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大人になる薬

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 良かった……本当に良かった。アメリカがいなくなるなんて、アメリカを失うなんて、考えたくもない。
 寝顔を見つめ、指通りのよいアメリカのブロンドを撫でる。
「ん……」
 すると、くすぐったかったのか――今までいくら俺が大声を出しても、起きなかったのに――小さく身じろぎをして、アメリカが目を覚ました。
「悪い。起こしちまったか?」
 声をかけたがアメリカは寝ぼけているらしく、半分しか開けられていないスカイブルーの目は、とろん、と溶けて視点がさだまっていない。
「いぎりすぅ……?」
「ん、なんだ?」
 アメリカの口の中でつぶやかれた俺の名前に、返事をする。
「俺、ね。……早く……大人に、なるんだ……」
 そう言って、アメリカは笑った。
「早く……大人になって、俺が……いぎりすの……」
「俺の?」
 しかし、続きの言葉が言われる事はなく、アメリカは再び、眠りの中におちていった。
「やれやれ……」
 ため息をつく。口元には小さく笑みが浮かんだ。アメリカが、なんで早く大人になりたいのかは、わからないけど、あせることはない。ゆっくり少しずつ成長していけばいいさ。俺がずっと見守っていてやるよ。
 ……こんな所で寝ていたら、風邪をひいちまうな。アメリカを寝室のベッドまで連れていこう。ゆっくりと慎重に立ち上がる。ベッドに寝かせたら、そろそろくそフランスが目を覚ますだろうから、とっとと、アメリカの家から追い出そう。ああ、その前にとどめを刺さないと。
「んー……」
 アメリカが腕の中で、もぞりと動く。改めて見ると、その寝顔はまるで、極上の砂糖菓子。口に含んだらふわりと溶けてしまいそうだ。
 ああ、もう、ホント可愛いなあ。マイスイートチェリーパイ!
 俺は、アメリカを起こさないように、そうっと額にキスをした。





 ――その後。
「頭がいたいよお、いぎりすぅう」
「ワインなんて飲むから……フランスから寄こされた物なんて、もう二度と口にしちゃあ駄目なんだからな!」
「ええええええー!? お菓子も!?」
「お菓子も!」
「そんなあ……もう、大人になる薬なんて、こりごりだよお!」


 
 END
作品名:大人になる薬 作家名:チダ。