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学園戦争サンドイッチ3

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帝人は一人暮らしするアパートが学校から近いこともあって、毎朝、クラスの中で一番早く登校していた。今日も、教室の中は誰一人いないと思っていたのに、自分よりも早くに登校してる生徒がいて、ドアを開けてビックリする。しかもなぜかその生徒は、帝人の席に突っ伏して座っているのだ。

「あれ、えーと、おは、よう?」

 ビックリの余韻が抜けず、たどたどしくも帝人が挨拶すれば、その生徒はムクリと起き上がって「おはよう、帝人君!」とにこやかに挨拶をかえしてくれた。

「なんだ、臨也だったんだ。一瞬、誰かと思っちゃった。それで、なんで、僕の席にいるのさ、臨也の席はあっちでしょ?」

 正体が判明して安心した帝人が笑いながら臨也に、自分の席に歩みよると、臨也がわざとらしいほどニッコリと微笑んだ。

 げ。なんで、臨也ったら怒ってるの?

 ゾクリと、帝人に悪寒が走る。一見、満面の笑みを浮かべていて臨也は機嫌が良さそうに見えるのだが、実はこの笑みは、非常に怒っている時にでるのだ。

「えっと、臨也、その、今日は早いんだね。いつも、もっと遅いのに」
「うん。帝人君お話したくってね?」
「僕と? って、いつも喋ってるじゃない」
「うん。だから一刻も早く、二人っきりで、お話がしたくってね?」

 非常に迫力の篭った笑顔で、臨也に二の腕を掴まれた。

 うわ、コワ。何、何、何~っ!?
 帝人は内心ビクビクしてしまった。

「ね、シズちゃんに告白されたってホント?」
「えっ!? なんで知ってるの?」

 帝人は驚愕して叫んでしまう。

「ふーん、ホントだったんだ。そんなのシズちゃん本人から聞かされたに決まってるじゃないか、ムカツクなぁ」
「ぇえええええ~っ」

 そういえば、臨也にファーストキスを奪われたのがばれた後、怒った静雄が臨也に喧嘩を売りに行ったんだっけ?
 それにしたって。なんでわざわざ言っちゃうかなあ。

「それでさー、こっからが肝心なんだんけど、シズちゃんにキスされたってのも、ホントなんだ?」
「えっ、それも言っちゃったの!? 静雄ってば、何考えてるのー! なんで僕の恥をばらすのかなあぁあ」

 帝人が両手で頭を押さえて嘆いていると、臨也が優しげなふりで問いかけてくる。

「恥、ねぇ。俺のことも、そう言ったわけ?」
「は、何が?」
「だから、俺とのキスのことだよ」
「えっ?」
「シズちゃんに話したんでしょ? 俺とキスしたこと。なんて説明してくれたのかなぁ。あの馬鹿、俺を殺して、なかったことにしてやるとか、わけわかんないこと言ってきたんだけど」

 うっわぁああああああっ!! 
 ホントに、ホントに静雄ったら、有言実行の男なんだね。
 ああ、もう、これか。臨也が怒ってる原因。
 
 臨也が本性を表すとばかりに物騒な笑みをたたえて、帝人の顔を覗きこんでくる。
 近い、近い、顔が近い。逃げたくても強い力で臨也に掴まれているので敵わない。
 このままキスされてもおかしくない距離に帝人は内心絶叫する。

「事実を話しただけだよ。冗談半分、面白半分で僕のキスを奪った人間に、なんで僕が怒られなきゃいけないんだよ。被害者は僕だーっ!」
「被害者ってなんだよ、あれは合意でしょ。しかも、冗談半分、面白半分? 何、言ってくれちゃってるの。本気も本気。好きだって言って、キスしたのにそんなことあるわけないでしょ?」
「は?」

 なんか、予想外の事を言われた気がして、帝人が瞳をパチクリとさせてしまうと、臨也の瞳がうろんげなものに変わる。

「なに、その反応。いったい、何に驚いたっていうの? いつも言ってるよね、俺。 帝人君が好きだって、まさか信じてなかったわけじゃないよね?」
「えっ!? 本気だったの? 冗談で言ってたんじゃなかったの!?」
「ちょっと? 帝人君? いくら温厚な俺でもこれは怒るよ。怒っていいよね」
「やだ。怒らないで? っていうか、ちょっと待って。え、ぇええっ? 臨也が僕のこと好きってマジ? 恋愛感情って意味で?」
「今さら確認されたことが、ショックだよ。俺は。ねぇ、帝人君。君は俺の真剣な告白を、今までなんだと思ってたわけ? キスまでして違うって、ありえないでしょ。同性相手に」
「いやだから、ね」
「帝人君を気づかって我慢してたけど、もう知らない」
「ちょっ、臨也? 何っ・・・っんんん…んっ」

 下唇を強く齧りつかれて帝人が驚いた隙に舌を入れられた。初めての時とも、昨日静雄にされたキスなんかとは比べものにならないくらい帝人は臨也からのキスに翻弄される。キスだけでなく臨也の指先が帝人のうなじを擽った。そのまま背中に下りていく指先に、帝人の身体に震えが走る。

「んんっ…ぁっふ…っん…、や、やめ、いざ…」

 身体に力が入らなくなってきて、元凶である臨也に縋ってしまいそうになる。

「ふふっ。帝人君とのキスは甘いね」

 口づけは解かれたけれど、ぐったりとなった帝人の身体は臨也にしっかりと抱きとめられていて。

 臨也が息を吹きかけるように耳元でささやくのに、帝人は真っ赤になって打ち震えてしまう。
 しかも臨也の手が、わざとセクシャルな感じで帝人の身体を触っているのだ。
 この、エロ魔人が~。
 帝人が怒りのこもった瞳で睨みつけても、臨也は笑っていた。

「ね、帝人君。悪いけど、君は俺のものだからね? シズちゃんなんかには、ずぇったいに渡すつもりはないから」
「は、何、言ってるのかな。いつから僕が臨也のものだって? 寝言は寝て言ってくれない?」
「そんなの、帝人君がこうしてキスした俺から逃げずに、腕の中に収まってくれてる時点で確定でしょ? 嫌じゃないくせに。照れなくたっていいんだよ?」

 帝人は、勢いよく臨也の顔面に、平手うちをくらわした。

「っつ」

 臨也の力が緩んだ隙に、帝人は臨也の手から逃げる。

「あのね、僕は臨也の事は、友達としてしか好きじゃないの! 勿論、静雄のことだって!」
「今さらそんなこと言って、許されると思ってるわけ? 甘いよ、帝人君」

 不敵に笑う臨也に、帝人は舌を出してみせ、「そんなの僕、知らないねーっ」と、子供っぽくアッカンベーをして臨也の前から逃げ出した。


  
 逃げ出したけれど、同じ学校、同じクラスで完全に逃げ切れるわけもなく。
 帝人はこの日から臨也にあからなまアプローチを受ける羽目になった。
 周囲のクラスメイトたちは、当然のように助けてくれることはない。
 なまあたたかい視線にさらされて、帝人は泣きそうな毎日だ。