二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

薄い皮膜

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

 
 
 
仕事を終えて顔を上げると、待ちくたびれたのか、帝人はソファの上で眠っていた。
足を伸ばしても悠々寝れる長さがあるのに、両手で自分の足を抱えて小さく丸まって眠っている。小さいくせになぜ縮こまるのかとあきれつつ、臨也は膝を抱える腕をそっと解きほぐしてやった。
食事に行く約束をしていたのだが、待ち合わせ時間になっても仕事は終わらなかった。自宅に来てくれるようメールして、池袋にいた帝人が到着してもまだ片付かなかった。
もう少しだから待っててと、そのまま放置すること30分。他人の家で、初めて訪れた場所で、よくもまあこんな無防備に眠れるものだ。
窮屈そうに曲げたままの足を伸ばしてやって、ふと、臨也は違和感を覚えた。靴下を脱がせれば、足の甲にみずぶくれのような傷が並んでいる。
靴擦れにしては妙な位置だ。直径1センチ程度のみずぶくれが4つずつ、足首を取り巻くように両足に弧を描いている。
3日前にはなかったはずだから、昨日出来たか一昨日か。それにしても、いったいどうやってこんなものを作ったのだろう。
指で触れるとまだぶよぶよしている。ちょっと考えて、臨也は救急箱を取りにいった。足の下にタオルを敷き、針を取り出し滅菌消毒をして、慎重に患部へと突き刺す。ふくれた部位を押し、中から少しずつ溢れ出る水を丁寧にガーゼで拭き取った。
「ん…、いざや、さん…?」
「じっとして」
同じことを繰り返して、8つもあったみずぶくれから全て水を抜き出すと、それをじっと見つめていた帝人がほっと息を吐き出した。
「みずぶくれって、つぶさない方がいいんじゃないんでしたっけ?」
「小さいものならそれでもいいけど、これ、ほっといたら勝手に破れちゃう大きさでしょ。自然に破れて化膿するくらいなら、早めに潰してちゃんと手当てした方がいいの」
「はあ…」
他人ごとのように頷いていた帝人が、小さなはさみを取り出すと途端に目を大きく見開いて固まった。うん、なかなか勘がいい。
「みず、…抜いたんですよ、ね?」
「うん。あとは皮膚を剥いで、傷パッド貼って、おしまい」
皮膚を剥ぐ、という言葉にあせって逃げようとする足をしっかり捕まえる。怯える顔が臨也の嗜虐心をそそって、ゆっくり見せ付けるようにやろうかと思ったがやめた。こんなことに時間を割くのも勿体無いし、なにより拗ねられたら面倒だ。
「いつも、…こんな風にしてるんですか?」
「こんな?」
「手当てとか。…その、手慣れてるみたいだから」
慣れていると言われればその通りだ。職業的なことを差し引いても、静雄の相手をせざるをえないため常人に比べて怪我をする機会は非常に多い。が、帝人が言わんとしていることは恐らくそういうことではないのだろう。
「靴擦れなんて、他人だったら絆創膏渡して終わりだよ」
「そう、…なんですか?」
「ていうかさ、足の甲に、それもこんな広範囲にわたって靴擦れとかないよね、普通」
浮いた皮膚を丁寧に切り取り、医療用のジェルパッドを貼って上から薄い防水テープでしっかり覆う。消毒は医者によってもする派・しない派に別れるそうだ。相当染みるはずだから敢えてやってやろうかとも思ったが、不安そうにしている帝人の顔があまりにも子供っぽかったのでやめた。彼をいじる機会なんでこれからいくらでもある。
「昔からこうなんですよ、僕。裸足で靴を履くとこんな風になっちゃって」
「靴の形が合ってないんだろ、それ」
「でも、運動靴でもサンダルでもこうなるんですよ。ビーチサンダルなんかだと親指と人差し指のつけ根だけじゃなくて、紐の形にみずぶくれが出来ちゃったりして…」
つまり皮膚が弱い、もしくは薄いのだろう。
聞けばこの傷も特に歩き回ったというわけではなく、体育の時間にうっかり靴ごと濡らしてしまって仕方なく素足に革靴を履いて帰ったらこうなった、という。どうやら、貧弱なのは体つきや腕力だけではないらしい。
「わかってんなら気を付けなよ」
「家までそんなに歩くわけじゃないから大丈夫かと思って…、あの、臨也さん?」
「なに」
「……なんか怒ってます?」
「怒ってるよ」
帝人に対して怒っているわけではない。さらに言えば、怒っているのではなくムカついている。が、なにに対してムカついているのかは正直よくわからなかった。
帝人は臨也にとって、今後の展開を握る大切な駒だ。そして、それを差し引いたとしても、事務所の場所を教えて招く程度にはこの少年を気にいっていた。
今はまだどこか遠慮がちだが、時折り毒舌が混じれば帝人が自分に気を許しつつある、その傾向を読み取って嬉しいと思う。背伸びしたい盛りの少年がたまに甘えを見せてくれば、素直に甘やかしてやりたくなる。
精々優しくして信じさせてやろう―――そう思う反面、時にその無邪気な顔を歪ませ泣かせてやりたもなる。基本、臨也はその時々でやりたいように振る舞う主義だが、帝人に対してはその振り幅が異常に大きい。飽きっぽいはずの臨也の興味を惹きつけて放さないなんて、それだけで奇跡だ。
「はい、終了。3、4日そのままにしとくこと」
「このまま、…ですか?」
「防水テープで覆ってあるからお風呂もそのまま入って構わないよ。半日すると水がたまってぶよぶよした感じになるけど、最近は湿潤療法って言って、わざと傷口を乾かさないようにして治すんだよね。その方が傷跡も残りにくいらしいし」
「はあ…」
「だから、跡残すなっつってんの。勝手に俺のものに傷とかつけないでよね」
「……え」
「え?」
大きな目を丸くして、帝人はなぜかきょとんと臨也を見つめている。表情の意味がわからず、今の会話を振り返ってみるが特におかしなことは言っていないはずだ。怪訝そうに見つめ返せば、薄っすらと頬を染めて視線を反らされた。
 
 
 
 
作品名:薄い皮膜 作家名:坊。