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僕たちの師匠

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「嘘だ!」
「嘘じゃねぇ!」
ルークとアッシュが怒鳴り合う。
「師匠は、そんな人じゃない!」
ルークがそう言うと、アッシュはふん、と鼻で笑った。
「たかだか月に何度か剣を教わっていただけのお前に、ヴァンの何が分かるって言うんだ。あいつはなぁ――!!」





――ヴァン総長は――らしいな。

近くに座る兵士達の話し声が、耳に入った。
アッシュは食事の手を止め、聞き耳を立てる。
肝心な部分が聞こえなかった。
ヴァンが、何だと言うのか。

――俺は――だと聞いたぞ。

周りの声が騒がしい。
特に食堂の隅で喚いている、ディストの声が邪魔をする。
ちらりとそちらに目をやると、ディストは髪を二つ結びにした少女と何事か議論していた。
その二人の甲高い声が、食堂中に響いている。

――ヴァン総長は、――なんだろう?みんな知ってることじゃないか。だって、部屋には――。

ち、と舌打ちして、アッシュは席を立った。
食堂の喧騒の中で、彼が知りたいと思う大事な部分は悉く聞き取る事が出来なかった。
ヴァンが何だと言うのか。
ただ、それが知りたかったのに。



訓練に、身が入らない。
アッシュは食堂でのことが気に掛かって、ヴァンの繰り出す剣の動きに、一々遅れを取っていた。
「くっ――!」
からん、とアッシュの手から訓練用の剣が弾き飛ばされた。
これで何本目か。
いつもと違って、まるで切れ無いアッシュに、ヴァンは溜息をついた。
「――今日はこれまでだ。集中できない時に、何をやってもうまくは行かん」
ヴァンは身を翻して、訓練場を後にした。
扉が閉まる寸前、ベルケンドへ――という言葉が聞こえた。
またあの研究所へ行くのだろう。
そうすれば、しばらくは帰って来ない。
今日は出発前の最後の訓練だったのに、まともに出来ないどころか、予定していた時間の半分も共に過ごすことが出来なかった。
ヴァンは時間を無駄にはしない。
今日、アッシュの訓練に充てる筈だった時間を繰上げ、ベルケンドに向かったという事は、

――俺といることは、時間の無駄、ということか・・・・。

アッシュは飛ばされた剣を拾うと、一人、訓練場を後にした。



ダアトの街を歩きながら、アッシュは考えていた。
思えば、ヴァンのことはあまり良く知らない。
知っている事と言えば、妹がいるということ。
妹は可愛らしいものが好きらしく、ヴァンはよく、少女が好みそうな店に出入りしては、ふかふかのぬいぐるみやきれいなドレスを着た人形などを買い求めていた。
そして時々、傷んだぬいぐるみを繕ったり、取れ掛けたフリルを付け直したりしている。
アッシュも何度か、それを手伝ったことがあった。
そうしていると、アッシュはかつて、ナタリアの人形を同じように繕っていたことを思い出し、暫しの間、懐かしい思い出に浸っていられた。
足の向くまま歩いていたアッシュは、音機関専門店に入って行った。
ここも、ヴァンがお気に入りの店の一つである。
彼はここで、必ず同じ物を二つ買う。
一つは自分で組み立てる。
もう一つは、どこに仕舞われているのか、いつの間にか、部屋から姿を消している。
それら、ヴァンの作った音機関を眺めていると、アッシュはもう一人の懐かしい人を思い出すのだった。
ヴァンが選ぶ音機関は、ガイの好みと良く似ている。
ガイが物陰に隠れ、どこからか手にした音機関を弄っている姿を、アッシュは何度も目にしていた。
そして稀に、その隣にヴァンがいることがあった。
悩んでいるガイに、言葉少なにヒントを出していた。
今思えば、ガイが悪戦苦闘している音機関と同じようなものを、ヴァンは先に作っていたのだろう。
どこをどうすれば良いか、的確なアドバイスが出来た筈だ。
自分とガイは、ものは違えど同じ人から教えを受けている。
そう思うと、何だか嬉しい気持ちになって、その光景をそっと見つめていた。
だから、ガイが手にしていたのとそっくりな音機関をヴァンの部屋で見かけるたび――それも、幾つも――、アッシュはまるで、その場にガイがいるような気がして、心が安らぐのだ。
アッシュは最後に、本屋に足を向けた。
今月は、ヴァンが愛読している著者の新刊が出る筈だ。
ちらりと見た新聞広告によると、今回の著書はフォミクリー関係の本ではないらしい。
こんな本も書くのか、と意外に思ったものだ。
平積みスペースに並べられた何冊もの新刊に、ざっと目を走らせると――あった。

「研究室でできる三分クッキング」ジェイド・カーティス著。

一分、一秒が惜しい研究の合間、簡単・お手軽に栄養補給!と、帯に書いてある。
ぱらぱらと捲って、アッシュは本を棚に戻した。
今頃、この本はヴァンの部屋に届けられている事だろう。
いや、今日はヴァンが不在だから、リグレットのところか、教会の受付に預けられているかもしれない。
とにかく、発行された本の一冊は確実に、ヴァンのものとなっているのだ。
本屋を出て通りに戻ると、アッシュは空を仰ぎ、そして足元に目を落とした。
ヴァンが何かをしようとしていることは、分かっている。
そしてそれは、この世界の為だという。
しかし、世界の為にレプリカを作ってどうしようというのだ。
アッシュから、この世の居場所を奪って、どうしようというのだ――。

――俺は、ヴァンのことを何も知らない。

アッシュは重い重い、溜息をついた。



まだ夕食には、少し早い時間。
それでももう、食堂は営業を始めていた。
中には、ぱらりと人の姿もある。
アッシュは、食堂に足を踏み入れた。
人が少ないと、好きな席に座る事が出来る。
アッシュは、孤食者に人気の高い、端の席に座る事が出来た。
さて食べようか、とスプーンを握った時、彼の眉間に皺が寄った。
「だからー、本当かどうか聞いてんじゃんー」
「知りませんよ、そんなこと!」
きんきんとした声が二人分、後ろの方から響いてくる。
テーブルを僅か二、三列隔てた所に、ディストと二つ結びの少女が座っていた。
肩越しにちらり、と振り返ると、ディストはさも迷惑そうにしながら、それでも構ってもらえることが嬉しいのだろう。
少女の皿に、自分のフルーツを分けていた。
「私がヴァン総長のプライベートなことまで、知るわけ無いでしょう」
アッシュの耳が、ぴくり、と反応した。
それまで雑音としか感じなかった二人の会話が、途端に何か大事な要素を含んでいるような気がした。
「私はね、ヴァン総長がどこで何をしていようと、どんな趣味を持っていようと、まっっっっっったく、どうでも良いんですよ」
私は私の研究が好きなように出来れば、それで良いんです、とディストはスプーンを口に入れた。
少女は、ぶー、と頬を膨らませ、ディストの皿からソーセージを一つ、取った。
「だってもう、みんなの間で噂されまくりだよ?気になる〜!!」
ディストがちびちびとスープを飲んでいる間に、少女はぱくぱくとディストの皿に乗ったハンバーグを食べている。
「ほんとに!ほんっとーに、ヴァン総長は女装癖があって、フリルひらひらのドレス着てるのか!ほんとーに瓶底眼鏡掛けて、音機関に向かって身悶えしてるのか!ほんっとーに、グラビアアイドルの大ファンで、写真集コンプしてるのか!!!」
作品名:僕たちの師匠 作家名:Miro