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サヨナライツカ

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会社の昼休みが終わる間際、背広の胸ポケットに入れておいた携帯電話が振動した。新着メール一件。風丸は携帯電話を開き、メールの差出人名を見て動きが止まった。携帯電話をポケットに戻して、給湯室にコーヒーを煎れに行く。自分のデスクに戻って座ればちょうど昼休み終了を告げるチャイムが社内に響き渡った。風丸にはその音がまるでカウントダウンのように聞こえた。チャイムが鳴り終えた時、風丸は意を決して先ほどのメールを開いた。件名はなく、本文には短いメッセージのみがあった。


『今日、会えないか?』


残業を終え、風丸は会社を飛び出した。待ち合わせの最寄り駅までの道を人波をくぐり抜けて走る。
(昔はもっと速く走れたのにな……)
胸の鼓動が高鳴る。それが、走って息切れをおこしている理由だけでないのは風丸自身が一番よく理解していた。一分でも一秒でも速く。風丸は息苦しくなって、走りながらネクタイとワイシャツの第一ボタンを外した。
駅の前には小さな広場と噴水があった。待ち合わせ場所はその噴水の前。駅前の広場と噴水が視界に入った時、視界がより色鮮やかになったのを風丸は感じた。
(こんなに奇麗な場所だったっけ?)
広場に飛びこもうとする風丸の足を、赤信号が止めた。風丸は思わずちいさく舌打ちする。肩で息をしながら、信号待ちをしている人の背中の向こうにある噴水を見る。自分と同じように誰かと待ち合わせしているのか、休憩をしているのか、噴水の周りには人があふれていた。
その中に、ネオンの光を受けて輝く派手な髪色を見つけた。その瞬間、風丸の世界から色がこぼれ落ち、その髪色の人物だけが色を持って存在した。
信号が赤から青に変わったが、風丸の足は動かなかった。後ろからどんどん家路を急ぐ人が自分を抜き去っていく。
結局信号が再び赤になるまで、風丸はその場に立ちつくしていた。視線があの一点から離れない。まばたきすることすら惜しく思えた。次に信号が青に変わった時、風丸は一度大きく深呼吸してようやく足を踏み出した。ゆっくりと噴水に近づいていく。待ち人は風丸に背を向け、空を眺めていた。その背中を見、胸が締めつけられるのを風丸は感じた。背中まであと十歩、九歩、八歩、七歩。足を踏み出すたびに心臓が大きく鼓動する。あと五歩のところで、背中が突然振り向いた。風丸の足が止まる。
雑踏と喧噪のなか、世界の音が消えた。でも、彼の声だけは確かに風丸の耳に届いた。
「……よ、久しぶり」
歯を出して笑う顔も、声も、記憶のなかの彼となにひとつ変わっていなかった。

作品名:サヨナライツカ 作家名:マチ子