マフラー彼氏
冷たい風が吹いて、おもわず体を震わせた。
最近になって気温もぐっと下がり、風も随分と冷たいものになってきた。
赤々と色付いていた木々も、寒そうにその身を震わせ、色褪せつつある葉を落としていく。
体が冷えてきたのを感じて手をすりあわせれば、自分でも驚くほど冷たくなっていて、スズの塔に背を向けた。
スズの塔の入り口を管理している坊主たちになぜか非難がましい視線を向けられて首を傾げた。
確かに時間は遅いかもしれないが、いつもとあまり変わらない時間のはずだ。そんなに非難がましい視線で見られなくてはいけない理由が思いつかない。
しかし坊主たちのその視線の理由は、敷居を跨いだところですぐにわかった。
「あ、マツバさん」
「まさかとは思うけど、待ってたのかい?」
「ん・・・まあ」
僕を見上げる彼女は、マフラーもせず、何かを両手で包むように持って出入り口のすぐ横に蹲っている。
鼻や頬が少し赤くなっていて、長い時間を外で過ごしていたことを表していた。少し眉をしかめてしまったのはしょうがないことだと思う。
あの坊主たちの視線は、女の子をひとりでこんな時間まで、しかも外で待たせておくなんて、という視線だったんだろう。そう思うなら、中にいれてやればいいものを。
「どうして中に入らなかったんだい?」
「えー・・・なんとなく、入りずらかったんですよ。皆さんの邪魔になるかもしれませんし」
「・・・次からは、待つなら入って待つこと」
「はーい」
にへら、と笑っているその額を軽く小突けば、あう、と言いながら少しよろけて、体勢を直しながら立ち上がった。
そのときに、手に持っているタッパーが見えて、思わずそれ、と呟いた。
「あ、そうそう。今日、私が煮物作ったんだけど、どうせならマツバさんに届けてあげなさいってお母さんが。どうせろくなもの食べてないだろうからって」
「僕の家で待つなり、置いていくなりすればよかったのに。合鍵、持ってるだろ?」
「や、どうせなら迎えに行ってあげようと思って・・・・」
まあ、こんなに待つことになるとは思わなかったけど、と軽く肩をすくめる。
僕は軽くため息をついて、自分の巻いていたマフラーを彼女の首に回した。
いいよ、という言葉を遮って、いいから、と言う。
家までそんなにないとはいえ、首もとがあまりに寒そうだったから、という小さなお節介。
帰ろうか、と手を差し出せば、タッパーを包むように持っていた手を僕の手とつないだ。
温かい煮物を持っていたその手は寒そうな見た目とは真逆に暖かくて、僕の手の冷たさを和らげた。小さく、つめたっ、という声が聞こえたけれど、無視をした。
冷たい手と暖かい手が、だんだんと同じ温度に溶け合って、やけに心地よかった。
多分同じことを考えただろう彼女は僕のマフラーに顔を埋めて、耳を真っ赤にさせていた。
それが寒さ故ではないことを感じた僕は、ふふ、と小さく笑った。
マフラー彼氏 マツバの場合