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Final Fantasy 6 ~すべてが始まる前~

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操りの輪。
 それを頭にはめた者は、自分の意思を保つことが出来なくなるという。
 一体誰がこんなものを作ったのかは定かでない。口に出すものはいなかったが、誰しもが疑惑を抱かずにはいられなかった。
 ベクタという都市の帝国の本拠地とも言える地下のそのまた下にある魔道研究所では、今まさにその飾りを付けた少女が数名の兵士に囲まれて監獄から出ようとしていた。
 別段、彼女は悪さをしたというわけではない。
 監獄と表現するのは少し言葉が悪いかもしれないが、とにかく彼女が今までいた所は用を足す洗面器が部屋の隅に置いてあるだけで、寝転がればごつごつとした石が背中を突き刺すような部屋だった。
 久しぶりの明かりに目がくらんだのか、少女の足がよろめく。
 明らかに一般兵と見て取れるもののうちの一人が、そんな彼女を早く歩けとでも言うように、容赦なく足蹴りしようとしたが肌の浅黒い一人の青年に止められた。
「丁重に扱えとのガストラ皇帝のお言葉だ。この先はわたしが引き受けよう」
 そう言って、少女を抱きかかえるようにして足を進める男の名をレオと言う。
 悪のイメージを持たれがちな帝国だが、彼だけは信頼できると人々は口をそろえて言うだろう。
 曲がったことが大嫌いで、『正義』という代名詞がふさわしい。
 もちろん立場上信念が貫けないこともしばしばあり、その事は彼の目下の悩みの種でもあった。
 本人はまだ気づいてはいないが、今そのやるせなさはちょうど芽を出したと言うところだろうか。
 一定の間隔を置いて壁に灯されている松明を頼りに、彼等は無数の廊下を通り抜け広間のようなところで足をとめた。ここで帝国一の権力者、ガストラ皇帝と落ち合うことになっているのだ。
 少女の安否を心配し、レオは声をかけたが彼女はうんともすんとも返事をしない。
 瞳は綺麗なエメラルドグリーンの色をしていると言うのに、まるで空っぽのがらんどうを覗き込んでいるような錯覚を彼は覚えた。
 目の前で手を振って見ても彼女の焦点が定まることは無い。死んでいるのではないかと思わせるほどだ。
 まだ20歳にも満たないであろう彼女に一体何をさせるつもりなのか。
 皇帝のお考えはわたしには計り知れないな、とレオはため息をつき、首をふった。


「それで?」
 お酒の入ったコップをからころと言わせながらセリスは話の先を促した。
 こうして頬杖をついているだけでも絵になるのは、美女に生まれた特権であろう。
 耳にかかった金髪をかきあげる仕草は、18歳と言えども大人顔負けの色気を漂わせている。
 そんな彼女に見惚れることも無く、レオは口を開いた。
 30歳の彼から見れば、同じ将軍とはいえセリスもまだまだ子供なのである。
「結局声は聞けぬまま皇帝に引き連れられていったよ。今度のナルシェ侵略の時にでも使うようだ」
「使うっていう言い方はやめろ」
 ぴしゃりと言い放つセリスに、レオは素直に謝った。
 同じく魔導の力を混入された者として『使う』という表現は我慢できないところがあるのは頷ける。
 1000年前に失われし魔導の力を人工的に注入するというシド博士の発明は画期的な事だと言えるだろう。
 現在、体内にその力を宿しているものは三人。
 ガストラ皇帝の三本の腕とも呼べるレオ、セリス、ケフカだ。
 ケフカに至っては初期実験の段階で注入されたため精神に少し障害を来たしていることは誰もが認めている。
 だが、戦闘においての実力もあるため地位を剥奪されるまでには至っていない。
 後の二人においてはまずまずの結果と言っていいだろう。
 他愛も無い話の後、二人は先ほどの少女についての事柄に話題を戻した。やはりそれだけ興味を引くものがあるのだろう。


「確かその少女も魔法が使えるんだったな」
 セリスだって言葉使いさえ直せば、もう少し女らしくなるのになあという考えがレオの頭を一瞬よぎった。
「幻獣と人間とのハーフらしい。見た目は普通の人間と変わりなかったが」
「ふぅん……」
 セリスが相槌を打つ。
 つまり少女は生まれながらにして魔法が使えるということだ。
 機会があれば会ってみたいものだというセリスの呟きは聞こえなかったのか、レオはケフカについて話し出した。
 内容は、もっぱら彼の最近の悪行についてだ。
 どうやらドマ国をも陥れようとしているらしい、と熱弁する。
 そんな二人の横を、へべれけに酔った兵士たちが通ってゆく。
「レオ将軍、セリス将軍、おつかれさまぁですぅ~」
 周りが一気に酒臭い空気で満ちてゆく。
 しかめ面をしながらもセリスは挨拶を返し、真面目な顔になってレオ将軍の方へと向き直った。

「ケフカがおかしいのは周知だが、皇帝も変だとは思わないか? まあケフカに好き勝手させているのもどうかと思うんだが」
 コバルトブルーの瞳が、レオの目を捉える。
 きょとんとした表情の彼に、セリスは尚も言葉を続けた。
「街の侵略にしたってそうだろう。最近はどうも強引な気がする。フィガロとも表向きは協定を結んでいるけれどもいつ攻め込むか気が知れない。あそこの王様はなかなかのやり手と聞くし、リターナーとつるんでいると言う噂も聞いた」
「まあ俺も疑問には感じるが……」
 レオが言葉を濁す。
「だけどこんな所で話すのはまずい」
 さっと辺りを見回し、元々低い声をさらに一段と下げてセリスにささやいた。
 まだ何かを言いたそうにしていた彼女も口をつぐむ。
 時刻はもう午前12時を回っているが、兵士たちはこのまま飲み明かそうとでも言うのか、まだかなりの人数が酒場には残っていた。
 あきらめたようにセリスは肩をすくめ、目を合わせた二人は小銭を机の上に置いて立ち上がった。




 霊峰コルツ山。険しく聳え立つその山には、武者修行する者の来訪が後を絶たないという。
 一段と風が強く吹きすさぶ頂上にて、黒光りした筋肉をうならせ一人の男が目の前に立つ老人を殴っていた。
 幾分年を取ったとはいえ、殴られた方は現役で武道の師匠を務める男だ。
 そうやすやすと倒れたりはしない。
「親父……! マッシュの野郎に奥義を教えるって言うのは本当なのか!」
 ぎらぎらと目に闘志を燃やし、バルガスは実の親をにらみつけた。
 そんな彼に、ダンカンが哀れむような視線を送る。
 しかし頭に血が上りきってしまっているバルガスには、その視線の意味は伝わらない。
「なぜだなぜだなぜだ」
 いくら拳を振るってもダンカンが軽々と避け続けるのでバルガスはついに懐からナイフを取り出した。
 先ほどまでの余裕はどこへ行ったのか、老いぼれの顔に戸惑いの表情が表れる。
 尖った歯の切っ先が彼に向けられた。
 避けようとはしないダンカンにひるむこともなく、バルガスは確実に父親の心臓へと狙いを定めた。


 それから僅か一時間後。
 同じ場所で、一人の大男が血みどろのナイフを見つめながら立っていた。
 声をあげることこそ無いものの、大粒の涙が彼の頬を伝う。
 嗚咽と共に、唇の動きは確かに師匠と言っている。
 彼の名はマッシュ。
 フィガロ国の王、エドガーの弟に当たるのだが王位継承のいざこざを嫌い自ら城を離れ心身ともに磨いているというわけだ。