薄い皮膜
「臨也さんて、時々天然ですよね…」
「え、ちょっ、なに? なんか引っかかるんだけど、その言い方」
「大したことじゃないですよ」
「大したことじゃないんなら言えよ!」
こんな子供にやれやれとため息を吐かれて、いい気がするはずもない。手当ての済んだ足を改めて掴むと、帝人がやや引きつった表情を見せた。その憶測は正しい。なぜなら、せっかく貼ったテープを剥がしてやろうかと思っていたからだ。
「…美人は得だなあって、思っただけです」
「は?」
「僕、臨也さんのこと結構好きみたいです」
「へ? ……え?」
しまった、違う。ここはそんな返事じゃない。
帝人が臨也に好意を持つのは当たり前だ。だって、そうなるように振る舞っているのだから。
「知ってるよ。そんなの」
「はい」
「俺も君のこと、結構好きだと思うよ」
「…あ、ありがとうございます…」
いや、だから! なんでそこで照れるの君は!
真っ赤になってうつむいて、けれど髪のすき間から覗く耳とかうなじだとか、ぎゅっと膝の辺りを握りしめる小さな手だとか。そんなものを見てしまうと、こう、もやっとしたものが臨也の中に渦巻いて、もう少しつついてみたくなる。
右足を手に取って、そのまま足の甲の傷にキスを落とす。顔を上げれば、案の定帝人が真っ赤な顔で目を丸くしていた。思わず吹き出してしまって、…見る見る帝人の顔が怒りに歪んで、ぷい、とそっぽを向く姿が子供っぽい。
そういえば、帝人は臨也の妹たちとひとつしか違わないんだな、と思った。特殊すぎるアレらを可愛いと思ったことなどただの一度もなかったが、もし帝人が弟だったら、男の兄弟っていうのはこんな感じなのかもしれない。
「じゃ、そろそろいこっか」
「はい」
「足大丈夫? タクシー呼んだ方がいいかな」
「ダメです、もったいない!」
靴下を履いて、運動靴で歩く様子を見る限り、確かにそう痛そうでもなかったけれど。
適当に言いくるめて、今日はここに泊まらせようと思った。