臨帝静学園天国【冬コミ新刊サンプル】
げ、ばれてる。
帝人は、ギョッと目を見開く。笑っているような甘い声なのに逆らえない。帝人は諦めて、男子生徒の前に姿をさらす。
「立ち聞きとは趣味が悪いね」
問題の男子生徒を見て帝人は驚いた。今時改造短ランで、しかも中身は真っ赤なTシャツと変な感じだというのに。
…この人、ホントにカッコイイ。美少年だ。会話だけ聞いてた時は、どんだけ!? とか思ってたけど。自惚れでもなんでもない。顔もよければスタイルもいいよ、この人。うっわ~。
「す、すいません。…なんか立ち去るタイミング逃しちゃって」
気まずい思いをしつつも、自分が悪いのだからと帝人は素直に頭を下げた。
にも関わらず、「フフン。野次馬根性丸出しで、聞いてたくせに」と馬鹿にされ帝人はムッとしてしまう。確かに野次馬根性がなかったとは言えないけれど、仕方ないと思うんだ。だって。
「……普通の告白現場だったら、ちゃんと立ち去ってました。だけどあんな会話聞かされたら、思わず足だって止まりますよ。いくらなんでもあの断り方はひどすぎです」
帝人は言い訳しつつも、聞きながら思っていた事を素直に告げて、反対に男子生徒を非難してしまう。うん。非難されるようなこと、するから立ち去れなかったんだと、心の中だけで自己正当化してみる。帝人が真っ直ぐ男子生徒の瞳を見据えていると、彼はニッコリ苛烈な笑みを浮かべた。う、怖いな。
「そうは言うけどさぁ。俺の中身じゃなくて、外見と付属物だけを見て好きだって言うのはひどくないの? 俺はひどいと思うんだけどな」
「…それはひどいかもしれないですけど。そんなことないって、言ってたじゃないですか。なんで信じてあげなかったんですか」
「信じられるわけないじゃん。生憎、俺は告白され慣れててね。そんな嘘すぐに分かるんだよ。君みたいな、一度も告白されたことのないような子には、分からないかもしれないけど」
肩を竦めながらまたも鼻で笑われて、帝人は羞恥と怒りで頬を上気させる。
ええ、ええ。その通りですよ。一度だって僕は告白されたことなんてありませんよ。
でも! そんなの! 関係ないじゃないか。そんなことなくたって分かるものは分かるし。そもそもそういう問題じゃなくて。
「…例えそうだったとしても、わざと相手を傷つけるような言い方を選ばなくてもいいじゃないですか」
「選んでないよ。俺は思ったことを正直に話しただけだよ。だってほら、嘘はよくないでしょ。嘘は」
「……………」
わざとらしく教え諭すように話す彼に、一層馬鹿にされた気がする。思わずゴミ箱を握る手に力が入る。
だから帝人はにこやかに笑ってみせる。同じようにわざとらしく。
「バカ正直に話せばいいってものじゃないと思いますけど? 嘘も方便って言葉も知らないんですか?」
「…………………………」
なんですか、その沈黙。なんでそんな驚いたような目をしてるんですか。はっきり言って僕は嘘だってなんだってつきますよ。必要であるならば。真面目そうな見た目だからって、中身も真面目とは限りませんよ。いえ、基本真面目ですけどね。
「それでも嘘は嫌だっていうのなら、適当にケムを巻けば良かったんですよ」
「………嘘ついたりケム巻いて、良いんだ?」
「人のこと、わざと傷つけるよりはマシなんじゃないですか? 女の子泣かして楽しむ方が、たちが悪いです」
「…別に楽しんでなんかないけど」
「楽しんでましたよね」
ごまかされませんよ? 帝人が断言すれば苦笑が返された。「ばれたか」って、そんなのすぐわかりますよ。わからいでか!
男子生徒が楽しそうに笑った。普通に楽しそうに。うん、美形のまっとうな笑顔って凄い。同性なのに見惚れてしまいそうになる。危ない危ない。
「いいよ。分かった。可愛い後輩からのせっかくの助言だ。次からはそうするよ」
「ありがとうございます。生意気言ってすみません」
「いぃえ~」
にこやかに片手をひらひらさせている男子生徒に、聞くなら今だと、帝人はゴミ焼却炉の場所を聞いた。そして教えてもらったほうに向かって歩こうとした時、「ねぇ」と呼び止められた。
「はい、なんですか?」
「名前、何ていうの。教えてよ。あ、俺はね、3年の折原 臨也」
「あ、はい。えと、僕は1年の、竜ヶ峰 帝人です」
名乗られたからには名乗らないわけにはいかない。初対面の人間に名乗るのが嫌いな帝人が仕方なく名乗れば、案の定笑われた。しかも「エアコンみたいだね」って。先日のクラス初日の自己紹介では言われなかったので、ラッキーだったと安堵していたというのに。人を失意に追い込んだくせに、折原先輩は「じゃ、まったね~」と軽いノリで僕の前から去って行ってしまった。非常に憎らしい。
臨也の背中を見送りながら帝人は、変な先輩と知り合ってしまったとガックリする。
折原臨也先輩ね。ん、折原臨也? あれ、なんか聞いたことあるような?
オリハライザヤオリハライザヤと呪文を唱えるように何度も呟いていて、ハタと気づく。
入学式最中に割れた窓ガラス。原因はある二人の先輩の喧嘩のせいで。
入学式の帰り道、高校で再会した幼馴染から、その二人には絶対に近づいてはいけない。姿を見たら最速で逃亡しろと忠告された、二人のうちの一人。
戦争コンビの片割れの名が確か、折原 臨也だったと!
え、えええええええええええええええええっ!!
帝人は内心で驚愕の声を上げた。
作品名:臨帝静学園天国【冬コミ新刊サンプル】 作家名:織 夢月