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【FF7】seed of heart【クラエア】

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ジリリリリ!!!
 
 頭で考えるよりも早く、左手が枕元に伸びる。
 目指すは目覚まし時計のオフボタン。
 
 ジリリリリリ・・・!!!
 まだ止まらない。やっと探し当てたスイッチを慌てて切る。
 眠たい目をこすり、俺はゆっくりと体を起こす。
 早く起きれる様にと、一番音がデカい目覚ましを買ってきたけど、失敗だったかな。
 毎朝うるさくてたまらない。
 そういえば、何で今日は早起きするんだったっけ・・・。
 思考回路の鈍い頭で考える。
 まったく、セフィロスを追っていた時と比べて、何とだらけた事か。
 あの頃は目覚ましなんか無くても、ちょっとした物音で飛び起きていたっけ。
 昔の事を思い出し、ふいに懐かしさが蘇る。
 そうだ、今日は昔の仲間と会う約束をしていたんだ。
 星の命を救ってから、俺達は一年に一度、ミッドガルで集まる事にしている。
 近況報告もあるが、皆で集まり昔を話す事によって、過去を大事にするためだ。
 過去を捨てては、いい未来は作れない。
 
 歯磨きをし終わった途端、部屋にチャイムの音が鳴り響いた。
 シャツの前ボタンを閉じながら、ドアを開ける。
「・・・元気?」
 そこには、幼い頃からずっと知ってる、屈託の無い笑顔があった。
「朝早くにごめんね。・・・起きたトコでしょ」
 俺は慌てて前髪を抑える。
 さっき鏡で見たとき直しておけば良かった。
「寒いだろ。上がれよ」
 俺はティファを家に招き入れた。
 アイシクルロッジ。
 ここは、一年中雪に覆われている。
 そう、エアリスの故郷だ。
 そして俺が今、住んでいる場所でもある。
 冷蔵庫から、ビールを二本取り出す。
「何、朝っぱらからお酒ぇ?」
 ティファのすっとんきょうな声に
「飲みたい気分なんだ」
 こう答えた。
「健康に悪いよ。第一、今日は皆で集まるんだから、また夜お酒飲んじゃうよ?」
「・・・そうだな」
「朝ご飯まだなんでしょ。何か作ってあげるよ」
 そう言うと、ティファは冷蔵庫の中を勝手に物色し、10分も経たないうちに、部屋には香ばしい香りが充満した。
 そんな彼女の姿を見て、手持ち無沙汰になった俺は近くにあったラジオを付けた。
 静かな部屋に、一気にハードなロックミュージックが流れこんでくる。
 俺の頭も、今そんな感じだ。
 あの戦いの後、皆が順々に故郷へ、帰るべき場所へと帰っていく中、ティファは最後まで飛空挺を下りなかった。

―――どこで下りたいんだ? もうミッドガルは過ぎたぜ
  ―――どこにも下りたくない
  ―――なんだよ、それ
  ―――だって、帰る場所がないんだもん
  ―――俺も無いよ
  ―――じゃあずっと一緒にいようよ
  ―――・・・・・・
  ―――ダメ? 

今でも、はっきりと覚えてる。
 あの時の、寂しそうなティファの顔を。
 すまないと、心から思う。
 彼女の事は好きだ。
 ライフストリームから、俺を救ってくれたのは彼女だ。
 孤独じゃないと、気づかせてくれたのは彼女だ。
 ティファがいるから今の俺があるといっても、過言ではない。
 でもダメだった。
 心のどこかで、俺はまだ・・・
「クラウド! 出来たよ」
 突然、頭が現実に引き戻される。
「たいしたもんじゃないけど、栄養はばっちりだからね!」
「・・・さんきゅ」
 カリカリのベーコンを、口にほお張る。
 胡椒の利いた独特の味が、じゅわあっと口の中に広がった。
「ここ、またしわが出来てるよ」
 とんとん、と彼女が眉間をさす。
 なんだかきまりが悪くなって、俺はぐいと牛乳を飲み干した(ビールはティファに取り上げられたのだ)。
「今・・・どうしてる?」
「あれ? 今話しちゃうの?」
 俺の言葉に、ティファが口をほころばす。
「皆で集まった時に近況報告がお約束でしょ~」
 ちらっと時計を見る。まだ朝の10時だ。
「約束の時間まで、まだ余裕があるし」
「それもそうか。でも、わたしは前と全然変わってないよ」
「コスタ・デル・ソルの酒場で働いているんだよな?」
「うん。クラウドったら、別荘があるくせに、全然来てくれないんだもん。つまらないよ」
 ティファがほっぺをぶうっとふくらませる。
「ごめん」
 俺は、それしか言えない。
 正直、何度も足を運ぼうとはした。
 でも怖いんだ。こうして、ティファは俺に会いに来てくれるのに、自分から行くのは怖いだなんて変な話だよな。
 きっと、どこかに後ろめたさがあるんだ・・・と、俺は思う。
 皆で集まる時以外、俺は極力アイシクルエリアから出ていない。
「シドが一番よく来てくれるんだよ。意外でしょ?」
「ロケット村から近いだけだろ」
「もう、クラウドのイジワル。そんな近くないもん。バレットだって、遠いのに来てくれるもん。
 そうそう、実は皆いっつもクラウドの別荘借りてるんだよ」
 くすくすと、ティファが笑う。
 噂で、コスタ・デル・ソルの酒はなかなかだと聞くが、こうして俺に話しに来るところからして、寂しいんだろうって思う。
 そこまで分かってて、何で一緒にいてやらないんだって、バレットが俺にカツを入れに来たっけ。
 ホントそれ。ここまで自分が情けない奴だったとは思わなかったよ。
 ラジオから流れてくる音は、いつしかハードロックからクラシックに変わっていた。
 ロック音楽よりも、まだクラシックの方が俺に合っているかもしれない。
「そろそろ行こっか?」
 時計は、11時を指していた。思ったより、大分話しこんでいたようだ。
「ご飯、おいしかったよ。ごちそうさま」
 たったそれだけの言葉なのに、すっごく嬉しそうなティファの顔を多分俺は一生忘れない。

 苦労して育てた愛鳥(?)海チョコボに乗って、俺達はミッドガルに到着した。
 am11時半。
 まだ少し、時間はある。
 一年前と比べて、また一段と街はキレイになったようだ。
 ケット・シーの頑張りの成果だろう。いや、ここはリーブと言うべきか?
「こっちは六番街だよ。行く?」
 ティファの指し示す方向に、公園が見えた。
 俺達が支柱を破壊したせいで、ボロボロになった公園も今は見違える様だ。
 考える前に、俺の足はそっちへと歩き出した。
 この先・・・この先は・・・
「教会に・・・行きたいの?」
 恐る恐る、といった感じだろうか。
 ティファの言葉には、懸念と・・・俺を探るような気配があった。
 俺は黙って足を運んだ。
 あの頃は、光が挿しこむのは教会と・・・あの家だけだったけど、今はこの公園にもさんさんと太陽の光が注がれていた。
 高鳴る鼓動を押さえ、教会へと出向く。
 屋根が見えた。
 あと数m・・・
 数cm・・・
 
 ギィ・・・
 鈍い音をたてて、教会のドアは開いた。
 その瞬間俺の目に飛び込んできたのは、ピンク色の服を着た・・・

「エアリス!!!」

 俺の手は空中を掴み、いい匂いのする花畑へと倒れ伏した。
 沈黙が、まるで一生の様に感じられた。
 本当は、一分かそこらだったんだろうけど。
 俺の体は震えていた。止まらなかった。
 肩に、そっとティファのぬくもりを感じる。
「クラウド・・・泣いていいんだよ・・・」
 泣いてないよ。