臨帝静学園天国【冬コミ新刊サンプル】
★★★ 第一目撃情報 ★★★
「まだ、お前拾われてなかったのかよ。ちっ。仕方ないか。お前、俺に拾われるのと、このままのたれ死ぬの、どっちがいいよ」
仔猫相手に真剣な顔で話す高校生男子を、物陰から見てしまって、帝人は声を潜めつつも笑ってしまう。良かった。帝人も、数日前からあの捨てられた仔猫に気づいてはいたものの、自分が住んでいるアパートは、ペット不可で飼えなかったから…それ以前にペットを飼う余裕なんてものもなかったのだけど…心配していたのだ。本当に生まれたてのような仔猫を見て、飼えないまでもせめて飼い主が見つかるまではと、帝人はエサを運んでいたのだったが、どうやら同じように仔猫に気づいていた彼が、飼うことを決意してくれたのだ。帝人は安堵の溜息をつく。
凄いハンサムさんに拾われて良かったね。
これで一安心、と立ち去ろうとした瞬間、怒声が聞こえて驚いた帝人は後ろを振り向いた。
「平和島静雄覚悟ーっ!!」
鉄パイプを持って殴りかかる不良(高校生)を目の当たりにして、帝人は思わず両手を口元にあて、声ならぬ悲鳴を上げた。
あ、あぶなっ。死んじゃう!
だがしかし、襲われた高校生男子、平和島 静雄は勢いよく振り下ろされた鉄パイプを難なく奪い取って、襲いかかってきた不良(高校生)を反対に叩きのめした。強い。そしてカッコイイ。
「あぁああっ。お前、あぶねぇじゃねぇか! コイツが死んだらどうしてくれる。だいたいなぁ、こんなもんで頭叩いたら、普通の人間だって一発でお陀仏だかんな。わかってんのか。それとも何か、お前、この俺を殺す気だったのか。だったら容赦いらねぇよなぁ。死ね、死ね死ね死ね死ね死ね」
地面にくずおれている不良の首根っこをひっつかんだ静雄は、人間大車輪をしたかと思えば、そのまま勢いよく空高く投げ飛ばした。え、何今の。ありえない。いやでも今の幻じゃないよね。ほら、今、空から落ちてきたし。凄い。カッコイイ。
「まったく、危なかったな」
投げ飛ばすだけ投げ飛ばしたら、彼は片手で大事に抱えていた仔猫に優しく微笑みかけて、他は見向きもしない。なんてすがすがしいんだ。カッコイイ。
「んじゃ、帰るか。名前は何てつけるかな~」と去っていく後姿を、帝人は憧れの目でもって見送った。
凄い。カッコイイ。しかも優しい~!
今の人、同じ学校の人だよね。帝人と同じブレザーを着ていたから間違いない。
何学年の人かなぁ。多分、先輩だろうけど。凄い高い身長だったもんね。名前は確か、そこで潰れてる不良が言ってたよね。
えっと、平和島 静雄さん。
…って、アレ? 平和島 静雄? なんかまたもや聞き覚えのある名前。
…………なるほど! 彼があの戦争コンビのもう一人、平和島 静雄さんだったんだ! 喧嘩強い、凄い人だって言ってたもんね。納得納得。
え、でも、あんなに優しそうなのに、なんで『絶対近づいちゃ駄目』なんだろ…。納得いかない!
そりゃ、簡単にお近づきになれるわけでもないけどさ。『見かけたら走って逃げろ』なんてひどくない? 偶然の神様に出会えたら、ぜひとも仔猫のその後を教えて貰いたいのに。なんでそんな駄目なのかな。正臣が言う程、恐ろしい人には見えなかったんだけどな。よし、明日正臣に確認してみよう。
>> 以下、本誌【臨帝静学園天国】にて。
作品名:臨帝静学園天国【冬コミ新刊サンプル】 作家名:織 夢月