聖なる夜はあなたと2人で
「お前、なんで」
「しずおさんが、わるいんですぅー。クリスマスなのに、……クリスマス、だった、のに」
「うわっ、泣くな! 待て、わかったから泣くな!」
「わかってません!!」
潤んだ目でキッと見上げてくる顔が壮絶に可愛い。―――いや違う。そうじゃない。
突然絡みだした帝人とそれに慌てる静雄に、ワゴン組も新羅もセルティまでもが驚いた顔で2人を見ていた。どう説明するかと悩む静雄の顔を、帝人がぱちんと両手で叩いて、更にそれらの目が瞠られる。
「待ってたのに全然誘ってくれないし! だから頑張ったのに、セルティさんを優先しちゃうし! おまけについでみたいにプレゼント渡されて! 僕だって用意してたのに、ちゃんと2人の時に渡したかったのに!!」
帝人の剣幕に狩沢が眼の色を輝かせる。が、とっさに遊馬崎が口を塞いで、おかげで不快な奇声は聞かずに済んだ。けれど他の面々は、まだ意味がわからないという様子で顔を見合わせている。
当然だ。この場で、静雄と帝人が付き合っていることを知っているのはセルティだけなのだから。おそらく新羅も知ってはいるだろうが、彼は基本セルティ以外のものには興味がない。
「セルティさんも、セルティさんです! なんでクリスマスにパーティーなんかやるんですか! 新羅さんとイチャイチャしてればいいじゃないですか! 僕なんてキスもまだなんですよ! チャンスをくれたっていいじゃないですか!」
『す、すまない…』
「セルティを責めないでよ、って言いたいとこだけどでもその言葉はすごく嬉しいよ帝人くん! ああ僕はどっちを応援すればいいんだ!」
『お前は黙ってろ』
ぐずぐずとしゃくりあげる帝人の前に―――いや静雄の前に仁王立ちになって、PDAを投げ出したセルティが腕を組んで見下ろす。顔がなくとも気配でわかる。怒っている。というか、けしかけている。
「竜ヶ峰」
「…いつになったら、帝人って呼んでくれるんですかぁ…」
「悪かった。……帝人」
嫌がられるんじゃないか。怖がられるんじゃないか。
そう思って似合わぬ遠慮をした結果がこれだ。気を遣って相手を不安にさせていたんじゃ意味がない。
いやいやと首をふる帝人をあやすように、そっと背中をなでる。セルティがなにをけしかけているのかはわかっているが、さすがにこう視線が集中していてはキスをする気にはなれない。抉るような視線が一対あるからなおさらだ。
「明日、半休貰うから。それで埋め合わせする。だから泣き止め。な?」
クリスマスはもう終わってしまうが、帝人がそれを望むのなら埋め合わせはいつだって出来る。折りよく高校生は冬休みに入ったばかり。年末年始は実家に帰るといっていたから、戻る頃に合わせて連休を取ってもいい。
頭をなで、衆目をはばかりつつ額にそっとキスを落とすと、泣いていた帝人が服でこしこしと目をこすって嬉しそうに笑みを見せた。ほっとして息を吐いたその、―――一瞬の隙に。
「きゃあああああああ! ナマ! ナマよ!!」
帝人の唇が静雄の息を飲み込んで、甲高い声が部屋中に響き渡った。その騒ぎの張本人はといえば、初めてのキスに満足したのか既に夢の中の住人と化している。
「取り敢えず今日は連れて帰れ。お前ん家に泊めてやれよ」
「……この状態でか?」
「酔っ払いに手出すなよ。今まで我慢できたんなら、もうひと晩くらい大丈夫だろ」
我慢していたわけじゃない、手を出すタイミングがつかめなかっただけだ。
心底そう言いたかったが、言ったところでセルティが帝人を置いて帰ることを許すとも思えない。
「なに言ってんのよドタチン! 初めてだったら酔ってる方がいr」
「いいから黙れ! 焚き付けんな」
幸せそうに眠る帝人にマフラーを巻きつけ、コートを着せて抱き上げると、セルティがプレゼントの中から小さな包みを取り上げて静雄のポケットに押し込んだ。さっき皆からのプレゼントにまぎれて、静雄が帝人に渡したものだ。
『残りは明日、帝人の家に届けておく』
「ああ、頼む」
目が覚めたら、もう一度渡すところからやり直そう。帝人は今日のことを覚えているだろうか。
腕の中ですやすやと眠る顔は、いとけなく、幼い。今夜はちょっとした地獄だなと、静雄は見た目以上に軽い身体を抱く腕に少しだけ力を込めた。
作品名:聖なる夜はあなたと2人で 作家名:坊。