。綺麗なふわふわとした丸にならない。悲しくなって食べずに見つめていたら地面に落ちてしまった。歪なせいで比重が偏っていたのだろう。汚れたらそれまで。もう一度作り直そうという気力は湧いてこなかった。
(ショックだったなぁ)
思い出しながら今もまた自分はわたあめを作っているのかと帝人は考える。軽くて口に入れれば甘く溶けてく白い綿菓子。乱暴に触れれば潰れてしまってぺったんこ。ふわふわだったのが嘘のように小さくなる。
追えば逃げていく折原臨也。
(……逃げたのは僕の方かな)
二人は付き合っていて、好き合っていてだからこそ近くにいるのだが、それは不思議な感じだった。
自分が臨也を好きなのはいい。臨也から自分が好かれているのが帝人は不思議で仕方がない。どうしてかと尋ねるのも気兼ねしてしまう。遊びではないのは知っている。本気だと分かっていても疑問は消えない。
晴れ渡った空の薄雲のように消えない。
昔は出来なかったわたあめを今ならちゃんと作れるのだろうか。また割り箸に引っかからず地面へ落ちてしまうのか。
作品名:何でもない日のお茶会【臨帝】 作家名:浬@