英国紳士の誤算
え? もしかして、アメリカが俺を誘ってる? これは、誘ってるよな!
おおお、それで全然かまわない。フランス料理だろうが、イタリア料理だろうが、ブータン料理だろうがなんでもいい。なんせ、薬はここにあるんだ。隙をみてこっそり混入すれば、問題ない。
くっくっくっくっくく。こんなこともあろうかと、ホテルの部屋も取ってあるしな!
「おーい、イギリス?」
名前を呼ばれて我にかえった。アメリカがいぶかしげな顔をしている。いけない、いけない。何事もなかったように、振る舞う。
「フランス料理がいいなら、それでもいいぞ。ちょうど食べたかったし」
俺のテンションはかなりあがっていた。なにせ、もうすぐ……
「OK。じゃあ、イギリスは参加すると」
「おう! 参加する……って、え?」
何に?
「あ、アメリカ? 参加ってなんのことだ?」
「ん、だから、イギリスもいくんだろ。フランスんちにご飯食べに」
……はいいぃいっ!なんだそれ、なんなんだよそれ!
「フランスんち……」
「まえから約束してたんだ。会議のあと、ご飯食べさせてくれるって」
にっこりと満面の笑顔のアメリカ。きっと頭の中はフレンチのご馳走でいっぱいだ。
がく然とした。なんてこった、フランスと先約があったなんて、今日のための準備に費やした俺の一週間は無駄だったのか……
いいや! まだだ、まだいける。フランスは今、廊下でのびているじゃないか!
いまのうちにアメリカを連れ出せば……!
「アメリカ、フランスは天国の門を調べに行くって言って、さっき急に旅立ったぞ」
「へ?」
「だから、そんなヤツのことはほっといて、今日は俺と二人で――」
「はいはいはーい、その天国の門に、俺を送り込んでくれたのは、どこの誰でしたっけ? ぼっちゃん?」
後ろから降ってわいた声の主に反射的に肘を打ち出す。
がしっ
「さすがに、そう何度も不意討ちはくらわないぜぇ?」
みぞおちを狙ったのにガードされてしまった。ちっ。
「フランス、イギリスもくるってさ。カナダと日本は用事があるから不参加」
「あー、そうなの? イタリアとドイツもくるぜ。あとスペインとギリシャも。他にも声かけるって言ってたからもっと増えるかもな。よーし、おにいさん、張り切って美味しい料理作っちゃうよ」
……いったい何人来るんだよ……
フランスがニヤニヤといけ好かない顔で笑っていた。こ、こいつ絶対わかってる。わかってて、俺の邪魔してやがる!
「楽しみなんだぞ」
無邪気に笑うアメリカの顔をうつろに眺めながら、俺は絶望に打ちひしがれていた。
俺の……俺の計画が……
うわああぁぁあん、ばかああっっ! アメリカとの二人っきりの夜を返せぇぇ!
END