生きてかえろう
それよりなにより、加藤が未だ口をひらかないのが恐怖でしかなくて。
俺に触れようとしてくれたのは、俺のこと許してくれたってことでいいのか?
俺、まだお前に嫌われてないって、思ってもいいの――?
「…ごめん」
ぽつり、と呟かれた言葉は、しーんとしていた部屋にやけに響いた。
泣きそうな顔をした加藤が、もう一度、ごめん、と呟いて。
「…何も知らなかったくせに、計ちゃんにひどいこといった」
「………かとう、」
「鈴木さんから…聞いたんだ。…本当にごめん!」
土下座しそうな勢いの加藤に、俺は慌てて首をふった。
だってどんな言い訳したって、俺がしたことをお前が非難することはわかっていたし、お前の方が正論なんだから。
だけど、だけどさ、加藤。
「…おまえさ、」
「……うん」
「…おれが、もし、…あの時、星人からあいつを庇ってさ、……それで死んだら、」
「計ちゃん!!」
ぎゅうっと痛いくらいに抱きしめられる。
俺を抱きしめている体が震えている。怒っているのか、なんなのか。
だけど聞こえてきたのは、予想に反してとても弱弱しい声だった。
「計ちゃん…」
「加藤、」
「計ちゃんが死んだら、なんてもう考えたくない。それくらいなら俺が犠牲になる方がマシだ」
「……そんなの俺がやだよ」
ばか、って呟くように言ったら、加藤はようやく笑ってくれて。
泣きそうな顔で、だけど優しい笑顔がそこにある。俺がなにより求めていたもので、もうなくしてしまったかと思っていたものが。
「計ちゃん…触れても、いい?」
何いってんだバカ、人のこと思いっきり抱きしめといて今更だろ。
こくりと頷けば、こっちが照れてしまうくらいの笑顔で、加藤がそっと俺の頬にてをあてる。
それはまるで壊れ物を扱うみたいに、ゆっくり、確かめるような動きで。
「けいちゃん」
「…かと、」
好きだ、っていうお互いの言葉は、声となって音になることはなかった。
唇を重ねて、ぎゅっと手を握って。
加藤、お前は怒るかもしんないけど。
俺は仲間全員見捨ててでも生き残りたい。お前も一緒に。
またいきてかえろう。待ってるひとがいるんだから。