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My bliss

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「志摩、どうした?」
 自分を真っ直ぐに見つめてくる勝呂の眼差しに射竦められて、固まってしまったように動けない。鼓動が耳の中でうわんうわんと煩いくらいに反響する。喉に蓋をされてしまったように、声が出なかった。思わず俯いて目を逸らした。
「どないしたんや?具合でも悪いんか?」
 廉造を下から覗き込んでくる。心配そうに少し眉を寄せた顔にくらりとする。
 ――あかん。
 僅かな理性が自分の状況を分析したが、それも押し流される。思わず腰に手を回して抱き寄せた。ほんの少しだけ背の高い勝呂の首筋に顔を埋めれば、夜風に嬲られて、石鹸とシャンプー、そして彼の体臭が香った。
「な…っ!おい…、どないしたんや!志摩っ…?」
 勝呂がオタオタする。
「具合でも悪いんか?」
 肩を掴んで揺すろうとする。
 ――好きや。
 僅かな夜風に攫われてしまうほどの小声で、呟く。
「志摩?」
 聞き返してくる勝呂には応えず、廉造は身体に回した手に力を入れる。
 ――俺が欲しいんは「家族同然」なんて言葉やない。俺を他の誰よりも欲しがって欲しいんや。
 もし廉造が、祓魔塾も、明陀も辞めると言ったら、絶対行くなと言って欲しかった。他の誰が居なくても、お前だけは居なくなるなと、そこまで言って欲しいのだ。
 今までは明陀に生まれた者の宿命だと、勝呂の傍で、勝呂のために明陀を盛り立てて行くのだと信じていた。勝呂に対する気持ちに気付いてからも、何よりも傍にいるための良い理由だと思っていた。そんな気持ちに変化が生じたのは、勝呂が京都を出て正十字学園に行くと言い始めてからだ。当然のように廉造も正十字学園へ行くことに決まった。嬉しくないわけはなかった。だが、自分の行く末どころか気持ちすらも親や周りが決めたレールの上を走らされるのだと思ったら、なんだか堪らなくなった。
 ――明陀の志摩廉造なんて嫌なんや。
 だが、そんなことを目の前の少年に伝えられるワケがない。
 ――座主血統やで。それも、寺を建て直そ思うてはる。
 今だって大変だろう。しかし、学校を卒業して、祓魔師になって。これからの方がもっともっと大変な日々を過ごしていかなければならない。正十字騎士團にするりと馴染んだ明陀の組織の一員として働きながら、寺を再興しようとするのは相当大変だろう。
 ――そんなワガママ、言われへんやろ。
 自分の気持ちを持て余している。だからと言って目の前の少年に打ち明ければ、困らせることになる。勝呂に負担をかけるのも本意ではなかった。となれば、自分が消えてしまえば良いのではないか。学校も、祓魔塾も、明陀からも。そう思い詰めてしまうと、もう勉強など意味があるようには思えなかった。
 勝呂が廉造の頭をくしゃりと撫でる。
「…お前、祓魔塾辞めたいんか?…明陀も…辞めるんか?」
 何かしらおかしいと思っていてくれたのか、それとも態度が彼の言うようにあからさまだったのか。だが、廉造の本当の気持ちなど判っては居ないだろう。
「いや…、えと、あの…」
 言い訳など思い浮かばない。こうなると、顔を見られない状態で良かったと思う。
「許さへんぞ」
 ごつん、と廉造の頭に拳骨をくれる。
「俺と、お前と、子猫と。三人で明陀守るんや。明陀に生まれたモンの宿命や。否やは聞かんで」
 ――フラレたんやろか。
 廉造はもう一つ勝呂の身体を抱く手に力を入れる。ジョギングと筋トレで鍛えたがっちりした身体は、廉造が全体重をかけても揺らぎそうにない。
 彼の心もまたそうなのだろう。固い決意で地面にしっかり足を下ろして立っている。廉造の不埒な気持ち程度ではふらりともしないのだろう。
 ――なにしてんのやろ。俺、カッコワル…。
「なんや、勉強そぞろになっとるみたいやけど」
 聞いとるんか?と勝呂がもう一つ頭を撫でる。
「他にどうしたいんか知れんけど、仕方ない思うて諦めぇ。明陀にお前がおらんようになるんは、許さん」
 決められたレールの上を走れ、と言う勝呂の言葉はもういっそ気持ち良いくらいだ。
 ――ホンマ、変態やで。前向きな変態て、どんだけやねん。
「だから…」
 ぼそぼそと尻すぼみに何事かを呟いた。
「坊?」
 顔真っ赤にして、勝呂が目線を逸らせながら、口をパクパクさせる。
「どないしはったんです…?」
 ふと、一つの思いが沸きあがる。
 そんな都合の良いことがあって良いのだろうか。勝呂の目線があちこちを彷徨うように、廉造の心も揺れる。
 ――ちくしょう、それでも好きなんや。
 覗きこむように顔を近づけて、そのまま唇を寄せた。一瞬勝呂の体が硬直する。が、おずおずと廉造の背中に手を回して、ぎこちなくだが廉造に応える。その手が震えているのが愛おしかった。


「坊、なんて言わはったんですか?」
「なんでもあれへん」
 廉造の手が腰に回ったまま、勝呂が真っ赤になりながら答える。
 想いは通じたのだと思う。それでも多少の罪悪感が廉造をちくりと責める。
「なんや、さっきまでとは随分違うやないか」
 真っ赤になる勝呂を面白がるような廉造を見て、少し不機嫌な顔になる。
 そんな顔も好きだ。
「…さっさと帰るで。流石に眠いわ」
「添い寝してくれます?」
「なに寝惚けたこと言うてんのや」
「あ、なしてそないないけず言わはるんです?好きな人と一緒に居りたいんは自然なことでしょ?」
 途端に、勝呂が硬直する。
「お前…、そないなこと…、はっきり…」
 しどろもどろに慌てる勝呂は、次の瞬間きっと廉造を睨みつける。
「恥ずかしいこと言うなや!子猫だっておるやないか…」
「大丈夫ですよ、気付かれるようなヘマはしまへん」
「……お前、バレバレやったぞ…」
「そないに俺のこと見ててくれはったんでっか?」
 志摩のからかうような言葉に勝呂は更に顔を赤く染める。
 ――いつか、こんな日も壊れてまうかも知れん。それでも。
 逃げてしまいたい、なんて気持ちは無くなっていた。
 いつまでもどこまでも、勝呂の傍に居たかった。
「一緒に明陀守るんや。腹ァ括りぃ」
「仕方あれへん。括ったりますよ」
 勝呂が照れたように頬を染めてにやりとすると、ごつん、と廉造の頭を小突いた。
作品名:My bliss 作家名:せんり