何でもない日のお茶会【臨帝】
(略)
昼食の席で話題がクリスマスの過ごし方になったのは幸運なのか不幸なのか。
「張間さんは手作りの帽子、手袋、マフラー、靴下をセットで作って渡すらしいです」
「あー、やりそう。あー、あー、はぁ~」
「正臣テンション低い……」
「お前、だって、お前ッ!!」
じたばたと暴れ出す正臣。
適当に中庭を指差す正臣のテンションは高い。
「彼女の手作りプレゼントと手料理は百万ドル出しても手に入らない価値があるんだぞっ!」
「なんで百万ドル」
「夜景? 君の瞳に乾杯ってそれの対になるのが手作りプレゼントだろ。お金で買えない価値がある!」
「そんなこと本当に言う人いないよ」
呆れる帝人に杏里は中庭の木を見る。
クリスマス仕様に飾り付けられていた。モミの木はないが気にするものでもない。
「イルミネーション綺麗ですよね。道を歩くのが楽しいです」
「夜に出歩くのは危ないよ?」
「そうだぞ、通り魔がいなくなっても杏里みたいなエロかわいい娘を狙うケダモノは次から次へと湧いてくるんだ」
表現はどうかと思ったが杏里は一回通り魔と遭遇している。
「日が落ちるのが早くなりましたから……」
「帰り道は真っ暗だよね」
「俺が帝人で送って行こうか?」
「何かおかしいよね?」
「ブラックサンタさんに襲われそうになったら帝人が俺と杏里を庇うんだぞッ! お前の犠牲は忘れないッ。俺は杏里と二人で一つの手作りマフラーで首を絞め合いながらケーキを食べるんだ」
帝人はブラックという単語で臨也を連想した。
(白い袋を臨也さんが持ったら……違和感、あるか……やっぱりおじいさんじゃないと)
頭の中の黒いサンタクロースを帝人は振り払う。
「首が絞まっていたらケーキが喉を通らないんじゃないですか? 大丈夫ですか?」
「園原さん、関わらない方がいいよ」
「さすが杏里。目の付け所が違うな。帝人はもっと恐れろ!ブラックサンタさんは悪い子のところのやってきて内臓投げてくるんだぞ」
「なんで?」
「嫌がらせ?」
「モツ鍋の材料やったーとかにならないの? 食費浮くじゃん。服が汚れるのは困るかな?」
「そんなに困ってたのか……? 仕方ない、この『授業中に眠っているヤツの口に入れて虫歯にさせるよう』のチョコをやろう。アメもあるぞ」
無理やり握らせられた一口サイズのチョコレートと飴を帝人はポケットに入れる。
「園原さんってマフラー作れる?」
「いえ、作ったことないです。……その、作ってはみたいんですけど私は張間さんみたいに器用じゃないから」
俯く杏里に帝人は「作ってみない?」と口にする。卑怯な気もしたが利用するものは何でも利用すべきだとも思った。
「たぶん園原さんがお願いしたら張間さんは教えてくれると思うんだ」
「え、でも……」
戸惑う杏里の背後に微笑みかける。
「いいかな、張間さん?」
張間美香が矢霧誠二と腕を絡ませながら笑っていた。
「任せて当然、友達じゃんっ☆」
「あ、じゃあ、その……よろしくお願いします」
深々と頭を下げる杏里に美香は「あははー、杏里ちゃんは大げさだなあ」と明るく笑う。華やかな張間美香。しっとりとした儚げな園原杏里。対照的であり並ぶと映えるのは今でも変わらない。
「……その、言い難いんだけど僕にも教えてもらえる?」
帝人の発言に正臣は飲みかけのカフェオレを噴いた。
「正臣にも作ってあげるよ」
「え、……いや、え?」
口元をぬぐいながら正臣は「ほわい?」と首を振る。
「なんだ、帝人……それはラブか? ライクか?」
「フレンドだよ。園原さんにもあげるね」
「あ、じゃあ私は竜ヶ峰君に作りますね」
ほのぼのと笑い合う二人。
「あぁ、モテるにはそういう技術もいるな。くっ、帝人に先を越されるとは……ッ!! じゃあ俺は二人に手袋作ってやるよ! 三人でクリスマスにナンパ行こうぜ! 『この手袋どこで買ったの?』『俺の手作りです、お嬢さん』この冬はこれで決まりだな!」
「そんな穴だらけの手袋はみすぼらしいよ」
「作る前から駄目出しッ!! 穴あき確定かよッ」
「穴がある方が指は動かしやすいですから……」
「杏里ちゃん、それフォローじゃないよ」
美香の言葉に勢いよく頭を下げる杏里。正臣も笑って気にしてはいない。
「五本指じゃないなら手袋も作れるんじゃない? どう? 張間さん」
「んー、どうだろう。紀田君って不器用そう」
美香は正臣を見定めるように目を細める。
「器用っす。針に糸を通すなんて目を瞑ってても出来るから」
「それは別の器用さだろ」
「誠二さんもやられますか?」
「いや、俺は……」
「矢霧君、帽子作ってみたら……練習に」
「ッ!! そうだな。いざという時のために」
正臣は「いざってなんだよ」と首をかしげていたが帝人は何も言う気はない。美香も帽子を被っていることが多いので誰も深くは気にしない。
(知り合いの中でこういうのが上手そうな人って張間さんなんだよな)
だが、直接美香に頼むのも気が引けた。
(みんなでならいいかなって……ずるいかもしれないけど)
こうして帝人は放課後に一緒にみんなで編み物をすることになった。帰りは遅くなるのだが仕方がない。クリスマスまでそんなに日がない。
作品名:何でもない日のお茶会【臨帝】 作家名:浬@