百井さん妄想1,000本ノック
後編
玄関を開けると、バスタオルと寝巻きを胸に抱えた百井が顔を真っ赤にして立っていた。
「ど、どうしたんですか、百井さん」
「あの、吉野さん、お疲れのところすみません。お願いがあるんですが」
バスタオルに半分顔を隠しながら
「実は、ガスを止められてしまって。シャワーを貸して貰えませんか」
「ああー、どうぞどうぞ」
吉野は自分も滞納して止められた経験があったので、喜んで百井を部屋に招きいれた。
「お邪魔します」
百井はおずおずと部屋へと上がる。
「すごく片付いてるんですね……あ」
ヴィーナス・セイバーのフィギュアを見付けて、思わず声を上げる。
「いや、あの、散らかっててちょっと恥ずかしいです」
「ごめんなさい、突然お邪魔して、こんな」
「いいんですいいんです。あの、実は、いつ来てもらってもいいように……えへ」
吉野が頭をかきながら、照れくさそうに笑って伝えると、百井もにこりと笑みを返した。
「……あ、シャワーですよね、こっちです」
照れを隠しながら、吉野はユニットバスを案内しようとした。
「ふふ、私の部屋も同じレイアウトですから大丈夫ですよ」
「あ、そっか。同じアパートだもんな」
「そうですね、でも……」
百井は吉野のシャツの裾を摘んだ。
「もし、分からないことがあったら困りますから、一緒に入りませんか」
暗くなった部屋の中で、点けっ放しになっているPCのモニターだけが煌々と光を放っている。
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作品名:百井さん妄想1,000本ノック 作家名:碇シンヂ