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1122の日

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   *


 パラパラとページを捲る指の動きはゆっくりとしたもので、分厚い蔵書が読み終わるまでにはまだ時間がかかりそうだった。
 ここはローの部屋。温かみのあるオレンジ色の毛布にくるまって読書をしているローのすぐ脇にいるキッドは、特にやることがなくて暇を持て余していた。
「おい。それはいつ終わるんだ」
「……んー……」
 長い間をおいた後での沈黙。
 ローは読書に夢中だった。それは娯楽小説などではなく、キッドには意味不明の専門用語が並ぶ医学関係の本で、外科医のローにとってはとても面白いものであるらしい。
 ただ、放っておかれているキッドには面白くもなんともない時間だった。
 たまに毛布の上から悪戯を繰り出してみても、ローはうるさそうに足で払ったり、身体を反対方向に倒したりして無視するのだ。
 ──かわいくねぇ!
 ──そして、ムカつく!
 つれない相手にブチンとキレそうになるが、キッドはそこをなんとか押し留めて耐えていた。短気を起こせば負けだということを、これまでの経験で嫌というほど分かっている。
 ローは怒らせると本当に怖いのだ。キッドと違って静かに怒りを漲らせるから、表面上にはなかなか現れないがそれこそが罠だった。
 薄く笑っているうちは大丈夫。そこから凍てついた無表情に変化したらアウト。ローの怒りに触れた者の末路を思い出して、キッドは一瞬だけ身体を戦慄かせた。
 ところで、今この部屋には暖房がついていなかった。電伝虫で連絡を取って落ち合った場所は冬島の気候区域。ローの潜水艇は防寒に優れているとはいえ、まったく寒くないわけではない。
 窓からうかがえる空模様は吹雪。しんしんと冷える空気は室内の気温も徐々に下げていっていた。
 ぶる、と寒気がした。ローは毛布にくるまっているけれど、キッドは着の身着のままなのだ。毛皮のコートが手放せない状態に、キッドは起き上がって室内を歩き出した。
「……どうかしたのか?」
 読書をしていたはずのローが声をかけてくる。触れさせないくせに離れれば引き留めてくる。とんだ我侭であるが、キッドはローのそういう部分は嫌いじゃなかった。
「寒ぃから筋トレ」
「……なにその、汗臭そうなの」
「うっせぇ! 毛布にくるまってる奴が言うんじゃねぇ!」
 オレンジ色の毛布はそれだけで暖かそうだ。一人だけぬくぬくしているローにとやかく言われる筋合いはない。
「腕立てとか腹筋とかやるつもりか?」
「なんもねぇからな、ここ」
 キッドの船にはクルーたちも利用できるトレーニングルームがあるけれど、この船にそんなものはないだろう。
 ローは海賊のくせに医者でもあるから、船の中も必然的に病院のような設備になっている。たいそう立派な精密機械類を見たときは、メカ好きのキッドの血が少し騒いだりもした。
 そういう貴重な薬品や手術器具が並ぶ隣で、ガタガタ揺れるトレーニングなどできるはずがなかった。
「ちょっと待て。埃が立つからやめろ」
「てめぇの部屋でやるならいいだろ」
「よくねぇ。つか、気が散る」
「本を読むのをやめるっつーなら、こっちもやめてやってもいいけど?」
 図らずも駆け引きのような形になったので、キッドはどうする? とローを見た。
 珍しく一歩リードしている格好にキッドの機嫌は上々だった。だいたい、わざわざ連絡を取りあって会いにきたというのに、延々読書しているとは何事だと言いたいのだ。
 腕組みをした姿勢で仁王立ちするキッドを、ローがベッドの上から上目遣いで見ている。
 何を考えているのか、あるいは策を練っているのか、ローの次の一手を読むのは難しい。だからキッドは待った。
 ベッドの上のローは、しばし考える風に黙ったあとで本を閉じ、顔をあげてきた。
「わかった」
「……何が?」
「筋トレやるなら、ここでやれ」
 そう言って、ローは自分の下を指差していた。つまりベッドの上でやれ、ということだろうか。おかしな展開になったことに、キッドはうんざりしたように顔を顰めた。
「どゆこと? お前はどうすんだ?」
「お前の上に乗っててやるから、好きなだけ腹筋でもやってろ」
「……」
 別に今始まったことではないがローはどこかズレている。キッドの筋トレを優先した結果だろうけど、そこまできたらもうちょっと違う方向へいかないかと思うのだが、どうだろうか。
「お前を上に乗っけて腹筋すんのか? おれマヌケじゃねぇ?」
「……筋トレしてぇんだろ?」
 本当に不思議そうに首をかしげてくるから腹が立つ。沸点の低いキッドは小爆発を起こした。
「違ぇよ! おれがしてぇのは筋トレじゃねぇよ! お前アホか、いやボケてんのか!?」
「ボケとはなんだ! あと、アホでもねぇよ!」
 同じくカチンときたらしいローも負けずに声を荒げていた。こうなるとどちらも引かないから、ますます収拾がつかなくなる。
 どうしたものかと、頭の中の一部が冷静なキッドは、ローと喧嘩をしつつも必死で解決策を考えていた。
「……ああ、もう、面倒くせぇなぁ……!」
「なん、だ、とぅ……!?」
 このボケを黙らせるために、もしくは分からせるために、キッドは強引に顔を寄せてローに口付けた。策なんて何も思いつかなかったから、実力行使に出ることにしたのだ。
作品名:1122の日 作家名:ハルコ