【シンジャ】Love Collection【C81】
★キャバ嬢ネタ★
「最近仕事を上がられるのが早いですね」
仕事を終わらせる為に机の上を片付けていると、男である自分よりも頭一つ分以上背の高い青い髪をした女性から声を掛けられた。
声を掛けて来たのは、ヒナホホと同じイムチャックの一族の者である。文官の一人である彼女が男である自分よりも頭一つ分以上背が高いのは、イムチャックの一族の者は皆大柄であるからだ。彼女が特別大柄な訳では無い。
「ええ、少し頼まれごとをしているので」
「頼まれごと……?」
頼まれごとが何かという事を訊きたそうな顔へとなった彼女の姿を見て、失敗したいという事を思った。別の理由を言うべきであった。
「つまらない事ですよ。それでは、先に帰りますね」
畳み掛けるようにしてそう言って彼女と別れて文官専用の執務室を離れ、紫獅塔にある自室に戻る。早くしないと次の鐘が鳴るまでに今から行かなければいけない所に着かない。早く出掛ける準備をしなければいけないと思いながら手早く準備を済ませ、紫獅塔を離れ更に王宮を出て行った。
王宮を離れ市街地の中を歩いているジャーファルは、服の上に着ている外套の帽子を頭の上から被るという格好をしていた。ジャーファルの格好は怪しいものであった。しかし、ここシンドリアは観光客が多い土地の為様々な人間がいるので、そんな姿の彼を気にする者はいなかった。
自分である事を誰にも気が付かれないように気を付けながら市街地を歩いているジャーファルが向かっているのは、市街地を抜けた場所にある国営商館である。国営商館とは、島外からやって来た者などを持て成す為の特別な区画である。あけすけに言うと、国営の歓楽街である。何故そんな物を作っているのかというと、一カ所に集めておいた方が島内の治安が乱れないからという事もあるが、大きな収入をそこから得る事が出来るからである。
国営商館の中に入ると、ここ数日毎日通っている店へと向かう。自分が向かっているのは、国営商館の中に幾つもある酒場の一つである。酒場といっても、ただ酒を飲む店では無い。着飾った女性と一緒に酒を飲む店である。そこに気に入った女の子がいるので毎日通っている訳では無い。そこにここ数日毎日通っている理由は、それとは全く違うものであった。
店の入り口まで行くと、開店準備をしている店の従業員の姿があった。自分がこちらにやって来ている事に気が付いたその就業員は、店の準備の手を止めると挨拶をして来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
丁寧に挨拶をする必要は無い相手であるという事は分かっているのだが、いつもの癖で丁寧に挨拶してしまった。従業員と別れ店の中に入ると、真っ直ぐに奥へと向かう。この店が開店するのは、王宮にある二時間に一度鳴る大鐘が次になった時である。まだ開店していない店の中は、店が開店している時と全く別の場所であるように暗く静かであった。
店の奥にある部屋の前まで行くと、入り口にある目隠しの布を捲り中へと入る。自分が入って行ったのは、この店で働いている者たちが着替えをする場所である。
「ジャーファルさんだ」
「ジャーファルさん、おはよう」
「おはよう」
自分が入って来た事に気が付いた女性の一人が自分の名前を呼ぶと、部屋の中にいる他の女性から次々に声を掛けられた。
「おはようございます」
頭の上から被ったままとなっている帽子を脱ぎ、胸の前で両手を組み頭を下げる。
男の自分が着替え中に入って来たというのに、誰も着替え途中の姿を見られてしまった事を恥ずかしがっていなかった。それも不思議であったが、男の自分がここで着替えをしなければいけないのも不思議であった。
他人からすれば、男ならば誰もが鼻の下を伸ばすような場所にいるというのに、鼻の下を彼が伸ばしていない事も不思議であった。
自分である事を知られないようにここまで着て来た外套を脱ぎ、部屋の中に並んでいる長方形の形をした籠の前まで行く。その中に脱いだばかりの外套を入れ、外套の下に着ている官服を脱いで行く。ここまで官服でやって来たのは、官服から着替える時間が無かったからでは無い。官服しか外に出る事ができる服を持っていないからである。他に持っているのは、部屋着と寝間着だけであった。
その事を知ったこの国の王であるシンドバッドから私服を作れという事を言われていたのだが、着る機会が無さそうなのでその後も作らなかった。それを後になって後悔する事になるとは思っていなかった。金銭が無い訳では無い。直ぐにでも私服を買う事が出来るのだから今作れば良いだけだと思われそうなのだが、私服を作る事が出来無い理由があった。
仕事が終わった後連日ここに来ているので、その時間が無かったからである。他にも、今は必要だがこれが終われば必要で無くなるという気持ちを持っているからというのも、私服を作っていない理由の一つであった。
衿の部分が黒い柄の入った緑色をしている薄茶色の官服を脱ぎ終え下着一枚になると、身支度を済ませた女性たちが次々に部屋から出て行く。このままでは遅刻してしまう事になるという事が分かり、着替えの速度を上げる。
普段は絶対に遅刻しないだけで無く、誰よりも早く職場に行き誰よりも早く仕事が出来る状態になっているというのに、ここではそれをする事が出来無かった。それは、したくてしている仕事では無いからだ。籠の中に入っている衣裳に着替え終えると、溜息を吐かずにはいられない気持ちになった。
ジャーファルが着替えたのは、裾に硬貨が付いた華麗な衣裳であった。腹部や腕を隠す事が出来無いその衣裳は、男が着る用に作られた物では無い。女性が着る為に作られた物である。
何故こんな格好をしてここで働く事になったのかというと、話しは一週間ほど前まで戻る。その日いつものように就業時間後まで仕事をしていたら、慌てた様子でシャルルカンが執務室の中に入って来た。平時の時は何があっても就業時間を超えてまで働かないと公言している彼がこんな時間に王宮にいるのは珍しい事であった。
何かあって自分の所に来たのだという事は、彼の様子から分かっていた。何があったのかという事をそんな彼に訊ねると、説明は後でするので付いて来て欲しいという事を言われた。自分が思っていたよりも重大な出来事が起きているようだ。そう思いながらシャルルカンと共に王宮を離れる事によって着いたのは、この酒場であった。
彼が自分を連れて来たのが酒場であるという事が分かった瞬間思った事は、騙されてしまったのかもしれないという事であった。何故そんな事を思ったのかというと、シャルルカンが悪戯をする事があったからだ。シンドバッドと飲みに来ていた彼が、こういう店に来たがらない自分を連れて来る為に演技をしたのかもしれない。そう店に入るまでは思っていたのだが、そうでは無かった事を店の中に入る事によって知った。
店の中には、同じ八人将であるピスティがいた。
童女のような見た目をしているが、既に彼女は十八歳である。シャルルカンたちと頻繁に仕事の後酒場に飲みに行っていた。それにも拘わらずそんな彼女の姿を見て驚いたのは、彼女が酒場で働いている女性たちと似たような格好をして接客をしていたからである。
「最近仕事を上がられるのが早いですね」
仕事を終わらせる為に机の上を片付けていると、男である自分よりも頭一つ分以上背の高い青い髪をした女性から声を掛けられた。
声を掛けて来たのは、ヒナホホと同じイムチャックの一族の者である。文官の一人である彼女が男である自分よりも頭一つ分以上背が高いのは、イムチャックの一族の者は皆大柄であるからだ。彼女が特別大柄な訳では無い。
「ええ、少し頼まれごとをしているので」
「頼まれごと……?」
頼まれごとが何かという事を訊きたそうな顔へとなった彼女の姿を見て、失敗したいという事を思った。別の理由を言うべきであった。
「つまらない事ですよ。それでは、先に帰りますね」
畳み掛けるようにしてそう言って彼女と別れて文官専用の執務室を離れ、紫獅塔にある自室に戻る。早くしないと次の鐘が鳴るまでに今から行かなければいけない所に着かない。早く出掛ける準備をしなければいけないと思いながら手早く準備を済ませ、紫獅塔を離れ更に王宮を出て行った。
王宮を離れ市街地の中を歩いているジャーファルは、服の上に着ている外套の帽子を頭の上から被るという格好をしていた。ジャーファルの格好は怪しいものであった。しかし、ここシンドリアは観光客が多い土地の為様々な人間がいるので、そんな姿の彼を気にする者はいなかった。
自分である事を誰にも気が付かれないように気を付けながら市街地を歩いているジャーファルが向かっているのは、市街地を抜けた場所にある国営商館である。国営商館とは、島外からやって来た者などを持て成す為の特別な区画である。あけすけに言うと、国営の歓楽街である。何故そんな物を作っているのかというと、一カ所に集めておいた方が島内の治安が乱れないからという事もあるが、大きな収入をそこから得る事が出来るからである。
国営商館の中に入ると、ここ数日毎日通っている店へと向かう。自分が向かっているのは、国営商館の中に幾つもある酒場の一つである。酒場といっても、ただ酒を飲む店では無い。着飾った女性と一緒に酒を飲む店である。そこに気に入った女の子がいるので毎日通っている訳では無い。そこにここ数日毎日通っている理由は、それとは全く違うものであった。
店の入り口まで行くと、開店準備をしている店の従業員の姿があった。自分がこちらにやって来ている事に気が付いたその就業員は、店の準備の手を止めると挨拶をして来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
丁寧に挨拶をする必要は無い相手であるという事は分かっているのだが、いつもの癖で丁寧に挨拶してしまった。従業員と別れ店の中に入ると、真っ直ぐに奥へと向かう。この店が開店するのは、王宮にある二時間に一度鳴る大鐘が次になった時である。まだ開店していない店の中は、店が開店している時と全く別の場所であるように暗く静かであった。
店の奥にある部屋の前まで行くと、入り口にある目隠しの布を捲り中へと入る。自分が入って行ったのは、この店で働いている者たちが着替えをする場所である。
「ジャーファルさんだ」
「ジャーファルさん、おはよう」
「おはよう」
自分が入って来た事に気が付いた女性の一人が自分の名前を呼ぶと、部屋の中にいる他の女性から次々に声を掛けられた。
「おはようございます」
頭の上から被ったままとなっている帽子を脱ぎ、胸の前で両手を組み頭を下げる。
男の自分が着替え中に入って来たというのに、誰も着替え途中の姿を見られてしまった事を恥ずかしがっていなかった。それも不思議であったが、男の自分がここで着替えをしなければいけないのも不思議であった。
他人からすれば、男ならば誰もが鼻の下を伸ばすような場所にいるというのに、鼻の下を彼が伸ばしていない事も不思議であった。
自分である事を知られないようにここまで着て来た外套を脱ぎ、部屋の中に並んでいる長方形の形をした籠の前まで行く。その中に脱いだばかりの外套を入れ、外套の下に着ている官服を脱いで行く。ここまで官服でやって来たのは、官服から着替える時間が無かったからでは無い。官服しか外に出る事ができる服を持っていないからである。他に持っているのは、部屋着と寝間着だけであった。
その事を知ったこの国の王であるシンドバッドから私服を作れという事を言われていたのだが、着る機会が無さそうなのでその後も作らなかった。それを後になって後悔する事になるとは思っていなかった。金銭が無い訳では無い。直ぐにでも私服を買う事が出来るのだから今作れば良いだけだと思われそうなのだが、私服を作る事が出来無い理由があった。
仕事が終わった後連日ここに来ているので、その時間が無かったからである。他にも、今は必要だがこれが終われば必要で無くなるという気持ちを持っているからというのも、私服を作っていない理由の一つであった。
衿の部分が黒い柄の入った緑色をしている薄茶色の官服を脱ぎ終え下着一枚になると、身支度を済ませた女性たちが次々に部屋から出て行く。このままでは遅刻してしまう事になるという事が分かり、着替えの速度を上げる。
普段は絶対に遅刻しないだけで無く、誰よりも早く職場に行き誰よりも早く仕事が出来る状態になっているというのに、ここではそれをする事が出来無かった。それは、したくてしている仕事では無いからだ。籠の中に入っている衣裳に着替え終えると、溜息を吐かずにはいられない気持ちになった。
ジャーファルが着替えたのは、裾に硬貨が付いた華麗な衣裳であった。腹部や腕を隠す事が出来無いその衣裳は、男が着る用に作られた物では無い。女性が着る為に作られた物である。
何故こんな格好をしてここで働く事になったのかというと、話しは一週間ほど前まで戻る。その日いつものように就業時間後まで仕事をしていたら、慌てた様子でシャルルカンが執務室の中に入って来た。平時の時は何があっても就業時間を超えてまで働かないと公言している彼がこんな時間に王宮にいるのは珍しい事であった。
何かあって自分の所に来たのだという事は、彼の様子から分かっていた。何があったのかという事をそんな彼に訊ねると、説明は後でするので付いて来て欲しいという事を言われた。自分が思っていたよりも重大な出来事が起きているようだ。そう思いながらシャルルカンと共に王宮を離れる事によって着いたのは、この酒場であった。
彼が自分を連れて来たのが酒場であるという事が分かった瞬間思った事は、騙されてしまったのかもしれないという事であった。何故そんな事を思ったのかというと、シャルルカンが悪戯をする事があったからだ。シンドバッドと飲みに来ていた彼が、こういう店に来たがらない自分を連れて来る為に演技をしたのかもしれない。そう店に入るまでは思っていたのだが、そうでは無かった事を店の中に入る事によって知った。
店の中には、同じ八人将であるピスティがいた。
童女のような見た目をしているが、既に彼女は十八歳である。シャルルカンたちと頻繁に仕事の後酒場に飲みに行っていた。それにも拘わらずそんな彼女の姿を見て驚いたのは、彼女が酒場で働いている女性たちと似たような格好をして接客をしていたからである。
作品名:【シンジャ】Love Collection【C81】 作家名:蜂巣さくら